行動科学を基盤とした科学的根拠に基づく臓器・組織移植啓発モデルの構築に関する研究

文献情報

文献番号
202413001A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学を基盤とした科学的根拠に基づく臓器・組織移植啓発モデルの構築に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FF1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
瓜生原 葉子(学校法人同志社 同志社大学 商学部)
研究分担者(所属機関)
  • 丸橋 繁(公立大学法人 福島県立医科大学 医学部 肝胆膵・移植外科学講座)
  • 島田 光生(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 消化器・移植外科学)
  • 吉住 朋晴(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院)
  • 渥美 生弘(浜松医科大学医学部附属病院 救急災害医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 移植医療基盤整備研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
7,211,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 渥美生弘 社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院聖隷浜松病院救命救急センター(平成27年1月1日~令和6年6月30日)→浜松医科大学医学部附属病院 救急災害医学講座(令和6年7月1日~)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、臓器・組織提供数の増加を図るため、啓発に関する行動課題を特定し、その解決に資する「行動変容」促進因子と方策を明らかにすることである。これに向け、①地域啓発に必要な資源の調査と明確化(島田班)、②地域啓発プロセスの開発とパイロット検証(瓜生原班)、③複数地域におけるプロセスモデルの実証(丸橋班)、④医療者への啓発課題の抽出と施策の実施(吉住班、渥美班)、⑤啓発の共創環境の整備と実装(瓜生原班)という5つの目標を設定した。最終年度は、啓発実施体制の整備に向けた戦略の導出、科学的根拠に基づくマニュアルとウェブサイトの作成、現場ニーズに即した実効性の高い啓発手法の開発、ならびに医療者育成のための教育コンテンツの作成を目的とした。
研究方法
島田班は、啓発資源の把握と活用に向け、行政との連携調査および先進地域のモデル事例の抽出と共有を行い、現場における課題構造を可視化した。瓜生原班は、既存の行動科学的知見に基づく啓発施策を統合し、「迷ってますカード」「対話支援ツール」「いのちの授業」等を用いた社会実装と評価を実施するとともに、マニュアル・ウェブサイトを開発し、啓発共創の実践環境整備を進めた。丸橋班は、福島県内5類型病院を訪問し、臓器提供に関わる体制整備・行動障壁を聞き取り調査により明らかにし、課題を抽出した。吉住班は、医療系学生等への講義とアンケートを通じて意識形成を図り、加えて医療者向け教育コンテンツを整備した。渥美班は、臓器提供経験豊富な医療従事者20名に対し質的インタビューを実施し、認識の変化や行動促進要因に関する深層的分析を行った。
結果と考察
島田班は、行政担当者の異動頻度の高さや医療者との情報共有の希薄さが、啓発の継続性と制度化の阻害要因であることを明らかにした。一方で、熊本県や長崎県の三位一体型の啓発体制は、全国展開が可能なモデルとして注目された。
瓜生原班は、科学的根拠に基づく啓発資材を統合・整備し、社会実装に資する多層的モデルを構築した。「臓器提供迷ってますカード」は、賛否二択に収まらない立場を可視化する第三の選択肢として機能し、ACC賞の受賞や報道での紹介を通じて社会的評価も得た。加えて、1端末2人用形式の「対話支援ツール」では、知識提供と対話誘導を統合し、中学生・市民への実証により対話行動の促進効果が確認された。中学の道徳授業においては、全国調査から実施率(6割)、実施上の課題を明らかにし、支援資材を活用した授業によって家庭内対話の契機が創出された。これらの成果を踏まえ、地域の負担軽減を意図した『地域連携・啓発マニュアル』と啓発専用ウェブサイトを整備し、科学的に構築された啓発プロセスの展開可能性を高めた。
丸橋班は、福島県内5類型10施設への調査により、体制整備の不備、人員・経験の不足が臓器提供の阻害要因であることを明らかにした。提供実績のある施設では本人意思の明示が共通しており、意思表示の普及が補完的役割を果たす可能性が示唆された。さらに、自施設の分析から、拠点病院における業務偏在と体制の脆弱性が課題として浮上した。
吉住班は、医療系学生・高校生を対象に講義とアンケートを実施し、教育の到達度と行動意識を可視化した。高校生1,182名と医療関係者285名を対象とした調査では、意思表示率に有意な差(10.1% vs. 36.5%)が認められ、教育的介入の有効性が示唆された。
渥美班は、臓器提供経験のある医師・看護師計20名へのフォーカスグループインタビューを実施し、行動意欲に影響する要因を個人・環境・家族の3層に分類して抽出した。これらの要因は相互に作用し、行動意欲→行動→結果認知→行動維持へと至る循環的構造を形成しており、行動科学理論に基づく「医療者認識モデル」として可視化・構造化された。モデルの妥当性は参加者のフィードバックにより確認された。
以上の結果から、多層的な地域啓発支援モデルの構築と、医療者の行動変容を支える多支援体制の重要性が示され、臓器提供促進における制度的・実践的枠組みの基盤整備に寄与する知見が得られた。
結論
本研究は、臓器・組織提供を促進するための市民啓発と医療者支援の実効性を、行動科学の視点から多面的に検討したものであり、地域資源の明確化、啓発モデルの社会実装、教育資材の整備、医療者の行動促進要因の可視化といった点で重要な成果が得られた。とりわけ、段階的行動支援と対話促進を中核に据えた啓発設計は、個人の意思形成と社会的受容をつなぐ新たなアプローチとしての可能性を示した。一方で、自立的な意思表示対話を定着させるためには、今後さらに持続的な教育・支援体制の構築と実証が求められる。本研究はその基盤を提供するものである。

公開日・更新日

公開日
2026-03-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-03-16
更新日
-

文献情報

文献番号
202413001B
報告書区分
総合
研究課題名
行動科学を基盤とした科学的根拠に基づく臓器・組織移植啓発モデルの構築に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FF1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
瓜生原 葉子(学校法人同志社 同志社大学 商学部)
研究分担者(所属機関)
  • 渥美 生弘(浜松医科大学医学部附属病院 救急災害医学講座)
  • 島田 光生(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 消化器・移植外科学)
  • 丸橋 繁(公立大学法人 福島県立医科大学 医学部 肝胆膵・移植外科学講座)
  • 吉住 朋晴(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 移植医療基盤整備研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、臓器・組織提供数の増加を図るため、啓発に関する行動課題を特定し、その解決に資する「行動変容」促進因子と方策を明らかにすることである。①地域啓発に必要な資源の調査と明確化(島田班)、②地域啓発プロセスの開発とパイロット検証(瓜生原班)、③複数地域におけるプロセスモデルの実証(丸橋班)、④医療者への啓発課題の抽出と施策の実施(吉住班、渥美班)、⑤啓発の共創環境の整備と実装(瓜生原班)という5つの目標を設定し、行動科学に基づき、教育・医療・行政を含む多様なステークホルダーと連携した持続可能な啓発モデルの構築を目指した。
研究方法
島田分担班は、全国47都道府県に対する網羅的調査を通じて、地域啓発に必要な資源および体制を構造的に明確化し、それに基づいた体制整備のための実装可能な戦略を提示した。瓜生原分担班は、16,050例の分析から導出された意思表示行動メカニズムを基盤に、啓発資材・支援ツール・教育プログラムを開発・統合し、地域および教育現場での実証を通じて、マニュアルおよび啓発専用ウェブサイトを作成した。丸橋分担班は、福島県を対象に市民意識と病院体制の調査を行い、臓器提供数が少ない背景にある行動変容および制度的阻害因子を明らかにした。吉住・江川分担班は、医療系学生および高校生を対象に講義と行動調査を実施し、教育的介入に資する教材の開発を行った。渥美分担班は、複数回の臓器提供に関与した医療者への質的調査を通じて、行動意欲の形成要因を理論モデルとして可視化した。全研究は、定性・定量的手法、教育資源開発、AIを活用した社会実装を組み合わせ、多面的かつ倫理的配慮のもとで遂行された。
結果と考察
島田班は、全国の啓発資源と体制を調査し、行政・医療・コーディネーター間の連携不足が制度的障壁であることを明示した。一方で、三者協働型の地域モデルが有効であることを具体事例により示した。
瓜生原班は、16,050名の調査分析を通じて意思表示行動のメカニズムを確証し、意思に向き合えない(考えていない)層への段階的介入の必要性を明示した。これを受けて開発した「臓器提供迷ってますカード」や「対話支援ツール」は、学校現場や市民において有効性が確認され、家庭内対話の契機となることも示された。また、中学校の道徳における模擬授業や指導案の整備を行い、授業実施の障壁低減や授業後の過程内対話の促進に資する教育支援サイト「生命の尊さを伝える広場」を構築した。研究期間、海外渡航が社会問題となったため、移植待機患者向けの注意喚起動画作成と関係学会・団体への周知を行った。さらに、従来の情報提供型啓発から、「行動科学に基づく行動変容型啓発」への転換の必要性が明確となり、その知見をもとに、「科学的根拠に基づく地域連携・啓発マニュアル」および移植啓発ウェブサイト「トラコミ(Transplant Communication)」を作成した。
丸橋班は、福島県における市民・医療機関調査を実施し、意識面では他県と大差がない一方、提供体制の未整備が主因であることを特定した。特に5類型病院の大半が提供困難な現況であり、拠点病院を中心とした体制整備とノウハウ共有の必要性が示された。
吉住・江川班は、メディアワークショップを通じて記者と医療者の対話課題を明らかにし、情報発信の改善策を検討した。医療系教育機関での講義では、入学前に移植を学んだ学生が8割以上に上り、講義後には理解と意識の向上が確認された。高校生対象の講義では教育上の課題が抽出され、大学や医療現場で活用可能な啓発教材の整備と普及の必要性が示された。
渥美班は、複数回の提供に関与した医療者への質的調査を実施し、行動意欲はが個人・環境・家族要因の相互作用によって形成されることを明らかにした。さらに、意欲から行動、結果の認知、次の行動へとつながる循環的モデルを構築し、現場での実効的な支援策の設計に資する知見を示した。
結論
本研究は、臓器提供増加に向けて、行動科学に基づく多層的かつ統合的な啓発戦略の構築を目的とした。制度面では、地域間格差や行政・医療間の連携不足に着目し、体制整備に資する支援モデルを提示した。個人の意思形成については、関心・対話・決定・表示の各段階を踏まえた科学的介入資材を設計・評価し、行動変容の促進を図った。教育分野では、授業モデルと教材を開発・実装し、若年層の態度形成と家庭内対話の促進を支援した。医療現場においては、提供に関与する医療従事者の行動意欲形成に関する構造を明らかにし、組織的支援の必要性を示した。これらの成果は、従来の情報提供型啓発の限界を補い、「行動変容型啓発」への理論的・実践的転換を可能にする基盤を築いた。

公開日・更新日

公開日
2026-03-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2026-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202413001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
臓器提供増加に向けて、一般、教育者(中学~大学)、医療者、施策立案者を対象とした行動科学に基づく多層的かつ統合的な啓発戦略に資する知見を導出した。特に、個人の意思表示までのメカニズムと促進因子を明らかにし、関心・対話・意思決定・表示の各段階に有効な科学的介入施策を設計・評価した。さらに、教育者、医療者の行動障壁と促進因子も明らかにし、有効な支援策を導出した。多様な学術誌・学会で報告し、大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
①提供に関与する医療従事者の行動意欲は、人・環境・家族要因の相互作用によって形成され、さらに、意欲から行動、結果の認知、次の行動へとつながる循環的モデルを構築した。また、組織的支援など必要施策が導出されたため、今後それらを展開する予定である。②海外渡航の注意喚起動画を作成・公開し、厚生労働省より関連学会や団体へ周知通達された。多くの医療機関で閲覧され、待機患者への説明に役立っている。
ガイドライン等の開発
自治体職員や都道府県コーディネーターの負担軽減を目指しつつ実効性の高い、行動科学とソーシャルマーケティングに基づいた『科学的根拠に基づく地域連携・啓発マニュアル』および啓発専用ウェブサイトを作成した。今後全国の地方自治体に普及され、活用されることを目標としている。
その他行政的観点からの成果
制度面では、地域間格差や行政・医療間の連携不足に着目し、体制整備に資する支援モデルを提示した。教育面では、行動科学に基づく授業モデルと教材を開発・実装し、若年層の態度形成と家庭内対話の促進を支援した。市民啓発では、従来の情報提供型啓発の限界を補い、「行動変容型啓発」への理論的・実践的転換を可能にする基盤を築いた。特に、行動科学に基づく「臓器提供迷ってますカード」および「対話・意思決定支援AIツール」はメディアに大きく取り上げられるなど評価が高く、今後普及を目指し、真の行動変容に貢献する。
その他のインパクト
意思決定の「先延ばし行動」への対応として「臓器提供迷ってますカード」、更に、家族との対話促進を目的に、行動科学に基づいた「対話・意思決定支援ツール」を開発した。これらは読売新聞(2026年3月8日朝刊)でも大きく紹介され社会的な認知と共感の広がりが見られた。また、学術的な国際発信の一環として、行動科学分野の国際組織のデータベースに、日本における行動科学に基づく移植啓発事例2件が掲載される運びとなった。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
ホームページ2件、新聞掲載1件、動画作成・公開1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2026-03-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202413001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,371,000円
(2)補助金確定額
9,371,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 379,514円
人件費・謝金 3,943,414円
旅費 1,733,190円
その他 1,154,882円
間接経費 2,160,000円
合計 9,371,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2026-03-16
更新日
-