診療所及び高齢者施設を対象とする効率的・効果的な薬剤耐性菌制御手法の確立のための研究

文献情報

文献番号
202418001A
報告書区分
総括
研究課題名
診療所及び高齢者施設を対象とする効率的・効果的な薬剤耐性菌制御手法の確立のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
大毛 宏喜(国立大学法人広島大学 病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 菅井 基行(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 八木 哲也(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 矢原 耕史(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学講座)
  • 村木 優一(三重大学医学部附属病院 薬剤部)
  • 清祐 麻紀子(九州大学病院 検査部)
  • 森 美菜子(広島大学病院 感染制御部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
8,630,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は以下の2つのテーマについて,基礎研究者と臨床の多職種連携による,菌株の分子疫学解析,抗菌薬使用状況分析といった科学的根拠に基づいた効率的な薬剤耐性対策提言を目的としている.
①診療所における薬剤耐性菌対策は経口抗菌薬の適正使用である.処方医に対して適正化のアプローチをする上では,処方量の削減が薬剤耐性菌対策に有効なのか,それによって治療成績に影響はないのか,患者の満足度低下に繋がらないのか,といった疑問に対する回答が必要である.本研究では各種大規模データベースや,地域連携情報を元に,これらの疑問点の検討を行った.
②高齢者施設が地域で薬剤耐性菌のリザーバーとなっていることを本研究班で明らかにしてきた.財源や人材が不足する中で,現実的な感染対策のあり方を明示することを目的として研究を行った.
研究方法
①診療所における抗菌薬適正使用の推進
・大規模データを活用した抗菌薬使用状況の把握と,薬剤耐性菌状況との関係を分析することを通じて,経口抗菌薬使用の適正化が必要な根拠を示した.
・外来感染対策向上加算連携している産婦人科クリニックの処方状況把握を通じて,経口抗菌薬処方の適正化の方向性を模索した.
・WHOの抗菌薬分類におけるAccess比率適正化に,大学病院の連携が有効かを調査した.
・微生物検査の適正化に関する調査を行った.
②高齢者施設における薬剤耐性菌対策ガイドの出版
 実地調査も行いながら,各研究分担者の視点から,高齢者施設に勤務する各職種が理解しやすい記述と図示を多用したガイドを作成した.
結果と考察
①診療所と病院ではキノロン系薬と第3世代セフェム系薬の処方量が3倍程度異なるが,両者で分離される血液由来の大腸菌の両薬剤に対する感受性は,診療所で有意に低かった.このデータは診療所で多用される経口抗菌薬の使用適正化が,薬剤耐性菌対策として有用である可能性を示す重要な根拠となる.今後の政策推進において,WHOの抗菌薬分類でaccess抗菌薬の使用比率を上昇させる方針を支持するものであると考える.今後他の抗菌薬や薬剤耐性菌,さらには小児における同様の科学的根拠が求められる.また次の課題として,抗菌薬の使用削減が感染症治療予後に影響を及ぼさないかの研究が必要である.
②高齢者施設における薬剤耐性菌対策ガイドを発刊した.多くのイラストを使用して,ポイントを明示する形式で編集した.問題は医療機関でディスポーザブルになっている医療材料が,高齢者施設では複数回使用である点で,現時点で直ちに単回使用を勧めるガイドにする事は出来なかった.複数回使用のための洗浄方法などを記述し,現実的な対応とする一方で,今後に向けて目標をあわせて記載した.
結論
 診療所の抗菌薬適正使用推進に向けた政策立案において,必要性の科学的根拠を示し,系抗菌薬処方量の削減は,薬剤感受性改善に有効であるという大前提を提示した.今後医師・患者の両者にどのようにアプローチすれば良いかを明らかにすることで,現実的な処方の適正化方針を提言することが可能になると期待する.処方医にとっては,抗菌薬処方量の削減で,治療成績に影響しないかが第一の心配である.ウイルス疾患と考えられるものの,細菌感染症を否定できない病態も多い.またグラム染色など直ちに情報が得られる検査も診療所では実施困難な場合が多く,手がかり無しに判断するのは難しい.今後の研究は処方の適正化と患者予後,そして適切な検査のあり方を明らかにする必要がある.
 高齢者施設の薬剤耐性菌対策を困難にしている最大の要因は,医療と家庭の中間的な存在である点にある.病院では医療材料は単回使用だが,家庭では歯ブラシは何度も使う.このような違いが随所にあることがわかった.本研究班で発行したガイドは,今後高齢者施設で目指すべき方向性を示した.財源や人材育成など課題があるものの,行程を示した点で意義が大きいと考える.現場での反応を見ながらガイドの内容の改善を図りたい.

公開日・更新日

公開日
2025-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
202418001B
報告書区分
総合
研究課題名
診療所及び高齢者施設を対象とする効率的・効果的な薬剤耐性菌制御手法の確立のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
大毛 宏喜(国立大学法人広島大学 病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 菅井 基行(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 八木 哲也(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 矢原 耕史(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学講座)
  • 村木 優一(京都薬科大学 臨床薬剤疫学分野)
  • 清祐 麻紀子(九州大学病院 検査部)
  • 森 美菜子(広島大学病院 感染制御部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は以下の2つのテーマについて,基礎研究者と臨床の多職種連携による,菌株の分子疫学解析,抗菌薬使用状況分析といった科学的根拠に基づいた効率的な薬剤耐性対策提言を目的としている.
①診療所における薬剤耐性菌対策は経口抗菌薬の適正使用である.処方医に対して適正化のアプローチをする上では,処方量の削減が薬剤耐性菌対策に有効なのか,それによって治療成績に影響はないのか,患者の満足度低下に繋がらないのか,といった疑問に対する回答が必要である.本研究では各種大規模データベースや,地域連携情報を元に,これらの疑問点の検討を行った.
②高齢者施設が地域で薬剤耐性菌のリザーバーとなっていることを本研究班で明らかにしてきた.財源や人材が不足する中で,現実的な感染対策のあり方を明示することを目的として研究を行った.
研究方法
①診療所における抗菌薬適正使用
 第一に大規模データベースで経口抗菌薬の処方状況を用い,二次医療圏毎もしくは診療科毎の処方状況と登録された病名との関係の解析を行った.これに検査センターに提出された微生物検査情報の薬剤感受性データを統合し,処方医が何に対してどんな抗菌薬を処方しているのか,その結果薬剤感受性に何らかの影響を及ぼしているのかを分析した.
 第二に診療所の医師の処方行動へのアプローチとして,地域医療中核の大学病院臨床医の視点で,診療所医師の処方行動を変容させることが可能かを検討した.
 第三に臨床検査の観点から,どのような地域連携を行えば,診療所医師の抗菌薬適正使用に貢献可能かを研究した.

②高齢者施設における薬剤耐性菌対策
 「高齢者施設における薬剤耐性菌対策ガイド」を発行することとした.高齢者施設での実地調査に基づき,病院との違いを明らかにするとともに,研究班の各職種の視点からテーマ毎に「ポイント」を図示した.なお過去に発行されている「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年)」「介護現場における感染対策の手引き第2版(2021年)」との整合性に留意した.
結果と考察
①診療所における抗菌薬適正使用の推進
 診療所での抗菌薬処方の適正化に向けては,患者家族側因子,処方医側の因子の二つの課題がある.本研究では主に後者についてどのように改善を進めるかを検討した.
・診療所と病院ではキノロン系薬と第3世代セフェム系薬の処方量が3倍程度異なるが,両者で分離される血液由来の大腸菌の両薬剤に対する感受性は,診療所で有意に低かった.本結果は経口抗菌薬の処方量と薬剤耐性との関係を明確に証明した点で意義が大きい.今後は小児領域においても同様の検討を行い,現在の抗菌薬処方が薬剤耐性菌対策上問題であるという根拠を積み重ねる必要がある.
・耳鼻咽喉科で急性上気道炎と診断された小児外来患者8,010人を対象とした調査では,検査の実施率は低く,多くが複数病名が付けられていた.第3世代セフェム系薬,キノロン系薬,マクロライドの3種類は我が国で処方量が多い経口抗菌薬である.適正化とはすなわちこれらの薬剤の処方量縮小と言い換えることが出来る.その結果薬剤感受性率の改善が得られれば,施策の正当性を示すことが出来る.
・大学病院を中心とした地域連携において,診療所での抗菌薬使用適正化は容易でなかった.理屈はわかるものの目の前の患者の診療では簡単に割り切れない,という医師の本音がある.また診療所間で対象疾患や患者背景が異なる事から,一律の適正化は容易でないと考えられた.
・診療所をはじめ微生物検査を外部委託している医療機関では,検査レポートの適切な評価が難しい.そこで専門家が検査結果の解釈を伝えることで,検査目的の明確化や適切な検査法の理解が進むことが明らかになった.地域連携により微生物検査を適正に行い,結果を正しく解釈するための教育活動が欠かせないと考える.
 
②高齢者施設における薬剤耐性菌対策ガイドを発刊した.多くのイラストを使用して,ポイントを明示する形式で編集した.問題は医療機関でディスポーザブルになっている医療材料が,高齢者施設では複数回使用である点で,現時点で直ちに単回使用を勧めるガイドにする事は出来なかった.複数回使用のための洗浄方法などを記述し,現実的な対応とする一方で,今後に向けて目標をあわせて記載した.
結論
 診療所の抗菌薬適正使用と高齢者施設の薬剤耐性菌対策を多職種で構成された研究班で検討した.いずれも道半ばであり,解決すべき課題が山積している.既に我が国で確立された加算算定医療機関における感染制御チームと地域連携の枠組みは,診療所と高齢者施設に活動のフィールドを拡げ,裾野の広い薬剤耐性対策を地道に進めていく必要があると再認識した.

公開日・更新日

公開日
2025-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202418001C

収支報告書

文献番号
202418001Z