ナノマテリアルを含む化学物質の短期吸入曝露等による免疫毒性評価手法開発のための研究

文献情報

文献番号
202425011A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルを含む化学物質の短期吸入曝露等による免疫毒性評価手法開発のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KD1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
足利 太可雄(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センターゲノム安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
  • 善本 隆之(東京医科大学 医学総合研究所 免疫制御研究部門)
  • 石丸 直澄(東京科学大学大学院医歯学総合研究科)
  • 飯島 一智(横浜国立大学 大学院工学研究院機能の創生部門)
  • 黒田 悦史(兵庫医科大学 医学部免疫学講座)
  • 渡辺 渡(九州医療科学大学 生命医科学部)
  • 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
21,400,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 石丸直澄 徳島大学大学院医歯薬学研究部 教授(令和5年4月1日~6年4月30日) → 東京科学大学大学院医歯学総合研究科 教授(令和6年5月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の吸入曝露による健康影響が懸念されており、毒性発現機構に基づいた効率的で精度の高い試験法の開発が強く望まれている。特に化学物質の呼吸器感作については、未だ行政が受け入れ可能な試験法が開発されておらず、また、ナノマテリアル(NM)については、従来のin vivo吸入曝露試験のみでは毒性評価が十分に行えない状況にある。そこで本研究班では、短期吸入曝露されたNMを含む化学物質の免疫毒性評価手法の開発と、将来OECDガイドライン化を目指すための基盤的知見の収集を目的とした。
研究方法
呼吸器感作性評価法の開発については、気道上皮細胞株 (BEAS-2B) と単球由来樹上細胞株(CD14-MLDC)の共培養系を用い、被験物質処理後に樹状細胞株からRNAを抽出し、定量RT-PCRでマーカーの発現量を検出した。ヒト肺胞マクロファージ細胞株の樹立については、肺胞マクロファージからCD45+CD11b+細胞を分離し、SV40 large T抗原およびヒトGM-CSF発現ベクターを感染させ、さらに変異型RAS遺伝子をレンチウイルスベクターにて遺伝子導入を行った。NMの免疫毒性評価法の開発については、酸化亜鉛ナノ粒子のh-CLAT試験を行った。遺伝子発現に基づくNMの抗原提示細胞活性化能の評価については、THP-1細胞に対しNMを曝露し、RNAを抽出してPCRにより遺伝子の発現を解析した。In vivo評価系の開発については、既設のTaquan直噴全身吸入装置Ver3.0を使用してナノシリカNM-202吸入暴露の条件を設定した。マウスに曝露させた後、4週および8週での肺胞細胞の細胞数、およびM1/M2マーカー等の解析に加え、肺の病理組織学的変化を観測した。ナノシリカ吸入曝露RSV感染実験については、マウスに曝露させた後、RSV A2株を経鼻感染させ、BALF中のCCL5などのケモカイン・サイトカインについてELISAにて定量解析を行った。
結果と考察
呼吸器感作性評価法の開発については以下の知見を得た。OX40Lを指標とした予測モデルを最適化することにより、ほぼ識別可能な3次元共培養系を確立するとともに、他施設への技術移転性を確認した。今後OECDテストガイドライン化を見据えたプロトコルの最適化を行う。ヒト肺胞マクロファージ細胞株の樹立については、増殖性の観点からこれ以上の検討は断念し、今後は分化誘導法が確立されているiPS細胞由来の肺胞/間質マクロファージを用い研究を進める。NMの免疫毒性評価法の開発については以下の知見を得た。微粒子に応答する肺胞マクロファージの解析により、微粒子に応答し炎症性サイトカインであるIL-1αを放出する細胞は全体のごく一部であることを明らかとした。シリカナノ粒子によるTHP-1細胞の活性化において、シリカナノ粒子に亜鉛イオンをあらかじめ吸着させた場合、処理した亜鉛イオン溶液の濃度依存的に活性化の指標であるCD54の発現が増加したことから、NMによる抗原提示細胞細胞活性化は、NM自体の持つ活性化能に加え、吸着物質による影響を受けうる可能性が示唆された。気管支上皮モデルとTHP-1細胞との共培養系では、気管支モデル上部よりシリカナノ粒子曝露した72時間後においてTHP-1細胞のCD54の発現増加傾向がみられた。In vivo吸入曝露条件設定について、ナノシリカNM202は、微細で機器への吸着性が強く、エアロゾル化効率は約5%程度と非常に低かった。NM202を曝露したマウスはばく露後8週間までの観察期間中、体重推移に影響は見られなかったが、肺の病理組織学的変化として肺胞腔の軽度の狭窄および肺胞マクロファージの集簇像が確認された。またBALF細胞におけるMarco mRNAの発現において暴露濃度に依存した上昇が観察されたことから、マクロファージのナノシリカに対する反応にMARCO分子が関与している可能性が示された。さらに各種ナノシリカのrespiratory syncytial virus (RSV) 感染マウスモデルでの影響について再評価を実施したところ、感染影響指標としてCCL5が有用であることが再認識された。
結論
ヒト肺胞マクロファージ細胞株の樹立は断念し代替の細胞で研究を遂行することしたものの、皮膚感作性物質と呼吸器感作性物質を識別可能な、OX40Lを指標とする3次元共培養系が確立できたこと、NMによる THP-1細胞の活性化における表面に吸着するイオンの関与の可能性を明らかにしたこと、さらにNMのin vivo吸入曝露による免疫毒性の評価にMARCO分子およびCCL5を介した反応性の解析が重要である可能性が示されたことなど、評価手法開発に向けて着実な成果が得られたと考える。

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202425011Z