「重症クローン病患者に対するタクロリムス治療」に向けての臨床試験の実施に関する研究

文献情報

文献番号
201015025A
報告書区分
総括
研究課題名
「重症クローン病患者に対するタクロリムス治療」に向けての臨床試験の実施に関する研究
課題番号
H20-臨床研究・一般-016
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 勉(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 和一(関西医科大学 内科学第三講座)
  • 八隅 秀二郎((財)田附興風会医学研究所)
  • 仲瀬 裕志(京都大学 医学研究科)
  • 佐藤 俊哉(京都大学 医学研究科)
  • 松田 文彦(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
40,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
クローン病(CD)は難治性炎症性腸疾患で、わが国でも急増しつつあるが、保険適応薬剤に抵抗性の重症例が多く大きな問題となっている。タクロリムスはわが国で開発された免疫抑制剤で、最近潰瘍性大腸炎に対して保険適応承認が得られた。しかしCDについては、その効果が期待されながら、患者数が少ないなどの理由で臨床治験の計画はない。そこで本研究では、タクロリムスの保険適応承認を最終目標として、「重症CD患者に対するタクロリムス治療」の臨床試験を実施し、治療効果について質の高いエビデンスを得ることを目的とした。
研究方法
1.既存の内科治療によっても緩解導入及び維持が困難なCD患者で、かつCDAIが220以上の患者80例に対して、実薬投与群、プラセボ投与群のいずれかに無作為に割つけた。
2.投与開始2,4週間後に評価し、CDAIが70点以上減少した例を「有効」、150点以下となった症例を「緩解」とした。また投与前、投与後8,16週で内視鏡検査をおこない、内視鏡的、病理学的重症度を判定した。
3.同時に瘻孔、狭窄、痔瘻などの臨床型に分けて治療成績を比較した。
結果と考察
1.2009年4月から本試験を開始した。2011年3月の時点での試験登録患者数は11人であり、8人までが試験を終了することができている。
2.11名の平均年齢38(30-46)歳, 男性6、女性5名、大腸型5人、小腸大腸型6人であった。治療前の平均CDAI 302(221-440)であった。試験経過中明らかな有害事象は認められなかった。
3.CD患者238例について検体および臨床情報の収集をおこなった。
4.目標症例数80例に対して、登録症例11例と、臨床試験の進行が遅れているが、原因として当初の研究開始が遅れたことに伴って(追加採択)、倫理委員会への申請の提出、承認が遅れたことが上げられる。さらに、本試験が難治性で重症のクローン病患者を対象としているために、プラセボ群にあたることに対する患者の不安が強く、かつタクロリムスの有効性についてすでに比較的知れ渡っているために、適応患者の多くが、無作為二重盲検試験へのエントリーを希望しなかった点があげられる。
結論
1.「重症CD患者に対するタクロリムス治療」の臨床試験をおこない、11症例について登録を完了し、8例の試験を終了した。
2.試験中、大きな副作用は経験しなかった。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201015025B
報告書区分
総合
研究課題名
「重症クローン病患者に対するタクロリムス治療」に向けての臨床試験の実施に関する研究
課題番号
H20-臨床研究・一般-016
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 勉(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 和一(関西医科大学 内科学第三講座)
  • 八隅 秀二郎((財)田附興風会医学研究所)
  • 仲瀬 裕志(京都大学 医学研究科)
  • 佐藤 俊哉(京都大学 医学研究科)
  • 松田 文彦(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症クローン病(CD)に対するタクロリムスの保険適応承認を最終目標として、「重症CD患者に対するタクロリムス治療」の臨床試験を実施し、治療効果について質の高いエビデンスを得ることを目的とした。
研究方法
1.本試験の開始が遅れたために、25例の難治性CD患者を対象に、パイロットスタデイをおこなった。
2.平成21年4月より本試験を開始した。既存の内科治療によっても緩解導入及び維持が困難なCD患者で、かつCDAIが220以上の患者80例を目標として、実薬投与群、プラセボ投与群のいずれかに無作為に割つけた。
3.投与開始4週間後に、CDAIが70点以上減少した例を「有効」、150点以下となった症例を「緩解」とした。
結果と考察
1.パイロットスタデイで、高トラフ群の有効例8/8 (100%)、また緩解例7/8 (87.5%)と、ともに高トラフ群で最も高い効果がえられた。
2.2009年4月から本試験を開始した。2011年3月の時点での試験登録患者数は11人、8人までが試験を終了することができている。
3.平均年齢38(30-46)歳、男性6、女性5名、大腸型5人、小腸大腸型6人であった。治療前の平均CDAI 302(221-440)であった。試験経過中明らかな有害事象は認められなかった。
4.CD患者238例について検体および臨床情報の収集をおこなった。
5.目標症例数80例に対して、登録症例11例と、臨床試験の進行が遅れているが、原因として当初の研究開始が遅れたことに伴って(追加採択)、倫理委員会への申請の提出、承認が遅れたことが上げられる。さらに、本試験が難治性で重症のクローン病患者を対象としているために、プラセボ群にあたることに対する患者の不安が強く、かつタクロリムスの有効性についてすでに比較的知れ渡っているために、適応患者の多くが、無作為二重盲検試験へのエントリーを希望しなかった点があげられる。
結論
1.「重症CD患者に対するタクロリムス治療」の臨床試験について、「京都大学医の倫理委員会」の承認を得た。
2.パイロットスタデイをおこない、高トラフ群において、優れた効果を確認した。また大きな副作用は認めなかった。
3.上記パイロット試験の後、本試験を開始し、11症例について登録を完了し、8例の試験を終了した。
4.試験中、大きな副作用は経験しなかった。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201015025C

成果

専門的・学術的観点からの成果
タクロリムスの免疫抑制効果は主としてTリンパ球のNFATを抑制することによりその機能を抑制することによるとされている。今回の臨床試験(パイロット試験、本試験)によって、難治性のクローン病に対する優れた効果が認められたことから、タクロリムスがT細胞のみならず、マクロファージに対しても、免疫抑制効果がある可能性が示された。このことはタクロリムスの薬理作用を考える上で非常に重要な要素であり、今後の薬剤使用法に大きく影響すると思われる。
臨床的観点からの成果
今回の臨床試験(パイロット試験、本試験)で、難治性のクローン病に対するタクロリムスの優れた効果が示されたことから、保険適応はいまだなされていないものの、難治性クローン病に対する治療法の進展に大きく関与できたと考えられる。欧米ではすでに本疾患に対するタクロリムスの効果は認知されているが、わが国でも欧米と同じスタンダードの治療法として、保健承認が期待される。
ガイドライン等の開発
わが国では難治性クローン病に対するタクロリムス使用のガイドラインは未だにない。一方欧米では、最近の総説論文(Ng SC, et al. APT 33:417-427:2011)において、難治性クローン病に対するタクロリムスの使用が記載されており、その際、当研究者らの論文が引用されている。
その他行政的観点からの成果
今回の研究について、本試験については現在継続中であり、80例の症例の試験が終了した段階で、試験結果を解析する予定である。本試験の結果、タクロリムスの優れた効果が確認できれば、その結果を国内国際学会に発表し、また国際誌に投稿する。同時に学会などをとおして保健承認に向けて活動をおこなう。さらに薬品メーカーにも治験の開始を働きかける。
その他のインパクト
タクロリムスはわが国で開発された優れた免疫抑制剤であり、すでに肝臓移植やリューマチなどの治療薬として国際的な評価を受けて、特に肝臓移植では第一選択薬として使用されている。今回の研究で、難治性クローン病に対しても優れた効果が認められたことは、わが国発信の薬剤の効果をさらに強調することとなり、その意義は非常に大きい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
33件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsumoto T, Chiba T, Hibi T, et al.
Therapeutic efficacy of infliximab on patients with short duration of Crohn’s disease: A Japanese multicenter survey.
Dis Colon Rectum , 51 , 916-923  (2008)
原著論文2
Uza N, Nakase H, Chiba T, et al.
The effect of medical treatment on patients with fistuklizing Crohn's disease: our experience with a retrospective study.
Intern Med , 47 , 193-199  (2008)
原著論文3
Yamamoto S, Nakase H, Chiba T, et al.
Long-term effect of tacrolimus therapy in patients with refractory ulcerative colitis.
Aliment Pharmacol Therapeutics , 28 , 589-597  (2008)
原著論文4
Tamaki H, Nakase H, Chiba T, et al.
The effect of tacrolimus (FK-506) on Japanese patients with refractory Crohn’s disease.
J Gastroenterol , 43 , 774-779  (2008)
原著論文5
Matsumura K, Nakase H, Chiba T, et al.
Modulation of the Th1/Th2 balance by infliximab improves hyperthyroidism associated with flare-up of ulcerative colitis.
Inflamm Bowel Dis , 15 , 967-968  (2009)
原著論文6
Takeda Y, Nakase H, Chiba T.
Up-regulation of T-bet and tight junction molecules by Bifidobactrium longum improves colonic inflammation of ulcerative colitis.
Inflamm Bowel Dis , 15 , 1617-1618  (2009)
原著論文7
Inoue S, Nakase H, Chiba T, et al.
The effect of proteasome inhibitor MG-132 on experimental inflammatory bowel disease.
Clin Exp Immunol , 156 , 172-182  (2009)
原著論文8
Nakase H, Mikami S, Chiba T
Alteration of CXCR4 expression and Th1/Th2 balance of peripheral CD4 positive T cells can be a biomarker for leukocytapheresis therapy for patients with refractory ulcerative colitis.
Inflamm Bowel Dis , 15 , 963-964  (2009)
原著論文9
Matsumura K, Nakase H, Chiba T
Efficacy of Oral Tacrolimus on Inetestinal Behcet’s Disease.
Inflamm Bowel Dis , 16 , 188-189  (2010)
原著論文10
Akitake R, Nakase H, Chiba T, et al.
Modulation of Th1/Th2 balance by Infliximab Rescues Postoperative Occurrence of Small-Intestinal Inflammation Associated with Ulcerative Colitis.
Dig Dis Sci , 55 , 1781-1784  (2010)
原著論文11
Yamamoto S, Nakase H, Chiba T, et al.
Efficacy and safty of infliximab as rescue therapy for ulcerative colitis refractory to tacrolimus.
J Gastroenterol Hepatol , 25 , 886-891  (2010)
原著論文12
Nakase H, Chiba T, Narumiya S, et al.
Effect of EP4 agonist (ONO-4819CD) for patients with mild to moderate ulcerative colitis refractory to 5-aminosalicylates: A randomized phase 2, placebo-controlled trial.
Inflamm Bowel Dis , 16 , 731-733  (2010)
原著論文13
Honzawa Y, Nakase H, Chiba T, et al.
Heat shock protein 47 can be a new target molecule for intestinal fibrosis related to inflammatory bowel disease.
Inflamm Bowel Dis , 16 , 2004-2006  (2010)
原著論文14
Yamamoto S, Nakase H, Chiba T.
Oral Tacrolimus (FK506) in refractory paediatric colitis.
Aliment Pharmacol Therapeutics , 31 , 677-678  (2010)
原著論文15
Nakase H, Yoshino T, Chiba T, et al.
Low Prevalence of CMV Infection in Patients with Crohn’s Disease in Comparison with Ulcerative colitis-Effect of different immune response on prevalence of CMV infection-
Dig Dis Sci , 55 , 1498-1499  (2010)
原著論文16
Nakase H, Yamamoto S, Chiba T, et al.
Cytomegalovirus affects clinical outcome of infliximab therapy on patients with ulcerative colitis refractory to tacrolimus.
Aliment Pharmacol Therapeutics , 32 , 510-511  (2010)
原著論文17
Yoshino T, Nakase H, Chiba T, et al.
Immunosuppressive effects of tacrolimus on macrophages ameliorate experimental colitis.
Inflamm Bowel Dis , 16 , 2022-2033  (2010)
原著論文18
Nakase H, Yamamoto S, Chiba T, et al.
Tacrolimus: rescue therapy or experimental for severe ulcerative colitis?
Aliment Pharmacol Therapeutics , 33 , 413-414  (2011)
原著論文19
Honzawa Y, Nakase H, Chiba T, et al.
Clinical significance of serum diamine oxidase activity in inflammatory bowel disease. -importance of evaluation of small intestinal permeability-
Inflamm Bowel Dis , 17 , 23-25  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201015025Z