保健所ならびに市町村保健センター間の情報連携を見据えたデジタル化推進に関する研究

文献情報

文献番号
202426003A
報告書区分
総括
研究課題名
保健所ならびに市町村保健センター間の情報連携を見据えたデジタル化推進に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23LA2001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
増野 園惠(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神原 咲子(神戸市看護大学 看護学部)
  • 菊池 宏幸(東京医科大学 公衆衛生学分野)
  • 大島 裕明(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 情報科学研究科)
  • 林 知里(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
  • 本田 順子(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
  • 石井 美由紀(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 看護学部)
  • 坂下 玲子(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 看護学部)
  • 浦川 豪(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 減災復興政策研究科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
6,210,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、地域保健活動のデジタル化推進の現状と阻害要因を明らかにするとともに、保健所・市町村保健センターにおける効果的・効率的な情報連携を進め保健行政のデジタル化および地域保健活動におけるDX推進に資する具体的な資料を作成することを目的とした。
研究方法
令和6年度は2か年計画の2年目として、初年度に得られた知見をもとに、さらに多面的な調査と分析を実施した。具体的には、市町村の先進的取組に関するヒアリング調査(5施設)、保健所・市町村保健センター等の職員597名を対象としたDXリテラシー調査、都道府県のDX推進計画における保健所業務の記載状況のレビュー、新聞記事データを用いた自然言語処理による課題抽出分析を行った。
そして、先行文献・資料のレビューで得られた知見ならびに初年度の研究結果とこれらの結果を統合し、地域保健活動におけるDX推進ステップ表を作成し、研究者らによる議論を重ねてそれを精錬した。
結果と考察
ヒアリング調査では、ICTの活用により業務の効率化や迅速な情報共有が進みつつある事例が確認された。たとえば、児童虐待対応や予防接種予約の電子化、GISを用いた災害時支援など、現場に応じた多様な工夫が見られた。一方で、システム間の分断やITスキルのばらつきにより、一部の業務が特定職員に集中するなどの負担増も報告された。住民側のデジタルディバイドへの配慮や、予算・人材不足の課題に直面していることが示された。また、顔の見える関係の構築や部門横断的な連携が円滑な自治体では、DXの円滑な進展が確認された点も重要である。
DXリテラシー調査(有効回答597件)では、DXリテラシーの肯定的回答は4~5割にとどまり、「どちらともいえない」の回答が多く、意識のばらつきが明らかとなった。職種別に見ると、保健師は比較的高いスコアを示したが、事務職や都道府県勤務者は低調で、特にクラウド技術などの技術的知識の理解が弱かった。職場環境が「取組の積極性」や「進捗認識」を通じて、DXリテラシーに強い影響を及ぼすことが重回帰分析で示され、技術だけでなく、組織文化やリーダーシップの重要性が示唆された。
都道府県DX計画のレビューでは、11府県中4都県が保健所業務の具体的DX化施策を記載していたものの、多くは抽象的な表現や計画上の「空白」が目立ち、地域保健分野のDX推進が計画段階から十分に位置づけられていないことが課題として浮かび上がった。
新聞記事分析では、COVID-19以降、保健所関連報道が急増し、住民からの期待と関心が高まる一方で、業務のアナログ性や属人化、情報共有の課題、住民対応面の課題などが明らかになった。特に、大規模言語モデルによる要約結果から、「業務運用」「人材・文化」「技術」「制度」「住民対応」の5領域が、地域保健DX推進の多層的課題として整理された。
一連の調査結果を統合し、先行文献等を踏まえてDX推進ステップ表の骨子を作成した。ステップ表は「基盤整備」「実行性強化」「ソリューション導入・展開」「継続改善と文化定着」の4段階で構築し、各段階では、非物質的要素(リーダーシップや組織文化)、物質的要素(インフラ整備)、人的要素(人材育成)、住民視点のデジタルディバイド対応など、多角的な視点を組み込んだ。ステップ1・2ではビジョン共有や業務フロー見直し、組織体制の構築が鍵となり、ステップ3以降では市民参加型サービス展開や成果の共有、イノベーションの継続が焦点となる。
DX推進ステップ表と共に、デジタル化・DX推進事例集を作成し、保健所・市町村保健センター等でのDX推進に活用できるようにした。
地域保健分野のデジタル化・DX推進は、単なる技術導入にとどまらず、住民との信頼関係を基盤にした包括的な変革を目指すことが重要である。デジタル化・DXの推進を、業務の効率化だけでなく、地域保健の質向上や持続可能な健康危機管理体制の構築に直結する重要な戦略課題として位置づけ取り組む必要がある。
結論
本研究は、地域保健分野におけるDX推進のための段階的な枠組みとして「DX推進ステップ表」を開発した。これは、ヒアリング・全国調査・記事分析・計画レビュー・国内外事例分析など、多面的な調査に基づく現場課題と理論的知見を統合し、現実的かつ実践的な指針として体系化したものである。今後は、各自治体における自己評価や研修、人材育成の基盤として活用されることが期待される。同時に、導入後の継続的改善や地域間の事例共有を通じ、地域保健における持続可能なDX推進の道筋を描く共通基盤として活かされるべきである。さらに、ステップ表は各自治体の状況に応じて柔軟に適応されることが望まれ、今後の実証的な運用・評価によって、より一層のブラッシュアップが必要である。これにより、住民に寄り添う地域保健の在り方の変革が進むことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-10-27
更新日
-

文献情報

文献番号
202426003B
報告書区分
総合
研究課題名
保健所ならびに市町村保健センター間の情報連携を見据えたデジタル化推進に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23LA2001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
増野 園惠(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 林 知里(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
  • 本田 順子(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
  • 坂下 玲子(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 看護学部)
  • 石井 美由紀(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 看護学部)
  • 大島 裕明(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 情報科学研究科)
  • 浦川 豪(兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 減災復興政策研究科)
  • 神原 咲子(神戸市看護大学 看護学部)
  • 菊池 宏幸(東京医科大学 公衆衛生学分野)
  • 毛利 好孝(姫路市保健所)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
COVID-19対応では、感染者・濃厚接触者の情報把握や対応に大きな混乱が生じ、その背景に保健活動の情報収集・集約と機関連携におけるデジタル化の遅れがあると指摘された。これまで、保健所や市町村保健センター等でのデジタル化・DX推進は急務とされてきたが、具体的な課題や推進方策は十分に明らかになっていない。そこで本研究は、地域保健活動のデジタル化推進の現状と課題を明らかにし、地域保健活動におけるデジタル化・DX推進を段階的かつ実効的に進めるための具体的な資料を作成することを目的とした。
研究方法
2年間にわたり、多角的な調査と検討を実施した。1年目(令和5年度)は、全国の保健所・市町村保健センターへの質問紙調査と、COVID-19対応に関するヒアリング調査を行い、現場でのデジタル化の現状や課題を把握した。加えて、災害対応や海外の先進事例の資料収集を行った。
2年目(令和6年度)は、市町村等でのDX取組事例のヒアリング、保健所・市町村保健センター等職員を対象としたDXリテラシー調査、都道府県DX推進計画のレビュー、新聞記事分析を行い、地域保健業務のデジタル化に関わる多層的な課題を抽出・分析した。さらに、これらの知見を基に、資料・文献レビューの結果を合わせてステップ表の試案を作成し、研究班内での検討を重ね内容を精錬し「地域保健活動DXステップ表」を完成させた
結果と考察
ヒアリング調査では、自治体間でデジタル化の進度に差があり、情報連携の困難さ、IT人材の不足、財政的・人的資源の制約など、共通の課題が明らかとなった。市町村保健センターでは、タブレットや電子母子手帳の活用など進展が見られたが、システム間連携や持続的な活用が課題であった。全国調査では、HER-SYSの完全活用は難しく、各地で独自の電子ファイル共有などで対応していた実態が示された。保健所と医療機関、市町村保健センターとの情報共有には電話やメールが多用されていたが、システム統合が不十分で情報の正確性確保に苦労していた。
DXリテラシー調査では、肯定的回答は半数程度で、特にクラウド等技術的理解が低い傾向が見られた。また、職場の取組姿勢がDXリテラシー向上に強く影響することが確認された。都道府県DX推進計画のレビューでは、保健所業務に具体的に言及したのは11府県中4府県にとどまり、計画段階から保健分野が十分に考慮されていない実態が判明した。新聞記事分析では、COVID-19以降、保健所業務の課題として「業務運用」「人材・文化」「技術」「制度」「住民対応」の5領域が抽出され、地域保健DX推進の包括的な課題構造が明らかになった。
加えて、ヒアリング調査や事例分析からは、現場の創意工夫や小規模な成功例が見えてきた。タブレット端末を活用した情報共有の迅速化や、災害対応時におけるGISの活用などは、自治体の自主的な取組の成果として示され、今後のDX推進において重要な足がかりとなる。さらに、IT専門家の確保や研修制度の整備など、現場を支える制度・人材基盤が不可欠であることも確認された。特に、各現場での職員間の協力や、異なる部局間での顔の見える連携体制の重要性が指摘されている。さらに、地域ごとの住民ニーズや課題を反映した柔軟な仕組みの整備も必要であることが示唆された。高齢者や外国人など、デジタル・ディバイドが生じやすい層への対応には、ICT活用と同時にアナログ支援の併用や住民参画の仕組みづくりが求められる。これらの知見は、単なるICT導入ではなく、地域保健DXを文化・制度面を含めた「総合的な変革」として位置づける重要な示唆となった。
これらの結果を統合し、最終的にDX推進を4段階(①基盤整備、②実行性強化、③導入・展開、④継続的改善)の進捗レベルと、各段階で必要な取組等を構成する4要素(ビジョン・戦略/人材・組織/業務・プロセス/テクノロジー基盤)からなるマトリクス構造で示した。また、4段階に横断的にかかわる視点としてデジタル・ディバイド対応を加えて「地域保健活動DX推進ステップ表」として完成させた。あわせて、地域保健活動の現場でデジタル化・DXを推進する際に活用できる、事例集を作成した。地域保健活動におけるデジタル化・DXを単なるICT導入にとどめず、文化・制度面を含めた総合的な変革として位置づけた。
結論
本研究は、COVID-19対応を契機に地域保健行政におけるDX推進の現状と課題を明らかにし、それに基づく「DX推進ステップ表」を作成した。これは、地域保健分野における段階的なDX推進の道筋を示し、自治体が自組織の現状を把握し段階的な改善に活用できる実践的なツールである。今後は、実際の自治体現場での試行・評価を通じてブラッシュアップを行い、地域の実情に応じた柔軟かつ持続可能なDX推進の基盤として発展させていくことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202426003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域保健活動のDX推進に関係する職員のDXリテラシーの実態とそれに影響を与える要因を定量的に明らかにした。調査のために作成した地域保健活動に関わる者のDXリテラシー測定尺度は、DXリテラシーを簡便に測定するツールとして、学術研究ならびに実践においても活用が可能である。
臨床的観点からの成果
地域保健分野におけるデジタル化・DX推進の到達状況を可視化し、各自治体が自らの課題を把握しながら段階的にデジタル化・DX推進を進めるために活用できる「地域保健活動DX推進ステップ表」を作成した。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
202426003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,073,000円
(2)補助金確定額
7,146,000円
差引額 [(1)-(2)]
927,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 316,976円
人件費・謝金 2,789,747円
旅費 301,195円
その他 1,875,188円
間接経費 1,863,000円
合計 7,146,106円

備考

備考
対面開催を計画していた研究会議等をオンラインで実施したこと、ヒアリング調査のための旅費が予定より安価ですんだことにより交通費が予定を下回った。
(自己資金:106円)

公開日・更新日

公開日
2025-09-30
更新日
-