毒物又は劇物の指定等に係る急性吸入毒性試験の代替法の開発及びその精緻化に関する研究

文献情報

文献番号
202425009A
報告書区分
総括
研究課題名
毒物又は劇物の指定等に係る急性吸入毒性試験の代替法の開発及びその精緻化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
  • 魏 民(大阪公立大学 大学院医学研究科)
  • 高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 赤根 弘敏(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
20,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
毒物又は劇物は、原則、動物を用いた急性毒性試験におけるLD50/LC50値から判定されており、投与方法には経口、経皮及び吸入が想定されている。しかし、全身吸入暴露法は大規模な暴露装置が必要となるなどの困難があるため、吸入毒性情報は限定的である。本研究課題では、汎用性の高い経気管肺内噴霧投与法(intra-tracheal intrapulmonary spraying;TIPS法)による気管内投与毒性試験について、急性吸入毒性試験の代替法としての有用性をより堅固なものにすることを目的とする。
本研究では、(1) in vivo試験代替法として、吸入暴露が想定される物質の毒劇物判定におけるTIPS法の検証、及び、(2) in vitro試験代替法として、ヒト肺癌細胞株(A549)の細胞毒性を指標とした評価法を検討・精緻化し、毒劇物の指定に資する手法の確立を図ることを目的としている。
研究方法
令和6年度は、令和5年度に実施したTIPS法による急性毒性試験の病理組織学的検査及び新たに10物質についてTIPS法によるLD50値の判定及び毒性影響の検討を実施した。
また、近年はin vitro試験等に基づく、毒性や刺激性等から判断する評価法も希求されている。昨年度までに、ラットを用いた被験物質の経気管肺内噴霧投与法TIPS法を行う際のin vitro投与量設定法として、ヒト肺腺癌細胞株A549を用いた改変Neutral Red Uptake assay(A549 NRU assay)を構築し、23物質のLC50値を取得してその有用性について検討してきた。本年度は新たに26物質について検討を行い、TIPS法の用量設定に応用可能なLC50値を算出した。さらに、これまでの検討で得られた49物質のLC50値とラット4時間吸入ばく露試験におけるLD50値との相関解析を行った。
結果と考察
これまでにTIPS法による試験を実施した24剤のうち、TIPS法のLD50が吸入暴露法の0.5~2倍であったものが13剤、0.25~0.5倍であったものが5剤、0.25倍以下であったものが6剤であった。この結果は、昨年度までの結果と同様の傾向であったことから、TIPS法では全身吸入暴露法と比較して毒性が同等、あるいは強く表れる物質があることが確認された。
また、昨年度までの検討と同様にTIPS法のLD50とNeutral red assay 法のLD50の間に強い正の相関性が認められた。各剤についてTIPS法のLD50に基づいたGHS分類を行い、既報の吸入による急性毒性の有害性区分と比較したところ、18剤ではTIPS法による有害性区分が既報の区分と概ね一致し、6剤ではTIPS法でより強い有害性区分に分類された。後者の化合物は、皮膚刺激性のGHS分類においても強い有害性区分に分類されており、TIPS法の結果に基づいてGHS分類した場合、細胞傷害性や刺激性が強い物質は、吸入試験に比較して強い有害性区分に分類される可能性があると考えられた。
水溶性物質、アルコール基やエーテル基、エポキシ基を有する化学物質では、LC50値とLD50値が正の相関を示し、類似する特性を有する化学物質では毒性応答が類似する可能性が示唆された。加えて、相関解析で得られた近似式によるLD50の予測値と、これらの物質の実際のLD50の報告値がある概ね一致することが示されたことから、A549-NRU assayの結果から、in vivoにおけるLD50値を推測できる可能性が示唆された。
また、残存動物について無処置にて長期に観察することによって、発がん性を評価への応用が期待された。
結論
TIPS法による急性吸入毒性試験結果と全身吸入暴露試験結果を比較し、TIPS法のデータは、吸入暴露における毒物・劇物判定に有用であることが示唆された。また、A549-NRU assayは、TIPS法の濃度設定に利用可能と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
202425009B
報告書区分
総合
研究課題名
毒物又は劇物の指定等に係る急性吸入毒性試験の代替法の開発及びその精緻化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
  • 魏 民(大阪公立大学 大学院医学研究科)
  • 高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 赤根 弘敏(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
毒物又は劇物は、原則、動物を用いた急性毒性試験におけるLD50/LC50値から判定されており、投与方法には経口、経皮及び吸入が想定されている。しかし、全身吸入暴露法は大規模な暴露装置が必要となるなどの困難があるため、吸入毒性情報は限定的である。
本研究課題では、まず、汎用性の高い経気管肺内噴霧投与法(intra-tracheal intrapulmonary spraying;TIPS法)による気管内投与毒性試験について、急性吸入毒性試験の代替法としての有用性をより堅固なものにすることを目的とした。
本研究では、(1) in vivo試験代替法として、吸入暴露が想定される物質の毒劇物判定におけるTIPS法の検証、及び、(2) in vitro試験代替法として、ヒト肺癌細胞株(A549)の細胞毒性を指標とした評価法を検討・精緻化し、毒劇物の指定に資する手法の確立を図ることを目的とする。
研究方法
被験物質24剤についてTIPS法による気管内投与急性毒性試験を実施し、LD50の判定及び毒性影響の検討を行った。
また、TIPS法のin vitro投与量設定法を開発するため、従来のマウス線維芽細胞3T3を用いたNeutral Red Assayを一部改変し、ヒト肺腺癌細胞株A549を用いた改変A549-NRUアッセイの試験プロトコールをを構築・最適化し、3年間で49種類の化学物質のLC50値を算出し、TIPS法における投与量設定への応用可能性を検討した。
結果と考察
TIPS法では全身吸入暴露法と比較して毒性が同等、あるいは強く表れる物質があることが示された。各剤についてTIPS法のLD50に基づいたGHS分類を行ったところ、吸入試験に比較してTIPS法で強い有害性区分に分類された物質は、概ね強い細胞傷害性や刺激性を示す物質であり、病理組織学的検査において気管から肺に重度の壊死が認められた。一方、細胞傷害性や刺激性がより軽度である物質は、概ね既報と同程度の有害性区分に分類され、呼吸器以外の臓器に対する影響も検出可能であった。in vitroのA549-NRUアッセイにおける指標はTIPS法による急性毒性と相関し、急性毒性試験の投与濃度設定に用いる指標となりえると考えられた。
また、新たな細胞毒性評価法の構築に成功し、LC50値とラット4時間吸入曝露試験におけるLD50値との相関解析を行った結果、水溶性物質やアルコール基、エーテル基、エポキシ基を有する化学物質において、両者の間に正の相関が確認された。
さらに、長期観察において、IARC :2A の4物質、(glycidol, N,N’-dimethyl formamide, glycidyl methacrylaye, acrolein)と2B の4物質「(1,4-dioxane N,N’-dimethyl acetamide, 1,2-dichlorethane, quiniline)、ethylene glycol monoethylether さらに、G3 の2物質については既知の発がん性と整合した。」polyacrylic acid sodium, acetyl acetonついては陰性であった本法と既知の発がん性との整合性とについて明らかになりつつある。
結論
TIPS法では全身吸入暴露法と比較して毒性が同等、あるいは強く表れる物質があることが示され、毒性の増強には呼吸器上皮に対する直接的な細胞傷害の強さが関連する可能性が示唆された。TIPS法による気管内投与急性毒性試験は、細胞毒性や刺激性と併せた評価を行うことで、毒劇物判定及びGHS分類のための急性吸入毒性試験の代替法として有用である可能性が示された。
また、in vitroのA549-NRUアッセイにおける指標はTIPS法による急性毒性と相関し、急性毒性試験の投与濃度設定に用いる指標となりえると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202425009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
汎用性の高い経気管肺内噴霧投与法(intra-tracheal intrapulmonary spraying;TIPS法)によるラットを用いた
気管内投与急性毒性試験は、細胞毒性や刺激性と併せた評価を行うことで、毒物劇物判定及びGHS分類のための急性吸入毒性試験の代替法として有用である可能性が示された。また、in vitroのNeutral red assayにおける指標はTIPS法による急性毒性と相関し、急性毒性試験の投与濃度設定に用いる指標となりえると考えられた。
臨床的観点からの成果
職場環境などにおける化学物質の吸入暴露に対する安全性規制の基本となる吸入による急性毒性を、より簡便に評価する方法が得られつつある。
ガイドライン等の開発
本法が確立されれば、これまでデータが不足している吸入暴露による急性毒性データが得られることにより、毒物劇物判定及びGHS分類の付与の迅速化に貢献できる。OECDガイドライン化も期待される。
その他行政的観点からの成果
TIPS法による急性吸入毒性試験結果と全身吸入暴露試験結果を比較したところ、毒性が同等、あるいは強く表れるとの結果が得られた。このことは、TIPS法のデータは吸入暴露における毒物・劇物判定に有用であると示唆される。また、A549-NRU assayは、TIPS法の濃度設定に利用可能と考えられ、使用される動物数の削減を通して、3Rにも貢献できると考える。
その他のインパクト
津田等により、TIPS投与―短期観察法によるLD50の検索法が特許出願済

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202425009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,400,000円
(2)補助金確定額
20,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,380,544円
人件費・謝金 2,918,766円
旅費 1,223,815円
その他 2,876,875円
間接経費 0円
合計 20,400,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-