薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関する研究

文献情報

文献番号
202424027A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2006
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
  • 上條 吉人(埼玉医科大学 医学部 臨床中毒学)
  • 根本 透(公衆衛生研究所)
  • 富山 健一(国立精神神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
13,775,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、わが国の薬物乱用・依存に関する最新状況およびその経年的変化を異なる対象集団に対する全国規模の疫学調査を通じて情報を収集するとともに、大麻や一般用医薬品の乱用といった近年、公衆衛生上の問題が拡大しつつある個別の課題について掘り下げることを目的とした。
研究方法
研究計画に基づき、研究2~6を実施した。
結果と考察
各研究の主たる結果と考察を含めて結論に記載した。
結論
1. 全国124校の中学校より、計37,967名の有効回答が得られた。中学生における違法薬物の生涯経験率は、大麻0.07%、有機溶剤0.13%、覚醒剤0.06%、危険ドラッグ0.06%、いずれかの違法薬物0.18%であった。いずれの違法薬物も2022年調査に比べて減少していた。コロナ禍後、社会活動が正常化した後においても、中学生における違法薬物の乱用リスクの減少が続いている可能性がある。ただし、大麻使用を肯定する考えが増加している点には注意が必要である(研究2)。
2. 市販薬の乱用経験のある中学生の割合は全体の約1.8%(約55人に1人の割合)であり、市販薬の乱用問題が全国的に広がっている可能性がある。市販薬の乱用経験のある中学生は、学校や家庭で孤立状態にあり、日常生活で様々な生きづらさを抱えているといった心理社会的な特徴を有することが明らかとなった(研究2)。
3. 全国の精神科医療施設221施設から、計2,756症例が報告された。このうち、受診した患者において、1年以内に主たる薬物の使用が認められた症例は計1,221症例であった。その内訳は、覚醒剤28.0%、市販薬25.6%、睡眠薬・抗不安薬22.6%、大麻8.6%、多剤8.5%、揮発性溶剤2.3%、鎮痛薬(処方オピオイド系:弱オピオイド含む)0.8%、危険ドラッグ類0.8%、MDMA以外の幻覚剤0.6%、MDMA 0.6%、コカイン0.4%、鎮痛薬(処方非オピオイド系)0.2%、ADHD治療薬0.2%、ヘロイン0.1%であった(研究3)。
4. 精神科医療施設を受診した患者の症例数は前回調査よりも増加していたが、これは全体的な増加ではなく、市販薬関連精神疾患症例の増加、とりわけ若年層や女性の増加によるものであった。この集団は、1年以内の故意の自傷・自殺行動の挿話を持つものが多く、他の精神疾患の併存率が高かった、加えて、過去1年以内の薬物使用者が多く、依存症集団療法参加率や依存症関連の社会資源利用率が低いことから、断薬が困難である者が多く、既存の依存症治療に適合しない1群である可能性も示唆された(研究3)。
5. 救急医療施設(計8施設)へ搬送された急性市販薬中毒患者124症例が報告された。市販薬の新たな過剰摂取を防ぐためには、患者の背景や薬剤の入手経路に関する詳細な疫学的研究を継続するとともに、依存性を引き起こす市販薬の成分の調査が必要である。繰り返される過剰摂取は依存症候群による可能性があるため、将来的には、繰り返される過剰摂取に対する治療プログラムの確立が極めて重要である(研究4)。
6. 嗜好用大麻が合法化されている米国に在住する日本人を対象とする調査を通じて、大麻使用者の実態の一端が明らかとなった。大麻使用者の約半数が定期的(週1回程度)に大麻を使用しており、コカイン、LSD、エクスタシー等の他の薬物を使用した経験がある対象者もいた。さらに、厳しい大麻規制があるにも関わらず、大麻使用者の約1/4は日本でも大麻使用経験があった。大麻非使用者と比較すると、大麻使用者は娯楽目的および医療目的の両方のマリファナ合法化を支持する傾向があり、米国における嗜好大麻合法化が長期日本人滞在者の薬物使用に影響を与えている可能性がある。多くの対象者は、嗜好用大麻の合法化が大麻使用を助長する可能性があるが、医療用大麻は合法化すべきであり、日本の大麻に対する規制は厳しすぎると考えていた(研究5)。
7. 豪州では、大麻が最も乱用されている違法薬物であった。個人の違反については、刑事罰から民事または刑事司法を回避するダイバージョン制度が適用されるなど将来的な社会スティグマへの対応や警察・司法の負担の軽減を目指す政策が打ち出されていた。また、国民の4割以上で、大麻の使用経験があるような状況下では、厳罰政策よりも寛容的政策の方が社会資源の確保または司法の経済性の視点からも現実的である。一方で、大麻に関する慣用政策が青少年における薬物意識に与える影響は不明であり、また薬物乱用防止のハードルを上げる可能性も考えられた(研究6)。

公開日・更新日

公開日
2025-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
その他
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-06-04
更新日
-

文献情報

文献番号
202424027B
報告書区分
総合
研究課題名
薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2006
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
  • 上條 吉人(埼玉医科大学 医学部 臨床中毒学)
  • 根本 透(公衆衛生研究所)
  • 富山 健一(国立精神神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の薬物乱用・依存に関する最新状況およびその経年的変化を異なる対象集団に対する全国規模の疫学調査を通じて情報を収集するとともに、大麻や一般用医薬品の乱用といった近年、公衆衛生上の問題が拡大しつつある個別の課題について掘り下げることを目的とした。
研究方法
令和5年度に研究1、令和6年度に研究2~6を実施した。
結果と考察
主たる結果と考察を結論に記載した。
結論
1. 薬物使用に関する全国住民調査(2023年)を実施し、計3,114名から調査票を回収した(回収率62.3%)。回収率は60%台までに回復した。違法薬物については、有機溶剤は有意に減少、大麻は有意に増加していた。過去1年以内に大麻を使った経験のある国民は約20万人、覚醒剤は約11万人と推計された。他の違法薬物は統計誤差範囲内であった。今回の調査では一般住民における市販薬の乱用経験を初めて調べた。市販薬の乱用経験率は0.75%であり、過去1年以内に市販薬の乱用経験のある国民は約65万人と推計された(研究1)。
2. 全国124校の中学校より、計37,967名の有効回答が得られた。中学生における違法薬物の生涯経験率は、大麻0.07%、有機溶剤0.13%、覚醒剤0.06%、危険ドラッグ0.06%、いずれかの違法薬物0.18%であった。いずれの違法薬物も2022年調査に比べて減少していた。コロナ禍後、社会活動が正常化した後においても、中学生における違法薬物の乱用リスクの減少が続いている可能性がある。ただし、大麻使用を肯定する考えが増加している点には注意が必要である。市販薬の乱用経験のある中学生の割合は全体の約1.8%(約55人に1人の割合)であり、市販薬の乱用問題が全国的に広がっている可能性がある。(研究2)。
3. 全国の精神科医療施設221施設から、計2,756症例が報告された。このうち、受診した患者において、1年以内に主たる薬物の使用が認められた症例は計1,221症例であった。その内訳は、覚醒剤28.0%、市販薬25.6%、睡眠薬・抗不安薬22.6%、大麻8.6%、多剤8.5%、揮発性溶剤2.3%、鎮痛薬(処方オピオイド系:弱オピオイド含む)0.8%、危険ドラッグ類0.8%、MDMA以外の幻覚剤0.6%、MDMA 0.6%、コカイン0.4%、鎮痛薬(処方非オピオイド系)0.2%、ADHD治療薬0.2%、ヘロイン0.1%であった(研究3)。
4. 救急医療施設(計8施設)へ搬送された急性市販薬中毒患者124症例が報告された。市販薬の新たな過剰摂取を防ぐためには、患者の背景や薬剤の入手経路に関する詳細な疫学的研究を継続するとともに、依存性を引き起こす市販薬の成分の調査が必要である。繰り返される過剰摂取は依存症候群による可能性があるため、将来的には、繰り返される過剰摂取に対する治療プログラムの確立が極めて重要である(研究4)。
5. 嗜好用大麻が合法化されている米国に在住する日本人を対象とする調査を通じて、大麻使用者の実態の一端が明らかとなった。大麻使用者の約半数が定期的(週1回程度)に大麻を使用しており、コカイン、LSD、エクスタシー等の他の薬物を使用した経験がある対象者もいた。さらに、厳しい大麻規制があるにも関わらず、大麻使用者の約1/4は日本でも大麻使用経験があった。大麻非使用者と比較すると、大麻使用者は娯楽目的および医療目的の両方のマリファナ合法化を支持する傾向があり、米国における嗜好大麻合法化が長期日本人滞在者の薬物使用に影響を与えている可能性がある。多くの対象者は、嗜好用大麻の合法化が大麻使用を助長する可能性があるが、医療用大麻は合法化すべきであり、日本の大麻に対する規制は厳しすぎると考えていた(研究5)。
6. 豪州では、大麻が最も乱用されている違法薬物であった。個人の違反については、刑事罰から民事または刑事司法を回避するダイバージョン制度が適用されるなど将来的な社会スティグマへの対応や警察・司法の負担の軽減を目指す政策が打ち出されていた。また、国民の4割以上で、大麻の使用経験があるような状況下では、厳罰政策よりも寛容的政策の方が社会資源の確保または司法の経済性の視点からも現実的である。一方で、大麻に関する慣用政策が青少年における薬物意識に与える影響は不明であり、また薬物乱用防止のハードルを上げる可能性も考えられた(研究6)。

公開日・更新日

公開日
2025-06-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202424027C

収支報告書

文献番号
202424027Z