認知症者の在宅生活を維持する非訪問型の生活評価・介入システムの標準化に関する研究

文献情報

文献番号
202416001A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症者の在宅生活を維持する非訪問型の生活評価・介入システムの標準化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GB1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅之(鹿児島大学)
  • 釜江 和恵(繁信 和恵)((財)浅香山病院 精神科医局)
  • 石川 智久(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神科)
  • 鐘本 英輝(大阪大学 大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター)
  • 松原 茂樹(大阪大学 大学院工学研究科 地球総合工学専攻)
  • 田平 隆行(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系)
  • 堀田 牧(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
  • 永田 優馬(大阪大学 精神医学教室)
  • 石丸 大貴(大阪大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
11,124,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 佐藤俊介(令和4年4月1日~6年3月31日) →鐘本英輝(令和6年4月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、感染症蔓延下においても多職種が患家を訪れずに介護者に依頼した自宅の写真から住環境やADL評価を行うPhoto Assessment(PA)(Ishimaru et al., 2022)と、患家のPCからZOOMを通じて多職種が生活指導を行うOnline Management(以下、O-MGT)を以って、非訪問型の生活評価および生活指導のシステム構築と標準化を目的とした。最終年度は、対象者にPA-ADLとO-MGTの介入を実施し、その結果より、PA-ADLとO-MGTが非訪問型の介入システムとして実用的か、その適性と課題について検証を行った。
研究方法
2024年4月から2024年12月の期間、大阪大学および研究関連施設(鹿児島大学、浅香山病院、荒尾こころの郷病院、みつぐまち診療所)に登録した者で、通常診療による問診、精神神経学的診察、頭部MRIなどの脳画像、MMSE、CDR、NPIなどの神経心理学的検査や精神症状評価尺度を施行し、認知症専門医によってアルツハイマー型認知症(AD)もしくは軽度認知障害(MCI)と診断され、MMSE17点以上、CDR0.5~1を満たし、家族介護者と同居しており、運動機能や身体機能に生活上問題がない在宅生活者を対象とした。対象者への評価・介入期間は約3か月間とし、専門職種がPA-ADLおよびO-MGTを実施した。
1.PA-ADL介入:対象者と家族介護者から住環境やADLの聞き取り評価を行い、自宅撮影用のデジタルカメラを貸与する。撮影後に回収した写真と事前の聞き取りから生活状況の分析および評価を行い、生活課題を対象者と家族介護者に、来院時もしくはZOOMで説明を行う。
介入前後に行う評価尺度は、主要評価として、PSMS(Physical Self-Maintenance Scale:日常生活動作)、IADL(Lawton Instrumental Activities of Daily Living Scale:手段的日常生活動作)、PADA-D(Process Analysis of Daily Activity for Dementia:生活行為工程分析表)とした。副次評価は、MMSE-J(全般的認知機能検査日本語版)、GDS(Geriatric Depression Scale:抑うつ尺度)、・NPI(Neuropsychiatric Inventory:認知症の精神症状・行動障害)、J-ZBI 8 (日本語版Zarit介護負担尺度短縮版)とした。
2.O-MGT介入:PA-ADLによる生活課題からO-MGTの目標・介入内容を設定する。週1回1時間程度、ZOOMによる生活指導を実施する。全介入終了後に各評価の再評価を行う。
結果と考察
対象は11例であり、属性は、男女比は3:8、平均年齢70.8±5.45歳、平均教育年数12.1年、診断名はAD10例、MCI1例、MMSEは21.0±5.73点であった。介入結果より、①ADL評価尺度の点数に著明な変化は認められなかったが、家電の操作や日課・運動習慣など評価尺度に含まれていない広範的なADLの変化が認められた。また、②対象者・介護者のGDS、NPI、J-ZBI8に改善が認められた。これらより、ADL評価にはよりIADL要素が高く、生活家電やIoT、個人の日課に関連する評価ができるMCIを対象としたAlzheimer’s disease Cooperative Study scale for ADL in MCI (ADCS-MCI-ADL)のADL項目が必要となること、また、支援手段が遠隔でありADLの変化が僅かであっても、遠隔介入によって対象者の意欲や達成感は高まり、介護者の負担は軽減につながる傾向が示唆された。介入者側においては、PA-ADL評価で課題の抽出や実践的な指導が行いやすい点が、O-MGTでは移動時間なくZOOMで生活場面を確認しながら本人・家族に指導ができる点が評価された。一方、通信環境が整っていることが介入条件になる点、評価項目や記録の多さから通常業務時間内に作業が収まらない点、通信機器に不慣れな介護者へのデモンストレーションの必要性、などの課題も挙がった。
結論
本研究を通じて、遠隔による生活指導は対象者と家族介護者の両者に一定の効果がもたらされることが示唆された。今後は臨床現場での実用化に向けて、各施設に準じたデータ管理や会議ツール・デバイスの使用、ADCS-MCI-ADL を軸としたADL評価の改定など、活用しやすいPA-ADLとO-MGTの簡易版の検討が必要となる。さらに、実際の訪問と組み合わせたハイブリッド介入など非訪問型介入の一支援形態として、介入の質を維持しながら介入の頻度や期間が短縮された支援を展開できることが考えられる。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
202416001B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症者の在宅生活を維持する非訪問型の生活評価・介入システムの標準化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GB1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅之(鹿児島大学)
  • 釜江 和恵(繁信 和恵)((財)浅香山病院 精神科医局)
  • 石川 智久(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神科)
  • 佐藤 俊介(大阪大学 大学院医学系研究科・精神医学教室)
  • 鐘本 英輝(大阪大学 大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター)
  • 松原 茂樹(大阪大学 大学院工学研究科 地球総合工学専攻)
  • 田平 隆行(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系)
  • 堀田 牧(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
  • 永田 優馬(大阪大学 精神医学教室)
  • 石丸 大貴(大阪大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は感染症蔓延下における認知症者の在宅生活の維持を目的に、家族介護者へカメラで自宅環境の撮影を依頼し、写真から生活評価を行う方法Photo Assessment(PA) (Ishimaru et al., 2022)や、患家のパソコンと病院の専門職種とをZOOMでつなぎ生活指導を行う方法Online Management(O-MGT) を開発・試行した。本研究は、多施設実証研究として多専門職種の協働のもと、感染症蔓延等の行動制限下においてもPAとO-MGTが認知症者の在宅生活維持に有効な非訪問型介入システムであることを検証する。
研究方法
既存のPAに居室と関連するADLが効率的かつ安全に行える環境下であるかを評価する指標全12項目 (1.家の出入り-玄関、2.くつろぐ-居間、3.食事-食堂、4.調理-台所、5.生活管理-冷蔵庫/郵便物/ゴミ、6.薬の管理-保管場所/道具、7.着替え-タンス、8.就寝-寝室、9.整容-洗面所、10.入浴-浴室/脱衣所、11.洗濯-洗面所/物干し場、12.排泄-トイレ)を設けた評価チェックシート(仮PA-ADL)を作成し、本研究の多職種に模擬事例5例を仮PA-ADLで試行し、デルファイ法で回答項目の整合性を確認する。また、写真撮影の指示文言や参照写真の構図を改訂した撮影マニュアル(撮影の手引き)を作成し、仮PA-ADLおよび撮影の手引き等について、「わかりやすさ」「有用性」「使い勝手」に関するアンケートを本研究の多職種に行った。同意率70%以上を基準に定め、その結果を基にPA-ADL、撮影の手引きを完成させる。最終年度は、大阪大学および研究関連施設に登録した者で、認知症に関する各検査や診察を行い、認知症専門医によってアルツハイマー型認知症(AD)もしくは軽度認知障害(MCI)と診断され、MMSE17点以上、CDR0.5~1で家族介護者と同居しており、運動機能や身体機能に生活上問題がない在宅生活者を対象とした実介入を行った。対象者への評価・介入期間は約3か月間とし、専門職種がPA-ADLおよびO-MGTを実施した。介入前後に行う評価尺度は、主要評価として、PSMS(日常生活動作)、IADL(手段的日常生活動作)、PADA-D(生活行為工程分析表)とし、副次評価は、MMSE-J(全般的認知機能検査日本語版)、GDS(うつ尺度)、NPI(認知症の精神症状・行動障害)、J-ZBI 8(日本語版Zarit介護負担尺度短縮版)とした。週1回1時間程度、ZOOMによる生活指導を実施し、全介入終了後に再評価を行う。
結果と考察
仮PA-ADL12項目の工程・動作に関わる環境因子に関して、得られた回答より多くの項目で職種に関係なく高い一致率を示したが、一部表現において評価者に的確な趣旨が伝わっていなかったことなどが評価者間の判断に影響していたため、PA-ADLチェックリストを再修正し撮影の手引きの改訂を行った。これらの妥当性について再度アンケートを実施し、PA-ADLチェックリスト、撮影の手引き等のずれも同意率70%以上を示したため、PA-ADLチェックリスト、撮影の手引きが完成に至った。最終年度の実介入では11例(AD10例、MCI1例)が対象となった。その結果、①ADL評価尺度の点数に著明な変化は認められなかったが、家電の操作や日課・運動習慣など評価尺度に含まれていない広範的なADLの変化が認められた。また、②対象者・介護者のGDS、NPI、J-ZBI8に改善が認められた。これらより、ADL評価にはよりIADL要素が高く、個人の日課に関連する評価ができるMCIを対象としたAlzheimer’s disease Cooperative Study scale for ADL in MCI (ADCS-MCI-ADL)のADL項目が必要となること、また、遠隔介入によるADL変化が僅かでも、対象者の意欲や達成感は高まり、介護者の負担軽減につながる傾向が示唆された。介入者側では、PA-ADL評価で課題抽出や実践的な指導が行いやすい点が、O-MGTで移動時間なくZOOMで生活場面を確認しながら指導ができる点が評価された。一方、安定した通信環境が条件になる点、常業務時間内に作業が収まらない点、通信機器に不慣れな介護者へ事前説明の必要性、などの課題も挙がった。
結論
本研究を通じて、遠隔による生活指導は一定の効果がもたらされることが示唆される。さらに、実際の訪問と組み合わせることで、介入の質を維持しながら介入の頻度や期間が短縮された支援を展開できることが考えられる。今後はADCS-MCI-ADL を軸としたADL評価の改定とPA-ADLとO-MGTの簡易版の検討と試行によって、より臨床の場で活用できる非訪問型の介入システムに発展させたい。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202416001C

収支報告書

文献番号
202416001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,460,000円
(2)補助金確定額
14,454,375円
差引額 [(1)-(2)]
5,625円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,330,547円
人件費・謝金 4,032,209円
旅費 3,574,000円
その他 1,181,619円
間接経費 3,336,000円
合計 14,454,375円

備考

備考
人件費において、2025年3月1日から通勤手当支給額が変更になったスタッフがいたため。

公開日・更新日

公開日
2025-05-29
更新日
-