我が国における生物的ハザードとそのリスク要因に応じた規格基準策定のための研究

文献情報

文献番号
202428001A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における生物的ハザードとそのリスク要因に応じた規格基準策定のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第二室)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 百瀬 愛佳(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 山崎 栄樹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 小関 成樹(北海道大学大学院 農学研究院)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
10,882,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国に設定されている食品中の微生物規格の多くは、昭和34年に制定された厚生省告示第370号「食品、添加物等の規格基準」に基づいており、食品とその衛生を取り巻く状況が大きく変化した現在においてもそれらが科学的に妥当か否かの検証が必要とされている。特に令和3年のHACCP完全制度化に伴い、そうざい、漬物等の衛生規範が廃止される等、各種食品製造工程における衛生管理はそれ以前と大きく異なっている。また食品の製造工程での衛生管理については、令和2年6月より「HACCPに沿った衛生管理」が全ての食品等事業者を対象に施行された。HACCPに沿った衛生管理は多くの国々で既に運用され、国際整合性を確保する上で重要な課題であることは周知の通りである。一方、Codex委員会が求める食品衛生の体系には衛生規範と微生物規格基準があり、後者については食品衛生法一部改正時に特段の改定は行われておらず、衛生状況が相対的に良好ではなかった戦後当時に設定された内容が多くを占めている。多くの国々ではHACCPと微生物規格基準を組み合わせることで食品の生物的ハザードの管理を実施しており、我が国でも現状に即した微生物規格基準について検討を進めることは、微生物リスク管理の国際調和を進展させる上で不可欠かつ喫緊の課題である。一例として、国内の微生物規格基準では細菌数と大腸菌群を基本とし、直接的な危害要因である病原微生物を対象とする食品はごく一部に留まっているが、欧州等では多くの食品に対して病原微生物を成分規格に設定することが一般化している。本研究は、食品の生物的ハザード、国内外での食品衛生の体系比較や規格基準の設定状況、国内流通食品における微生物汚染実態に関する知見の取得等を行い、それらを整理・分析することで、我が国の食品のリスク要因に応じた規格基準の在り方について国際整合性を踏まえて検討することを目的とした
研究方法
生物的ハザードおよびそのリスク要因を対象とした情報収集の一環として、海外での生鮮野菜・生鮮果実に関連した食中毒アウトブレイク事例および海外での生鮮野菜・生鮮果実・ナッツ類の微生物汚染について調査した。市販の野菜浅漬け類88製品におけるリステリア・モノサイトゲネスの汚染実態調査を実施した。アイスクリームの副原料として利用される果物に対する次亜塩素酸ナトリウムを用いた適切な殺菌方法および殺菌効果の評価方法について検討する目的で、次亜塩素酸ナトリウムを用いた殺菌過程における有効塩素濃度変化と生菌数変化について検証を行った。日本国内における市販アイスクリームの一般生菌数データの分布を用いて、比較的低汚染菌数の3階級のサンプリングプランの策定を行なった。
結果と考察
米国CDCは2016〜2024年に発生した複数州食中毒アウトブレイクとして生鮮野菜類関連29件、生鮮果実類関連14件を記載している。生鮮野菜類関連の複数州食中毒アウトブレイクについて、原因食品として最も多かったのはスプラウト(6件)で、病因物質として最も多かったのはサルモネラ(11件)であった。生鮮果実類関連の複数州食中毒アウトブレイクでは、原因食品として最も多かったのはパパイア(5件)で、病因物質として最も多かったのはサルモネラ(10件)であった。2023、2024の2年間に通知されたRASFF新規通知(微生物汚染、食品カテゴリー別)の解析により、最も多く見られた食品は、生鮮野菜類ではスプラウト、生鮮果実類ではブルーベリーとブラックベリー、そしてナッツ類ではピスタチオとクルミであることがわかった。また最も多く見られた汚染微生物は、生鮮野菜類とナッツ類ではサルモネラ、生鮮果実類ではノロウイルスであった。茄子の浅漬け20検体中1検体(陽性率5.0%)及び白菜の浅漬け13検体中1検体(同7.7%)からリステリア・モノサイトゲネスが分離された。汚染菌量はいずれも定量下限値(10 cfu/g)未満であった。ミックス漬け21検体、蕪及び大根の浅漬け10検体、キャベツ浅漬け10検体及びキュウリの浅漬け14検体からは、リステリア・モノサイトゲネスは分離されなかった。次亜塩素酸ナトリウム処理過程における有効塩素濃度の減少度は対象となる果物種によって大きく異なることが明らかとなった。微生物リスク分析に関する研究では必要なロット合格率等の入力情報から、必要最低限のサンプル数の推定が可能であることを確認した。
結論
リステリア症感染のリスクをより低減するために製造工程の衛生管理向上等によって汚染率を下げることが望ましいと考えられた。次亜塩素酸ナトリウムを用いた殺菌方法を利用する際に、原材料等の製品特性を勘案しつつ、製造基準と成分規格を組み合わせた管理が必要であることが示唆された。検討したサンプリングプラン作成ツールは、実効性あるプランの作成に有効であった。

公開日・更新日

公開日
2025-10-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-10-07
更新日
-

文献情報

文献番号
202428001B
報告書区分
総合
研究課題名
我が国における生物的ハザードとそのリスク要因に応じた規格基準策定のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第二室)
研究分担者(所属機関)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 佐々木 貴正(帯広畜産大学 獣医学ユニット)
  • 百瀬 愛佳(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 山崎 栄樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 小関 成樹(北海道大学大学院 農学研究院)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国に設定されている食品中の微生物規格の多くは、昭和34年に制定された厚生省告示第370号「食品、添加物等の規格基準」に基づいており、食品とその衛生を取り巻く状況が大きく変化した現在においてもそれらが科学的に妥当か否かの検証が必要とされている。特に令和3年のHACCP完全制度化に伴い、そうざい、漬物等の衛生規範が廃止される等、各種食品製造工程における衛生管理はそれ以前と大きく異なっている。また食品の製造工程での衛生管理については、令和2年6月より「HACCPに沿った衛生管理」が全ての食品等事業者を対象に施行された。HACCPに沿った衛生管理は多くの国々で既に運用され、国際整合性を確保する上で重要な課題である。一方、Codex委員会が求める食品衛生の体系には衛生規範と微生物規格基準があり、後者については食品衛生法一部改正時に特段の改定は行われておらず、衛生状況が相対的に良好ではなかった戦後当時に設定された内容が多くを占めている。多くの国々ではHACCPと微生物規格基準を組み合わせることで食品の生物的ハザードの管理を実施しており、我が国でも現状に即した微生物規格基準について検討を進めることは、微生物リスク管理の国際調和を進展させる上で不可欠である。食品の生物的ハザード、国内外での食品衛生の体系比較や規格基準の設定状況、国内流通食品における微生物汚染実態に関する知見の取得等を行い、それらを整理・分析することで、我が国の食品のリスク要因に応じた規格基準の在り方について国際整合性を踏まえて検討することを目的とした。
研究方法
生鮮野菜・果物・食肉加工食品等に関する国内外の規格基準、健康被害報告、汚染実態に関する情報収集を行なった。現在微生物規格基準を有しない食品群について、衛生を管理するための微生物規格基準設定の必要性を検討するための基礎知見の集積を図った。市販の野菜浅漬け類88製品におけるリステリア・モノサイトゲネスの汚染実態調査を実施した。アイスクリームの副原料として利用される果物に対する次亜塩素酸ナトリウムを用いた殺菌過程における有効塩素濃度変化と生菌数変化について検証を行った。市販牛乳およびアイスクリームの一般生菌数データの分布を用いてサンプリングプラン検討ソフトウェアを用いてサンプリングプランの策定を行なった。
結果と考察
欧米ではサルモネラ属菌がカンタロープメロン、マンゴー、パパイヤ、ナッツ等の多様な果実類による食中毒の病因物質となっており、ノロウイルスおよびA型肝炎ウイルスは冷凍ベリー類・イチゴによる食中毒の主要な病因物質であった。欧州での食品汚染による回収情報では最も多く見られた食品は、生鮮野菜類ではスプラウト、生鮮果実類ではブルーベリーとブラックベリー、そしてナッツ類ではピスタチオとクルミであることがわかった。最も多く見られた汚染微生物は、生鮮野菜類とナッツ類ではサルモネラ、生鮮果実類ではノロウイルスであった。市販の野菜浅漬け類の調査では茄子の浅漬け20検体中1検体(陽性率5.0%)及び白菜の浅漬け13検体中1検体(同7.7%)からリステリア・モノサイトゲネスが分離された。次亜塩素酸ナトリウム処理過程における有効塩素濃度の減少度は対象となる果物種によって大きく異なることが明らかとなった。加えて、生菌数を指標とした殺菌効果の検証においても、果物種によって殺菌効果が大きく異なる事が明らかとなった。サンプリングプランの策定では必要なロット合格率等の入力情報から、必要最低限のサンプル数の推定が可能であることを確認した。さらに、ソフトウェアの感度分析機能を用いることで、種々の入力パラメータの影響を検討できることを確認した。
結論
市販されるカット果実については、加工から流通過程での衛生管理が最も重要であると考えられ、国内だけでなく海外における食中毒発生状況および微生物汚染状況もリアルタイムで注視していく必要があると考えられた。陽性検体のリステリア汚染菌量が低かったことから、浅漬け類による健康成人におけるリステリア症感染リスクは、他の食品と比較して高くはないと推察されたが、よりリスクを低減するために製造工程の衛生管理の向上等によって本菌の汚染率を下げることが望ましいと考えられた次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌においては、原材料等の特性を勘案しつつ、製造基準と成分規格を組み合わせた慎重な管理が必要であることを示された。本研究により食品の生物的ハザード、国内外での食品衛生の体系比較や規格基準の設定状況、国内流通食品における微生物汚染実態に関する知見が得られ、我が国の食品のリスク要因に応じた規格基準の在り方について国際整合性を踏まえて今後検討するための基礎データの取得が引き続き必要なことが確認された。

公開日・更新日

公開日
2025-10-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202428001C

収支報告書

文献番号
202428001Z