社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201001036A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究
課題番号
H22-政策・一般-018
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲垣 誠一 (一橋大学 経済研究所)
  • 岩木 秀夫(日本女子大学 人間社会学部)
  • 岩本 康志(東京大学 大学院経済学研究科)
  • 音山 若穂(群馬大学 大学院教育学研究科)
  • 西山 裕(北海道大学 公共政策大学院)
  • 森口 千晶(一橋大学 経済研究所)
  • 八塩 裕之(京都産業大学経済学部)
  • 湯田 道生(中京大学 経済学部)
  • 米山 正敏(国立保健医療科学院 福祉サービス部)
  • 松本 勝明(国立社会保障・人口問題研究所 政策研究調整官 )
  • 東 修司(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 山本 克也(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 暮石 渉 (国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療介護福祉等の給付の提供に関わる人々(福祉マンパワー)の確保・定着に関連して、近年、地域別・分野別の人手不足や介護分野での離職問題などが明らかになり、対策が採られ始めている。しかし、高齢者の増加で医療介護に対するニーズが増え、これに応えるサービスを提供する医療介護従事者の不足が見られる一方、若年者の就職難など労働市場のミスマッチや待遇改善の課題が残されている。そのため、福祉マンパワーの確保定着には、働くインセンティブ(誘因)と適切な人材配置等を可能にする諸条件を、マンパワーの費用を支える社会保障財政とバランスを保ちながら整備・拡充していく制度横断的な取組みが必要である。特に、専門職に就く人々の社会的背景には多様な要素が関係するため、経済学、教育社会学、心理学、制度分析などを用いて多角的に分析する必要がある。従って、本研究では、福祉マンパワーの実態と動向に関するデータに基づく実証分析と福祉マンパワーの課題に関する制度分析・国際比較を行い、今後の社会保障政策に資するエビデンスを提供することを目的に研究を行う。
研究方法
社会保障給付の人的側面と社会保障財政に関する分析には、ニーズに対応する福祉マンパワーの実証分析(推計を含む)と福祉マンパワーになりうる若年者の就労と人材の専門性に関する制度分析が必要である。また、専門職に就く人々の社会的背景やインセンティブには多様な要素が関係するため、研究動向を把握する有識者からのヒアリングを行うと共に、経済学、教育社会学、心理学、国際比較などにより多角的に分析する。社会保障給付の人的側面については、介護ニーズに基づく介護マンパワーの推計、若年者の教育・入職経路と地域就労、介護福祉サービス提供の制度改正と人的資源(介護福祉士・社会福祉士)の専門性に関する分析を行うと共に、介護福祉分野の人的資源の活動実態と課題発掘に関するヒアリング調査を行。国際比較については、福祉マンパワーに関わる比較福祉国家研究の展開、男女格差改善とワークライフバランス政策の動向、世代間の所得移転と人的資源(子ども世代の能力向上)の関係、医療分野の専門職確保に関するドイツの改革動向などをテーマに分析を行う。人的側面と社会保障財政との関係は、特定健康診査等を担う人材と財源の在り方、行政費用の効率性評価に関わる国民健康保険の実証分析などを行う。
結果と考察
社会保障給付の人的側面について、介護ニーズに基づく介護マンパワーを推計した結果、施設配置が現行のままだと看護職員を除く介護職数は2025年に130万人、2035年以降は160万人になり、その人件費を含む介護費用は現行制度が続くと仮定する場合と比べて、軽介護在宅移行(要介護度1と2の者が施設介護から居宅系介護に移行)を想定した場合、介護費用は約1.5~2兆円ほど抑制できることが分かった。介護福祉士・社会福祉士に着目した介護・福祉サービス提供の制度改正と専門性に関する分析を行った結果、介護職員についてはNPO法人の事業や地域密着型事業等で専門性に自信が持てず悩む若手従事者たちに応える取組が必要であること、社会福祉士については相談支援や連絡調整に留まらず地域と連携した事業企画・実行といった取組みにまで踏込んで役割を果たすことが必要であることが明らかになった。福祉マンパワーには非正規就業者も多く、非正規就業者に関わる問題を改善するため正規雇用化と就業前の教育と労働インフラとの関係の観点から人的側面に関する分析を行う必要がある。非正規就業者となる背景には親の学歴・所得水準などが世代間を通じて子ども世代に移転することがあることが欧米の先行研究で指摘されていることを踏まえ、先行研究を政策研究に応用するため、ジャネット・ゴルニック(ニューヨーク市立大学教授)、マーカス・ジャンティ(ストックホルム大学教授)を招聘し共同研究を行った。社会保障財政の在り方については、特定健康診査等を担う人材と財源の在り方に関する制度分析から事業の効果的効率的展開を可能にする条件の検討が重要であることが、国民健康保険の最小効率規模に関する実証分析から国保特会には規模の経済性があり国保の統合・再編にはメリットがあることが明らかになった。
結論
社会保障給付の人的側面は、マンパワーの面と専門職性の両面から分析する必要がある。社会保障給付の人的側面を支える社会保障財政については、負担軽減のため給付を効率的にする条件とニーズに基づく給付を可能にする条件など、多角的な研究が必要である。本研究の成果は、社会保障国民会議最終報告に基づく機能強化の課題(医師等人材確保対策仕事、子育ての両立を支えるサービスの確保、居住系サービスの拡充など)と効率化に関する課題それぞれに対応する研究成果を含み、今後の社会保障改革の諸課題に対応する検討の基礎的情報となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201001036Z