重症心不全患者の自己心筋幹細胞を用いた心筋・血管ハイブリッド組織シート移植治療の臨床研究開発

文献情報

文献番号
201006001A
報告書区分
総括
研究課題名
重症心不全患者の自己心筋幹細胞を用いた心筋・血管ハイブリッド組織シート移植治療の臨床研究開発
課題番号
H20-再生・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
浅原 孝之(財団法人先端医療振興財団 先端医療センター血管再生研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 川本 篤彦(財団法人先端医療振興財団 先端医療センター血管再生研究グループ )
  • 澤  芳樹(大阪大学医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科学)
  • 清水 達也(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所・再生医療)
  • 増田 治史(東海大学医学部 再生医療科学・再生医療)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
40,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最終年度の計画として、重症心不全の患者から分離する心筋幹細胞(hCSC)を、臨床応用できるレベルの培養システムの標準化、治療可能な細胞品質を有するhCSCを同定するための品質管理システムを構築する。この過程で作製されたhCSCを利用して、心筋分化および血管分化誘導を目標としたシートの作成とその移植効果の判定研究を進める。
研究方法
hCSC培養の確立実験、未分化あるいは分化誘導シートの開発研究、小動物・大動物による前臨床試験が進められた。
結果と考察
1.臨床における心筋幹細胞培養の確立:
右心房サンプルが最もhCSCの分離効率が高く、分離する際の反応時間、播種細胞密度などの最適化が進められ、全ての心疾患患者から心臓幹細胞は単離可能であること、などが明らかになった。
2. hCSCシート開発 :
H20年度に確立した培養未分化hCSC細胞シート作製の適正化には播種細胞密度は重要であることが判明し、移植実験での効果が判明した。血管分化誘導培養のための、培養条件、hCSC細胞播種数及び分化培養期間の検討を進めた。最終的にFBSコーティングにおいて2.5%FBS/7日間、5%FBS/10日間の培養条件が内皮系増殖能・分化能においてより良い培養環境を提供すると考えられた。
3.シート移植方法の検討
(A)小動物実験:ラット慢性心不全モデルのhCSCシート単独移植群実験で心機能改善を確認した後、hCSCシートとEPCを同時移植した群が単独移植群と比べて、有意な心機能改善効果と組織学的な心筋分化と血管形成の促進が確認され、心筋血管両方の分化機序が機能改善に伴われたことを示唆した。
(B) 大動物実験:臨床試験を目的とし、ブタ慢性心不全モデルを用いて、hCSCシート+hEPC併用群では11.3%と治療効果の増大が確認された。全例が耐術し、経過観察期間中、致死性不整脈を含めた主要な有害事象を認めず、これらの細胞移植の安全性は確認できた。
結論
3年間のプロジェクトの最終年間で、hCSC採取および維持培養の標準化のための基礎開発は完成した。培養されたhCSCは臨床治療効果を期待できる細胞品質を保つことが可能になった。細胞シートの移植方法は多岐にわたって検討されたが、hCSCシートとEPC組み合わせで、慢性心不全モデルに心筋再生および血管再生効果をもたらし、機能回復を期待できることが判明した。
この成果をもとに、先端医療センターおよび大阪大学の共同で、臨床研究を計画している。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201006001B
報告書区分
総合
研究課題名
重症心不全患者の自己心筋幹細胞を用いた心筋・血管ハイブリッド組織シート移植治療の臨床研究開発
課題番号
H20-再生・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
浅原 孝之(財団法人先端医療振興財団 先端医療センター血管再生研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 川本 篤彦(財団法人先端医療振興財団 先端医療センター血管再生研究グループ )
  • 澤 芳樹(大阪大学医学系 心臓血管外科学)
  • 清水 達也(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所・再生医療)
  • 増田 治史(東海大学医学部 再生医療科学・再生医療)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
3つの研究目的が設定された。
(1) 心筋幹細胞の採取および培養、シート化の標準化
(2) 心筋幹細胞心筋・血管ハイブリッド治療の確立
(3) 臨床心筋幹細胞シート移植治療法の開発
研究方法
心筋幹細胞hCSCの採取および培養、シート化標準化の培養技術研究、さらに心筋幹細胞心筋・血管ハイブリッド治療の確立のための心筋・血管の共同再生メカニズムが探求された。臨床心筋幹細胞シート移植治療法の確立のため、小動物・大動物前臨床試験が行われた。
結果と考察
(1) 心筋幹細胞の採取および培養の標準化
臨床の心筋採取部位とhCSCの分離効率の関係、全ての心疾患患者から心臓幹細胞は単離可能であること、播種細胞密度を最適化、などが明らかになり、シート作成方法、シートの移植生着条件が確立された。
(2) 心筋幹細胞心筋・血管ハイブリッド治療の確立
hCSC、ヒト骨格筋芽細胞、ヒト骨髄間葉系細胞のシート培養の比較、分泌蛋白比較、血管形成効果の検討を行い、hCSCは、ヒト骨格筋芽細胞、ヒト骨髄間葉系細胞より、多くの血管新生増殖因子を産生し血管新生作用として機能的であると考えられた。
(3) 臨床心筋幹細胞シート移植治療法の開発
(A) hCSCシートと血管内皮前駆細胞(EPC)の同時移植効果検討
ラットモデルでhCSCシート単独移植群の心機能改善を確認した後、hCSCシートとEPCを同時移植した群が単独移植群と比べて、有意な心機能改善効果と組織学的な心筋分化と血管形成の促進が確認され、心筋血管両方の分化機序が機能改善に伴われたことを示唆した。
(B) ブタ慢性心筋梗塞モデルを用いたhCSCシートおよびEPC投与併用療法の前臨床試験
ブタ大動物モデルを用いて、hCSCシート+hEPC併用群では11.3%と治療効果の増大が確認された。全例が耐術し、経過観察期間中、致死性不整脈を含めた主要な有害事象を認めず、これらの細胞移植の安全性は確認できた。
結論
平成20年度から22年度までの3年間のプロジェクトで、hCSC採取・維持培養およびシート化の標準化が完成した。細胞シートの移植方法は、hCSCシートとEPC移植の組み合わせで、慢性心不全モデルに心筋再生および血管再生効果をもたらし、機能回復を期待できることが判明した。この成果をもとに、先端医療センターおよび大阪大学の共同で、臨床研究を計画している。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201006001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
心臓の再生メカニズムの中心的役割を果たす心筋幹細胞は、2001年Anversa教授によってその存在を確認され、以来学術的に大変注目を集めて来た。本研究では、Anversa研究室と共同で、臨床的に心筋幹細胞を採取・培養して組織工学的な移植技術に結びつけられる可能性を示し、最新の科学成果を医療技術に応用するトランスレーショナル研究としての成果をあげたと考える
臨床的観点からの成果
高齢化社会・生活習慣の欧米化に伴う心血管疾患は増加しており、その心臓血管死の半数は重症心不全による死亡である。現状では十分に機能していない臓器移植医療にとって替わる根本的な治療法として、心筋及び血管の幹細胞移植による強力な再生治療法の開発が必要である。本研究の成果によって、患者本人から採取する心筋幹細胞から再生するシート組織の移植で、従来不可能と言われた「失った」心筋組織を回復できる事になり、患者の心機能を大幅に改善する事が可能になると思われる。
ガイドライン等の開発
本研究で、臨床的な心筋サンプルから心筋幹細胞を採取し培養することで、科学的に幹細胞学的再生能の高い細胞を維持することに成功した。この課程において、臨床心筋サンプルの保存方法、培養手順と標準化、培養細胞の品質管理の開発など、新しい再生医療の基礎的なステップをそれぞれ確認し積み上げて成果を上げてきた。この、トランスレーショナル研究のそれぞれのステップが、新しいガイドラインに沿っていかに臨床応用に持って行けるか、あるいはガイドラインがどのようにあるべきかを議論する、実験的な材料となると考える。
その他行政的観点からの成果
日本における高齢化社会・生活習慣の欧米化による心血管病の増加に伴い、重症心不全の数も急激に増加傾向にある。臓器移植医療の発展が望まれることは間違いないが、心筋及び血管の幹細胞移植による強力な再生治療法の開発は必須であると思われる。とくに本研究のような、「真」の心筋組織再生治療は、重症心不全患者にとって単に救命率・遠隔生存率を向上するだけでなく、QOL(日常生活)の回復に繋がるものである。これは重症心不全患者に対する増大する医療費の削減・医療の質の向上にも大きく貢献すると考えられる。
その他のインパクト
大阪大学の澤は前身プロジェクトの骨格筋芽細胞シート移植臨床研究、先端医療センターの浅原・川本は血管再生臨床研究、女子医大の清水は再生医療へのシート応用研究を進め、マスコミなどに大きく取り上げられて来た。本研究は、これらを組み合わせた、真の心筋再生を目指すプロジェクトとして、また心筋再生と血管再生を組み合わせて移植する事の新規性が注目され、成果は再生医学関連学会(日本再生医療学会・日本循環器学会2009年、2010年)、医学雑誌の概論、などで発表されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
血管再生・心筋再生のメカニズム・治療応用研究を中心に、major journalに発表。
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
日本循環器学会、日本再生医療学会など大きな学会に発表。
学会発表(国際学会等)
14件
米国心臓病学会、国際幹細胞研究学会など大きな学会に発表。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
NPO血管医学推進機構の講演会などを通じて、普及啓蒙活動を始めている。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sang-Mo Kwon, Masamichi Eguc,etal. hi, Mika Wada,
Specific Jagged-1 Signal From Bone Marrow Microenvironment Is Required for Endothelial Progenitor Cell Development for Neovascularization
Circulation , 118 , 157-165  (2008)
原著論文2
Matsuura K, Honda A, Nagai T, etal.
Transplantation of cardiac progenitor cells ameliorates cardiac dysfunction after myocardial infarction in mice.
J Clin Invest , 119 (8) , 2204-2217  (2009)
原著論文3
Kawamoto A, Katayama M, Handa N,etal.
Intramuscular Transplantation of Granulocyte Colony Stimulating Factor-Mobilized CD34-Positive Cells in Patients with Critical Limb Ischemia: A Phase I/IIa, Multi-Center, Single-Blind and Dose-Escalation Clinical Trial
Stem Cells , 27 (11) , 2857-2864  (2009)
原著論文4
Iwasaki H, Kawamoto A, Willwerth C,etal.
Therapeutic Potential of Unrestricted Somatic Stem Cells Isolated From Placental Cord Blood for Cardiac Repair Post Myocardial Infarction.
Arterioscler Thromb Vasc Biol , 29 (11) , 1830-1835  (2009)
原著論文5
Matsumoto T, Ii M, Nishimura H,etal.
Lnk-dependent axis of SCF-cKit signal for osteogenesis in bone fracture healing.
J Exp Med , 207 (10) , 2207-2223  (2010)
原著論文6
Kuroda R, Matsumoto T, Miwa M,etal.
Local Transplantation of G-CSF-Mobilized CD34+ Cells in a Patient with Tibial Nonunion: A Case Report.
Cell Transplant  (2010)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201006001Z