認知症診療医のための「特発性正常圧水頭症の鑑別診断とアルツハイマー病併存診断、および診療連携構築のための実践的手引き書と検査解説ビデオ」作成研究

文献情報

文献番号
202416002A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症診療医のための「特発性正常圧水頭症の鑑別診断とアルツハイマー病併存診断、および診療連携構築のための実践的手引き書と検査解説ビデオ」作成研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GB1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
数井 裕光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 伊関 千書(東北大学病院 リハビリテーション部)
  • 中島 円(順天堂大学 医学部)
  • 鐘本 英輝(大阪大学 大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター)
  • 森 悦朗(大阪大学大学院 連合小児発達学研究科 行動神経学・神経精神医学寄附講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
5,911,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症診療医のiNPH診療と脳神経外科施設との連携構築を支援するために「特発性正常圧水頭症(iNPH)と類似疾患との鑑別診断、および併存診断と治療、診療連携構築のための実践的手引き書(以下手引き書と略す)」と「タップテスト解説ビデオ」を作成する。
研究方法
認知症診療医のiNPH診療と脳神経外科施設との連携構築を支援するために「特発性正常圧水頭症(iNPH)と類似疾患との鑑別診断、および併存診断と治療、診療連携構築のための実践的手引き書(以下手引き書と略す)」と「タップテスト解説ビデオ」を作成する。
結果と考察
作成した手引き書は、第1章:iNPH診断の流れ、第2章:タップテスト実施手順、第3章:iNPHと類似疾患との鑑別/併存診断方法、第4章:シャント手術関連知見と術後の診療における留意点、第5章:認知症診療医と脳神経外科施設との円滑な連携構築に役立つ知見の合計25頁となった。またSINPHONI-3研究、パーキンソン病(PD)関連疾患を併存したiNPHに対するシャント効果を検討した研究から、ADやPDを併存したiNPHに対してもシャント手術の効果が得られることが示唆されたため、この知見を手引き書に加えた。
それぞれの章の主たる内容を列挙する。第1章には、iNPH診療ガイドライン第3版の診断と治療のアルゴリズム、3徴の特徴とDESH画像とその解説を掲載した。第2章では、腰椎穿刺は19ゲージより太い穿刺針を使用することの重要性を明記した。またタップテスト解説ビデオで使用した図表を使用することで一貫性を持たせた。また「タップテストでまだよくわかっていないこと」という項目を作成して、シャント手術後の転機を予測するために最も有用なスパイナル針の太さ、脳脊髄液(CSF)排除量についてのエビデンスは十分でないこと、効果判定のための評価のタイミング、判定基準が確定できていないことを明記した。そしてこれら不明な点の一部に回答する目的で、次年度に日本正常圧水頭症学会会員に対して実施したタップテストの方法に関するアンケート調査結果を記載した。第3章のiNPHと類似疾患の鑑別/併存診断については、まずiNPHと他疾患の併存の可能性を残しておくことの重要性を明記した。またiNPHにADが併存しているか否かとその結果に基づいた治療法の選択についてはフローチャートを作成し、タップテストの陽性/陰性とCSF中のバイオマーカー検査結果でADの併存が陽性/陰性の2×2の表を作成し、その中でそれぞれの疾患の有無による治療法の選択方法を明記した。またレビー小体病(LBD)を併存したiNPH患者については、タップテストの陽性/陰性とドパミンチャレンジテストの陽性/陰性で同様の2×2の表を作成し、治療法の選択方法を明記した。さらに併存例の治療に関しては、優勢な症状を呈している疾患の治療を優先することとした。第4章には、脳神経外科医がシャント手術の実施や術式を決定する際に留意している事項とシャント手術後の診療内容についてまとめた。ここにシャント手術前のチェックリスト、手術手技の選択肢のフローチャートを掲載した。またシャント手術後の管理方法については、エキスパートオピニオンを募り、これをまとめた。第5章には、次年度に行った全国の脳神経外科施設に対する調査の結果の中から、シャント手術の実施状況、シャント手術の実施に消極的になるiNPH患者の特徴、シャント手術の実施を向上させる工夫など認知症診療医と脳神経外科施設との連携に役立つ知見を掲載した。
タップテスト解説ビデオについては、実施方法、陽性/陰性の判定方法や基準、実施前の注意事項のみならず、iNPHの診断基準やDESHについても11分程度にまとめた。このビデオを参考にすることでタップテストを実施する認知症診療医が増加すると思われる。
結論
当初の計画通り「手引き書」と「タップテスト解説ビデオ」を完成させ、日本正常圧水頭症学会のホームページで公開した。また手引き書は冊子体として全国の認知症疾患医療センター、大学病院脳神経内科・精神科・老年病科・脳神経外科等に送付した。さらに日本認知症学会、日本老年精神医学会などの7学会の会員にも告知した。また本研究活動を、日本認知症学会学術集会のシンポジウムなどで発表するとともに、老年精神医学雑誌2025年7月号の特集に複数の論文として発表する。このように多くのチャネルを使って広報しているため、今後のiNPH診療に参加する認知症診療医が増えると考えている。

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
202416002B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症診療医のための「特発性正常圧水頭症の鑑別診断とアルツハイマー病併存診断、および診療連携構築のための実践的手引き書と検査解説ビデオ」作成研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GB1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
数井 裕光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 伊関 千書(東北大学病院 リハビリテーション部)
  • 中島 円(順天堂大学 医学部)
  • 鐘本 英輝(大阪大学 大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター)
  • 森 悦朗(大阪大学大学院 連合小児発達学研究科 行動神経学・神経精神医学寄附講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症診療医の特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)患者に対する診療と脳神経外科施設との連携構築を支援するために「特発性正常圧水頭症(iNPH)と類似疾患との鑑別診断、および併存診断と治療、診療連携構築のための実践的手引き書(以下手引き書と略す)」と「タップテスト解説ビデオ」を作成する。
研究方法
初年度に文献レビューを行い、iNPH診療における課題を確認し、手引き書に記載すべき重要なクリニカルクエスチョンに関するエビデンスを収集した。またエビデンスが不十分なクリニカルクエスチョンに対しては、調査と研究を実施した。調査については、日本脳神経外科学会会員に対するiNPH診療の実態調査、日本正常圧水頭症学会会員に対するタップテストの実施方法に関する調査、iNPHに対するシャント手術を多数実施している脳神経外科医に対するシャント手術の実施と術式を決定する方法、術後の診療方法についての調査の3つを実施した。また研究に関しては、脳脊髄液(cerebrospinal fluid: CSF)中のリン酸化タウ蛋白値によって、アルツハイマー病(AD)を併存したiNPH患者と併存していないiNPH患者に分類し、さらにAD併存iNPH患者を、シャント手術を実施する群とシャント手術以外の治療法で診療する群に無作為に割り付けて2年後の改善を比較するSINPHONI-3、およびパーキンソン病(PD)関連疾患を併存したiNPH患者に対するシャント手術の効果を検討する研究を行った。以上の文献レビュー、調査、研究の結果を基に、手引き書とタップテスト解説ビデオを作成した。その後、両資材に対するパブリックコメントを募集し、このコメントを基に改訂して、両資材を完成させ、公開した。
結果と考察
初年度の文献レビューによって、iNPH診療の課題に関しては「的確な診断を受けていないiNPH患者が存在する」、「iNPH診療ガイドライン第3版では、鑑別診断プロセスがほとんど示されていない」などが確認された。またADやレビー小体病(LBD)とiNPHとの鑑別/併存診断に役立つ神経画像検査、CSF中のバイオマーカーに関する知見を整理した。また本研究で実施した調査によって、iNPH患者に対して他の認知症疾患の鑑別診断を行っている脳神経外科施設は3割程度であること、タップテストによって歩行や認知が改善したことを示す客観的データが記載された紹介状があると脳神経外科施設におけるシャント手術の実施率が上がること、脳神経外科医はADを併存したiNPH患者のシャント手術には消極的になることなどが明らかになった。またiNPH患者に対する臨床研究によってADやPDを併存したiNPH患者でもシャント手術の効果が示唆された。以上の結果を手引き書やタップテスト解説ビデオに加えた。
作成した手引き書は、第1章:iNPH診断の流れ(iNPH診療ガイドライン第3版の診断と治療のアルゴリズム、iNPHの3徴の特徴、DESH画像を簡潔に解説)、第2章:タップテスト実施手順(解説ビデオとリンクした内容)、第3章:iNPHと類似疾患との鑑別/併存診断方法(ADとLBDに関しては診断と治療のフローチャートを作成)、第4章:シャント手術関連知見と術後の診療における留意点、第5章:認知症診療医と脳神経外科施設との円滑な連携構築に役立つ知見の合計25頁となった。
タップテスト解説ビデオは、我々の先行研究で、タップテストを実施している認知症疾患医療センターが2割弱と少なかったため作成した。腰椎穿刺の方法、穿刺針は19ゲージより太い針を使用することの重要性、陽性/陰性の判定方法と基準、実施前の注意事項のみならず、iNPHの診断基準やDESHについても11分程度にまとめた。
今回作成した手引き書、タップテスト解説動画は、日本正常圧水頭症学会のホームページで公開している。また日本認知症学会、日本老年精神医学会等の7学会の会員にも告知した。さらに手引き書は冊子体として全国の認知症疾患医療センター、大学病院脳神経内科・精神科・老年病科・脳神経外科、日本正常圧水頭症学会員等に郵送した。また本研究活動を、日本認知症学会学術集会のシンポジウム等で発表し、老年精神医学雑誌2025年7月号に複数の論文として発表した。このように多くのチャネルを使って両資材を広報しているため、今後のiNPH診療に参加する認知症診療医が増えると考えている。
結論
iNPH診療に対する認知症診療医の参加を促進するために、文献レビュー、調査、研究などの結果を総合して、「特発性正常圧水頭症と類似疾患との鑑別診断と治療、診療連携構築のための実践的手引き書」と「タップテスト解説ビデオ」を作成し、広報した。

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202416002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
特発性正常圧水頭症(iNPH)に関する現在の重要な臨床課題に対する回答を、本研究で実施した最新の文献レビュー、調査、および臨床研究の結果を基に作成し、これらを「特発性正常圧水頭症(iNPH)と類似疾患との鑑別診断、および併存診断と治療、診療連携構築のための実践的手引き書(以下手引き書と略す)」と「タップテスト解説ビデオ」としてまとめた。本手引き書の内容は新規の重要な事項が多く含まれていたため国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
本手引き書の普及により、治療可能な認知症であるiNPHを、臨床医が見逃すこと無く、早期に診断できるようになる。またiNPHを適切に鑑別/併存診断する認知症診療医とシャント手術を実施する脳神経外科施設との連携が向上するため、iNPH患者の治療成績が向上する。これにより介護のためにやむを得ず離職する家族が減少し、我が国の労働力人口の維持に貢献できる。また治療できた認知症の人が世の中に増加することで、認知症基本法が目指す、国民の新しい認知症観の定着に寄与する。
ガイドライン等の開発
我々の先行研究によって、我が国の認知症診療の中核機関である認知症疾患医療センターでiNPH診療ガイドラインの使用率が3割程度であることが明らかになった。このことは認知症の中核施設で、治療可能な認知症を適切に診療していない事実を浮き彫りになったとも言える。本手引き書とタップテスト解説ビデオは、iNPHの診療ガイドラインの中から診療に必要なミニマムエッセンスを抽出して簡潔にまとめたものである。そこで両成果物の使用によって、ガイドラインに準じたiNPH診療が可能になると考えられる。
その他行政的観点からの成果
本研究で実施された、全国の脳神経外科施設に対するiNPH診療の実態調査によって、1年間に1例もシャント手術を実施していない施設が2割有り、約4割の施設で1年間に5例以下のシャント手術しか実施していないことがわかった。また3割程度の施設でしか他の類似疾患との鑑別/併存診断を行っていないことも明らかになった。これらのデータは、今後のiNPH患者に対するシャント手術実施の全国の均てん化をはかるためには重要なデータとなる。
その他のインパクト
今回作成した手引き書、タップテスト解説動画は、日本正常圧水頭症学会のホームページで公開している。また日本認知症学会、日本老年精神医学会等の7学会の会員にも告知した。さらに手引き書は冊子体として全国の認知症疾患医療センター、大学病院脳神経内科・精神科・老年病科・脳神経外科、日本正常圧水頭症学会員等に郵送した。また日本認知症学会学術集会、日本老年精神医学会のシンポジウム等で発表し、老年精神医学雑誌2025年7月号に複数の論文として発表した。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
22件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
35件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
手引き書1件、動画1件
その他成果(普及・啓発活動)
12件
ホームページ8件、学術集会講演2件、シンポジウム1件、雑誌掲載1件 合計12件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Koichiro Sakamoto, Masakazu Miyajima, Madoka Nakajima, et al
Loss of Dnah5 downregulates Dync1h1 expression, causing cortical development disorders and congenital hydrocephalus
Cells , 13 (22) , 1882-  (2024)
10.3390/cells13221882
原著論文2
Chihiro Kamohara, Madoka Nakajima, Yuji Nozaki, et al
A new test for evaluation of marginal cognitive function deficits in idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus through expressing texture recognition by sound symbolic words
Front Aging Neurosci , 16 , 1456242-  (2024)
10.3389/fnagi.2024.1456242
原著論文3
Kanemoto H, Mori E, Tanaka T, et al
Cerebrospinal fluid amyloid beta and response of cognition to a tap test in idiopathic normal pressure hydrocephalus: a case-control study
Int Psychogeriatr , 35 (9) , 509-517  (2023)
10.1017/S1041610221000661
原著論文4
Ishikawa M, Mori E
Association of gait and cognition after surgery in patients with idiopathic normal pressure hydrocephalus
Scientific Reports , 13 (1) , 18460-  (2023)
10.1038/s41598-023-45629-8
原著論文5
Chadani Y, Kashibayashi T, Yamamoto T, et al
Association of right precuneus compression with apathy in idiopathic normal pressure hydrocephalus: A pilot study
Scientific Reports , 12 (1) , 20428-  (2022)
10.1038/s41598-022-23800-x
原著論文6
伊関千書,小林良太,春日健作,他
特発性正常圧水頭症の症例で複合病理を考慮する 5症例のバイオマーカーから
老年精神医学雑誌 , 33 (増刊II) , 230-  (2022)

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202416002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,684,000円
(2)補助金確定額
7,684,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 860,065円
人件費・謝金 0円
旅費 1,428,994円
その他 3,621,941円
間接経費 1,773,000円
合計 7,684,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
-