発達神経毒性の迅速化・高精度・省動物に資する新規評価手法開発のための研究

文献情報

文献番号
202425013A
報告書区分
総括
研究課題名
発達神経毒性の迅速化・高精度・省動物に資する新規評価手法開発のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KD1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 拓也(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 桑形 麻樹子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 大久保 佑亮(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 齊藤 洋克(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 )
  • 西田 欣広(大分大学 医学部産科婦人科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
24,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発達神経毒性(DNT)は、発生期(胎生期)あるいは生後発達期の神経系に対する化学物質による有害作用と説明される。この評価に向けた、より迅速、低コストで省動物に資する新規評価手法の開発が急務となっている。しかしながら、神経系の発生・発達は極めて複雑な現象であり、ヒトの発達神経毒性の定義ですら専門家間で認識が異なるのが現状である。また、有害発現経路(AOP)に立脚したDNTのin vitro試験法の開発が精力的になされているが、詳細なAOPの積上げ・組み合わせのみで複雑なDNTに係る試験法の開発や実体の解明が進むとは考えにくい。
本研究では、DNTを発生期と生後発達期とに分け、2つの独自技術による課題の解決を試み、ヒトへの外挿性を考慮した、より迅速、低コストで省動物に資する新規in vitro DNT評価手法の開発をおこなう。またDNT陽性物質リストを作成し、併せて、独自のヒト胎盤オルガノイド評価系により、化学物質のin vitro代謝プロファイルが明らかとし、試験系の予測精度ひいてはヒトへの外挿性の向上を図る。
先行研究において、シグナル伝達ネットワークに対する化学物質のかく乱作用を検出することで、個別の毒性機序に因らず構成的手法に基づく、発生毒性を検出可能なヒトiPS細胞を用いた試験の開発に成功した。本研究では、これを発生期DNTに適応拡大し、発現機序に基づく構成的手法に則った、実用的現実的なin vitro DNT試験法を開発する。一方、発達期のDNTに関しては、その複雑さ故に基礎的な背景データの不足が大きな問題である。発達期DNT誘発の分子機序解明に向けた独自の良いモデル系を活用し、その機序を明らかにし、以て、将来的なin vitro試験法への適応拡大に必要なシグナルネットワークを同定する。
研究方法
本研究では、DNTを発生期(胎生期)と生後発達期とに分け、2つの独自技術(ヒトiPS細胞を用いたin vitro発生毒性試験法、及び、シックハウス症候群の動物試験モデル)により、複雑なDNTに係る試験法の開発や実体の解明といった課題の解決を試みる。加えて、ヒト胎盤オルガノイドを用いる化学物質の代謝についても検討し、試験系の予測精度の向上を図る。
結果と考察
令和6年度(2年目)は、I)発生期のin vitro DNT評価手法の開発に向け、従来の手動計測から自動測定により、DNT陽性対照化学物質の試験を実施した結果、6種類の陽性対照物質及び2種類の陰性対照物質を100%の正確度で分類できた。一方で、神経伝達物質受容体を介したシグナルかく乱作用を検出するために、ヒトiPS細胞を神経前駆細胞まで分化させた試験の構築も進めている。DNT陽性物質リストについては、DNT陽性対照および陰性対照171化合物を精査した。また評価手法の国際標準化に向けた情報収集については、現在、各神経発生過程に対応したin vitro試験は現在、17種類に絞られ、バリデーション試験が開始されていることを見出した。II)生後発達期DNTの分子機序解明に向け、モデル揮発性物質であるキシレン(0、 2及び20 ppm) について、幼若期のマウスに反復吸入曝露を実施し、成熟後に情動認知行動解析を検討したところ、学習記憶異常が観察され、これに対応すると考えられる神経科学的物証が得られた。加えて、トルエン(0、 0.7及び7 ppm)についてもモデル揮発性物質として反復吸入曝露を実施し、情動認知行動解析においてキシレンと類似した行動影響が確認された。IIII)ヒト胎盤オルガノイド作製とメタボローム解析に向けては、ヒト胎盤並びにマウス胎盤組織、双方ともに、安定したオルガノイドの作製に成功し、モデル物質サリドマイドを用いて種差を考慮した網羅的メタボローム解析を実施中である。
結論
以上、各試験法の最適化及びDNT陽性物質リストの調査につき検討し、ほぼ予定通り進捗した。引き続き、次年度も計画に則り、発生期のin vitro DNT試験法及びヒト胎盤オルガノイドを用いたメタボローム解析法の提案と、生後発達期DNT誘発シグナルネットワークの同定について検討する予定である。本研究により、迅速で低コスト、省動物に資する新規in vitro DNT評価手法(動物実験代替法)の開発につながることが期待される。成果物については、国際的なコンセンサスを得られるレベルを以って、テストガイドラインへの提案に繋がるように図る。加えて、独自のヒト胎盤オルガノイド評価系により、化学物質のin vitro代謝プロファイルが明らかとなることから、胎盤代謝物を加味した評価ができることが期待され、試験系の予測精度ひいてはヒトへの外挿性の向上が期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202425013Z