ヒト抗原提示システムの包括的解析に基づくエイズワクチン戦略の再構築

文献情報

文献番号
201009004A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト抗原提示システムの包括的解析に基づくエイズワクチン戦略の再構築
課題番号
H20-政策創薬・一般-006
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
上野 貴将(国立大学法人 熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木 令江(国立大学法人 熊本大学大学院 生命科学研究部)
  • 熊谷 泉(国立大学法人 東北大学大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
15,792,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト感染免疫系に関する基盤情報は非常に限られており、エイズワクチン開発の障壁となっている。我々は、新たな蛋白化学的アプローチにより、ヒトのHIV感染に伴って提示される細胞傷害性T細胞(CTL)抗原の解析方法の立ち上げと、そうしたアッセイ系を通じた基盤情報の提供を目指した。
研究方法
(1)HIV感染者から提供していただいた血液検体を用いて、T細胞が強く認識するHIV抗原を明らかとするとともに、ペプチド・MHC複合体の示差熱解析(DSC)を行って、その熱力学的特性を解析した。(2)昨年度に作製したTCRグラフトIgG重鎖および軽鎖発現ベクターをもとに、無血清培地を用いたタンパク質一過性発現を行った。(3)高感度タンデム質量分析計nanoLC-ESI-QqTOFは網羅的なペプチド同定用、nanoLC-MALDI-TOF-TOFはペプチドの高感度検出用に、nanoLC-ESI-ionTrapQQQは高感度定量用に融合的に組み合わせて使用した。
結果と考察
(1)CTLに強い抗ウイルス活性を与える抗原ペプチドは、HLA分子と熱力学的に安定で、かつ構成分子が相互に共同的な複合体を形成していることを明らかとした。(2)IgG化させたTCRグラフトIgG抗体のHLA受容体に対する結合活性を表面プラズモン共鳴測定によって解析したところ、平衡解離定数が700 nM程度の結合活性が観測された。(3)四重極飛行時間型ハリッド型質量分析計と四重極型タンデム質量分析計を用いて、細胞表面からコンスタントに約18000個のぺプチドを同定することが可能となった。
結論
(1)CTLに強い抗ウイルス機能を与える抗原ペプチドの熱力学的な特性を明らかにできた。今後のワクチン抗原の選択に大きな示唆を与えるものと思われる。(2)CDRグラフティングにより作製した断片をIgG構造に組み込んだTCRグラフトIgGは、構造が比較的に安定であり、結合活性を有していた。(3)新たな高感度同定定量法をプロトコール化し、生体サンプルへの応用へ向けての最適化を行った。本方法論は、HIV抗原の高感度定量的同定法として有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201009004B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト抗原提示システムの包括的解析に基づくエイズワクチン戦略の再構築
課題番号
H20-政策創薬・一般-006
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
上野 貴将(国立大学法人 熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木 令江(国立大学法人 熊本大学大学院 生命科学研究部)
  • 熊谷 泉(国立大学法人 東北大学大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト感染免疫系に関する基盤情報は非常に限られており、エイズワクチン開発の障壁となっている。中でも抗原提示に関わる分子群は動物種間で大きく異なるため、ヒト検体での情報の充実化が望まれている。本研究では、プロテオームを主体とした新しい蛋白化学的アプローチを試みて、ヒトで提示される極微量のHIV抗原を解析することにより、エイズワクチン開発の基盤情報として貢献することを目的とする。
研究方法
(1)HIV感染者から提供していただいた血液検体を用いて、T細胞が強く認識するHIV抗原とその抗原を認識するT細胞レセプター(TCR)を解析した。ペプチドMHC複合体の熱力学的解析を行った。(2)TCRの抗原認識部位を抗体に移植したTCRグラフト抗体のデザイン、安定化、高発現化と結合活性の測定を行った。(3)高感度タンデム質量分析計nanoLC-ESI-QqTOFは網羅的なペプチド同定用、nanoLC-MALDI-TOF-TOFはペプチドの高感度検出用に、nanoLC-ESI-ionTrapQQQは高感度定量用に融合的に組み合わせて使用した。
結果と考察
(1)HIV特異的CTLの抗ウイルス機能は、抗原特異性によって大きく異なり、CTLに優れた抗ウイルス活性を与える抗原ペプチドは、HLAクラスI複合体として、熱力学的にきわめて安定な構造を形成していることを明らかにした。(2)T細胞レセプター(TCR)の相補性決定領域を抗体フレームワークに移植する新しい方法を確立して、抗原ペプチド・HLA複合体を特異的に認識する新規分子の創製に成功するとともに、IgG構造に組み込むことによって、機能を保持したまま、構造の安定化を達成した。(3)新たな高感度同定定量法としてのiTRAQ-MRM法を考案し、HIV感染細胞上の抗原ペプチドを10 att molレベルの高感度で定量的に解析する質量分析システムの立ち上げに成功した。
結論
ヒト検体を用いた帰納的解析と、熱力学、抗体工学、マススペクトロメトリーを用いた新しい試みにより、これまでに知られていなかったCTL抗原の性質を明らかにできた。将来のワクチン抗原の選別に、新たな科学的アプローチと情報を提供するものであると期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201009004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト検体を用いた帰納的解析と、熱力学、抗体工学、マススペクトロメトリーを用いた新しい試みにより、これまでに知られていなかったHIV感染制御を担うCTLが認識する抗原の性質を明らかにした。具体的には、CTLに優れた抗ウイルス活性を与える抗原ペプチドは、HLAクラスI複合体として、熱力学的にきわめて安定な構造を形成していることを明らかにした。将来のワクチン抗原の選別に、新たな科学的アプローチと情報を提供するものであると期待される。
臨床的観点からの成果
さまざまな病態にある日本人HIV感染者から提供していただいた血液検体を用いて、CTLの抗原特異性と抗ウイルス機能を解析した結果、CTLが認識する抗原が急性感染期と慢性感染期では著しく異なっていること、急性期に見られるCTLの方が慢性期のものよりも抗ウイルス活性に優れていることを明らかにした。これらの結果は、単にHIV特異的なCTLの総数ではなく、CTLの抗原特異性を検索する重要性を示唆するものである。
ガイドライン等の開発
これまでのところ特になし。
その他行政的観点からの成果
これまでのところ特になし。
その他のインパクト
これまでのところ特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
T細胞受容体を模倣する抗体断片及びその製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2008-135007
発明者名: 熊谷泉、梅津光央、渡邊秀樹、上野貴将、本園千尋
権利者名: 国立大学法人熊本大学、国立大学法人東北大学
出願年月日: 20080523
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takamasa Ueno, Chihiro Motozono, Sachi Dohki, et al.
CTL-mediated selective pressure influences dynamic evolution and pathogenic functions of HIV-1 Nef
Journal of Immunology , 180 , 1107-1116  (2008)
原著論文2
Chihiro Motozono, Saeko Yanaka, Kouhei Tsumoto, et al.
Impact of intrinsic cooperative thermodynamics of peptide-MHC complexes on antiviral acivity of HIV-specific CTL.
Journal of Immunology , 182 , 5528-5536  (2009)
原著論文3
Chihiro Motozono, Philip Mwimanzi, Takamasa Ueno
Dynamic interplay between viral adaptation and immune recognition during HIV-1 infection
Protein & Cell , 1 , 514-519  (2010)
原著論文4
Philip Mwimanzi, Zafrul Hasan, Michiyo Tokunaga, et al.
Naturally arising HIV-1 Nef variants conferring escape from cytotoxic T lymphocytes influence viral entry co-receptor expression and susceptibility to superinfection
Biochem. Biophys. Res. Comm. , 403 , 422-427  (2010)
原著論文5
Philip Mwimanzi, Zafrul Hasan, Ranya Hassan, Shinya Suzu, Masafumi Takiguchi, Takamasa Ueno
Effects of naturally-arising HIV Nef mutations on cytotoxic T lymphocyte recognition and Nef's functionality in primary macrophages.
Retrovirology , 8 , 50-  (2011)
10.1186/1742-4690-8-50
原著論文6
Chihiro Motozono, John J. Miles, Zafrul Hasan, et al
CD8+ T cell cross-reactivity profiles and HIV-1 immune escape towards an HLA-B35-restricted immunodominant Nef epitope.
PLoS ONE , 8 , e66152-  (2013)
10.1371/journal.pone.0066152
原著論文7
Saeko Yanaka, Takamasa Ueno, Yi Shi, et al
Peptide-dependent conformational fluctuation determines the stability of the human leukocyte antigen class I complex.
J Biol, Chem. , 289 , 24680-24690  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201009004Z