宮崎県の口蹄疫対策における被災者支援とその実績に基づいた精神保健対策マニュアル作成に関する研究

文献情報

文献番号
201005016A
報告書区分
総括
研究課題名
宮崎県の口蹄疫対策における被災者支援とその実績に基づいた精神保健対策マニュアル作成に関する研究
課題番号
H22-特別・指定-019
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
石田 康(宮崎大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡 路子(宮崎県精神保健福祉センター)
  • 松尾 祐子(宮崎県精神保健福祉センター)
  • 金 吉晴(国立精神・神経センター 精神保健研究所 成人精神保健部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 平成22年4月に国内で10年ぶりの口蹄疫感染が宮崎で確認された。約3ヶ月にわたり感染は拡大し続け、国内最大の感染事例となり、特定家畜伝染病防疫方針に基づいた交通遮断、生体の搬出制限、家畜の殺処分等が行われた。
 本研究においては、国内で最大の感染拡大を経験した宮崎県における、約1300戸に及び被災畜産農家に対する継続調査と防疫従事者の健康調査等により、口蹄疫発生下での精神及び身体の健康状態と健康不調に対するリスク因子を分析する。その結果を用いて、エビデンスに基づいた都道府県のための口蹄疫対策における精神保健対策マニュアルを作成する。
研究方法
 平成22年6月~8月の期間において、全被災農家1300戸に対し、保健師による電話スクリーニングにより、口蹄疫発生下での身体および精神の健康状態の調査を行い、健康不調に対するリスク因子(家畜の殺処分等の負荷状況、その他個別の要因等)を分析した。また、感染周辺地域の住民および防疫従事者については、終息宣言の約半年後に自記式の調査用紙を用いた健康調査を行い、同様の分析を行った。これらの結果については、口蹄疫発生前の国民生活基礎調査の宮崎県のデータを用い、被災前の通常時との比較検討を行った。被災農家における分析方法については以下のとおりである。全体データだけでなく、最も被災の大きかった川南町は個別に分析した。また、基礎的な集計に加え、K6を従属変数とした重回帰分析とロジスティック解析を行い、調整済みR二乗とオッズ比を求めた。カテゴリカルデータ間の分析はχ二乗検定を行った。地域住民および防疫従事者における分析方法ついては、基礎的な集計に加え、ロジスティック解析を用いオッズ比を求めた。
結果と考察
 被災農家においては2割に何らかの健康影響が認められた。K6ポイントがカットオフポイント(15点)以上となるリスク因子としては、女性、発生農家、口蹄疫に関する相談経験がないことの他、家族や対人関係の問題を抱えている、既往歴があるなど、被災以前に何らかの問題を抱えている場合であった。また、自治体により抑うつ症状の程度に有意差が認められ、ワクチン接種から殺処分、埋却業務に時間を要した自治体ではK6ポイントが高い傾向であった。地域住民については、終息宣言後半年が経っても事業再開が見込めない者が3割を越え、経済問題に関する悩みの訴えが最多となり、通常時に比較して身体および精神的不調を訴える者の割合が高くなる傾向を認めた。防疫従事者については、家畜の殺処分業務において、1回につき8時間以上の長時間労働となる割合が6割となるなど、過重労働の状況を認め、特に家畜死体の埋却業務に従事した場合に抑うつ症状などの健康影響のリスクが上がる可能性があった。
結論
 口蹄疫被災時は、被災農家については、長期に渡る孤立状況や生活様式の変化を背景に、女性や相談をしない傾向の者の他、被災前から何らかの問題を抱える者が抑うつ状態のハイリスク者となるため、“普段、問題を抱える人がどこにいるのか”を把握するための、通常時の地域精神保健活動の充実が最も重要である。一方で、自治体による抑うつ症状の程度の有意差は、各地域の防疫体制の整備状況も健康に影響を与える可能性を示唆している。口蹄疫感染周辺地域の住民については、経済的影響が終息後半年経過しても持続し、抑うつ症状と関連していたことから、長期的な地域精神保健活動が必要である。また、今回の防疫作業は長時間の過重労働が顕著であり、特に普段から家畜に接することのない職員を従事させる場合には、一定の配慮が必要となると考えられた。これらの結果に基づき、口蹄疫発生時の自治体における精神保健対策マニュアルを作成した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201005016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内最大の感染事例となった口蹄疫被害を、特殊な災害と捉えその影響を精神保健的観点から調査研究を行ったことは、大きな意義を持つものであった。特に被災農家のスクリーニングを、直接電話という方法で調査研究できたことは、より詳細な状態の把握を可能とし、その研究成果については、今後同様の災害時での活用のみならず、日常の地域精神保健活動への重要な示唆となった。
臨床的観点からの成果
本研究調査において、うつと不安のスクリーニング尺度であるK6を使用しており、その他の調査項目と併せてハイリスクと判断されたものは、別途個別に通知をおこなった。また、研究成果についても、口蹄疫災害時の精神状態についての貴重なデータとなり、今後同様の災害時における実際の臨床場面においても活用できる。
ガイドライン等の開発
口蹄疫発生かでの精神及び身体の健康状態と健康不調に対するリスク因子(経済的要因、殺処分等の負荷状況、その他個別の要因等)を分析し、口蹄疫発生時の自治体における精神保健対策マニュアルを作成。
その他行政的観点からの成果
口蹄疫被災時の状況やその対応について調査研究を行い、その結果に基づいたマニュアルを作成したことで、今後、同様の災害発生時における活用等、地域保健行政への貢献が期待できる。
その他のインパクト
調査で明らかになった研究知見と実際に行われている支援活動における支援内容や問題点等について整理し、今後の調査研究、支援方法や精神保健活動に活かすことを目的に、口蹄疫関連の支援者を対象とした研修会を開催。
また、報告書については、県内及び全国の関連施設へ配布。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
口蹄疫対策における精神保健対策マニュアル
その他成果(普及・啓発活動)
1件
口蹄疫関連支援者向け研修会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201005016Z