金属アレルギーの新規管理法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
202412002A
報告書区分
総括
研究課題名
金属アレルギーの新規管理法の確立に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FE1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
矢上 晶子(冨高 晶子)(藤田医科大学 医学部総合アレルギー科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊苅 裕二(東海大学医学部付属病院 内科学系循環器内科学)
  • 江草 宏(東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,635,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、専門性の高い各診療科医師や管理栄養士による研究班を構築し、まず、金属アレルギー診療で患者自身、そして医療施設での問題点を抽出し、さらに、それらの解決に向けて、診断法の確立、国内外の金属アレルギーの情報を収集し整理し、金属アレルギーの診療・管理法を構築することを目的としている。
研究方法
実際の金属アレルギー診療において推奨すべきパッチテスト試薬を検討するため、日本接触皮膚炎研究班:JCDRG(日本皮膚免疫アレルギー学会)班員所属施設において、前年度に検討し決定した『金属アレルギー試薬シリーズ』各試薬のパッチテスト陽性率を調査した。
結果と考察
全国18施設の協力を得て、金属アレルギーが疑われた345例(男性61例、女性282例、性別無回答2例)に対し、金属試薬シリーズを用いたパッチテストを実施した。対象者の年齢は10歳未満から80歳代以上にわたり、全体の平均年齢は48.4歳(男性45.1歳、女性49.1歳)であった。
陽性率が最も高かった金属はパラジウム(15.9%)であり、次いでコバルト(11.5%)、亜鉛(7.3%)、インジウム(6.3%)、銅(5.4%)、クロムおよび銀(各2.7%)、ニオブ(1.8%)の順であった。
性別による比較では、パラジウム(男性12.1%、女性16.8%)、インジウム(男性1.7%、女性7.4%)、銀、ニオブにおいて女性の陽性率が高く、装飾品や化粧品との接触機会の多さが関与していると推察された。一方、コバルト(男性13.3%、女性11.1%)、銅、鉄、バナジウムでは男性の陽性率が高く、職業性曝露や医療材料の使用が一因と考えられた。
陽性率が1%未満であった金属は、マンガン、白金、イリジウム、スズ、アルミニウム、タンタル、タングステン、ガリウム、ルテニウム、モリブデン、ジルコニウム、チタンなどであり、これらによる感作頻度は極めて低かった。
本研究で陽性率が最も高かったパラジウム(15.9%)は、ニッケルとの交差感作が知られており、装飾品や歯科金属を介した曝露が主な感作経路と考えられる。次いで高かったコバルト(11.5%)は、日用品や職業性資材への広範な使用が背景にあり、非職業性・職業性の両面から感作されやすい金属である。
一方、亜鉛(7.3%)は医療・生活製品に広く含まれており、陽性率は比較的高かったが、使用された塩化亜鉛は刺激性も強く、一部の陽性反応が刺激反応である可能性もあるため、慎重な判定が求められる。インジウム(6.3%)はスマートデバイスや歯科材料を介した曝露が想定され、特に女性で陽性率が高かった。銅(5.4%)や銀(2.7%)も、日用品や歯科補綴材など多様な接触経路を通じて感作の要因となっていた。
なお、ニッケルおよび金は、これまでの日本接触皮膚炎研究班(日本皮膚免疫アレルギー学会)のジャパニーズベースラインシリーズ(JBS2015)の調査において常に高い陽性率を示しており、2023年度の報告でもニッケル25.2%、金26.7%と、極めて高頻度な感作アレルゲンである(https://www.jscia.org/img/pdf/JBS2015_250124.pdf)。両金属試薬はJBS2015に含まれ、現在はスクリーニング検査としてパッチテストパネル(S)により広く貼付されていることから、本研究の金属試薬シリーズからは除外した。しかし、これらの金属は金属アレルギー診療における主要アレルゲンであることに変わりなく、金属アレルギー診断においては当然に試薬シリーズの一部として貼付・評価すべき対象である。
結論
性別による陽性率の違いは、生活習慣や接触機会の差を反映していた。パラジウム、インジウム、銀、ニオブなどは装飾品や化粧品を介した曝露が多く、女性で高い陽性率を示した。一方、コバルト、銅、鉄、バナジウムなどは職業性曝露との関連が深く、男性で高い陽性率が認められた。
陽性率が1%未満であった金属(マンガン、白金、イリジウム、スズ、アルミニウム、タンタル、タングステン、ガリウム、ルテニウム、モリブデン、ジルコニウム、チタン)については、一般的なスクリーニングでは優先度は低いと考えられるが、特定の職業や製品への曝露が明らかな症例では、個別に評価すべき対象となり得る。
日本では金属アレルゲンに対する製品表示や溶出規制が不十分であり、公的対策の整備が急務である。また、歯科補綴材や医療機器に起因する感作例も多く、皮膚科と歯科など他診療科との連携による包括的な対応が重要である。今後、予期せぬ金属アレルゲンの見落としを防ぐためにも、金属シリーズを含むパッチテストの広範な活用が推進されることが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2025-11-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-11-20
更新日
-

文献情報

文献番号
202412002B
報告書区分
総合
研究課題名
金属アレルギーの新規管理法の確立に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FE1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
矢上 晶子(冨高 晶子)(藤田医科大学 医学部総合アレルギー科)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
  • 伊苅 裕二(東海大学医学部付属病院 内科学系循環器内科学)
  • 江草 宏(東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野)
  • 二木 康夫(慶應義塾大学 医学部)
  • 鈴木 加余子(藤田医科大学 総合アレルギー科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
2010276298 二木 康夫については2023年度までの参加である。

研究報告書(概要版)

研究目的
金属アレルギーは苦慮する国民が潜在的に多いことが推測され、また、皮膚科、歯科、整形外科、循環器内科、脳神経外科間で連携した診療(診断や生活指導)が必要な疾患である。しかし、金属アレルギー診療の問題点として、患者が受診しても各診療科で適切な対応がなされず漫然と観察されている状況がある。その要因として、最も有用とされるパッチテストの普及が十分ではないこと、それに伴い、金属アレルギーの診療で必要な多科連携が希薄になっていることが挙げられる。
本研究は、我が国における金属アレルギーの実態および診療上の課題を明らかにし、標準的診療体制の整備に資することを目的として、2022年度から3年間にわたり多面的な調査研究を実施した。
研究方法
2022年は、潜在的にかなりの数に上ることが予想される金属アレルギーの実態を明らかにすることを目的に、一般国民を対象とした金属アレルギーの実態調査を、インターネット調査サイトを利用して実施し、解析した。
2023年度は、診断法の確立、多科連携診療モデルの構築を目指し、接触皮膚炎を専門としパッチテストを日常的に実施している医師のグループである日本接触皮膚炎研究班(JCDRG)に所属している皮膚科医、日本補綴歯科学会、日本歯科保存学会、日本口腔インプラント学会に所属している歯科医、および、日本循環器学会 循環器専門医研修・研修関連施設の循環器専門医を対象とし、2021年度(2021年4月~2022年3月)における金属アレルギー診療・症例情報についてアンケート調査を行った。
2024年度は、実際の金属アレルギー診療において推奨すべきパッチテスト試薬を検討するため、日本接触皮膚炎研究班:JCDRG(日本皮膚免疫アレルギー学会)班員所属施設において、前年度の検討し決定した『金属アレルギー試薬シリーズ』を用いたパッチテストを金属アレルギーが疑われる患者を対象に実施し、各試薬のパッチテスト陽性率を調査した。
結果と考察
2022年度の全国インターネット調査では、約7万人のうち3.0%に相当する2,060名が、金属によるかぶれやかゆみ等、日常生活に支障を来す過敏反応を経験していた。患者の約8割は女性で、10~20歳代の若年層での発症が多く、主な原因は装飾品や歯科金属であった。一方、受診率は24%にとどまり、「受診先が不明」「診断が得られなかった」などの医療アクセス上の課題が顕在化した。2023年度には皮膚科、歯科、循環器内科を対象に診療実態調査を行い、診断手法のばらつきや医科歯科連携の不備を確認した。2024年度には全国18の皮膚科施設でパッチテストを実施し、ニッケル(25.7%)、金(26.2%)、パラジウム(15.9%)、コバルト(11.5%)、インジウム(6.3%)などの高い感作頻度を確認した。
結論
これらの成果を踏まえ、診療体制の標準化を図るべく「金属アレルギーの診療と管理の手引き2025」を作成した。
厚生労働省の支援のもとに作成した本手引きは、近年増加傾向にある金属アレルギーに対して、適切な診断および管理を行うための医療者向け実践的指針である。皮膚科、歯科、整形外科、循環器内科、脳神経外科といった多領域の臨床医に加え、管理栄養士、歯科技工士、看護師など多職種の医療従事者の診療実務に資する内容となっている。本手引きは、『アレルギーポータル』をはじめとする信頼性の高い医療者・国民向けウェブサイトに掲載し、広く社会への情報発信を行う予定である。あわせて、関連する医学会や専門職団体、行政機関等への周知・送付を通じて、医療現場における実践的活用を促進する。さらに、一般市民に対しても金属アレルギーに関する正確な知識と理解を広めることを目的に、医療機関での案内、地域啓発イベント等を通じた普及活動を展開し、国民全体におけるアレルギー対策の質的向上を目指す所存である。

公開日・更新日

公開日
2025-11-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-11-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202412002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国18施設の協力により金属アレルギー患者に対するパッチテスト調査を実施し、金属ごとの陽性率や性差を明らかにした。さらに、皮膚科・歯科・循環器内科を含む多診療科の実態調査を通じて診療上の課題を抽出し、「金属アレルギー診療と管理の手引き」を作成した。本成果は、臨床現場における診断精度の向上と連携体制の強化に寄与し、将来的な診療ガイドラインや予防政策の基盤として学術的意義を有する。
臨床的観点からの成果
全国約7万人を対象とした疫学調査により、約3%が金属アレルギーを自覚しており、多くが未受診であることから、潜在的患者の存在が示唆された。加えて、感作頻度の高い金属成分、特にニッケルに関する感作状況を明らかにした。同時に、診療科間の情報共有の不均衡や患者教育の課題も浮き彫りとなった。本研究成果は、診療連携の構築を促進し、将来的な診療ガイドライン策定やニッケル曝露規制等の政策立案の基盤となる。
ガイドライン等の開発
診療現場における課題の明確化と、多診療科にまたがる連携の必要性を踏まえ、「金属アレルギーの診療と管理の手引き」を作成した。本手引きが国内で広く普及・活用されることで、診療の標準化が促進され、将来的には国際的なガイドラインの策定へと発展することが期待される。
その他行政的観点からの成果
国民を対象とした大規模実態調査および金属アレルギー患者に対するパッチテストの結果、約3%が金属アレルギーに悩んでおり、ニッケル、クロム、コバルトに対する感作率が高いことが明らかとなった。主な曝露源は装飾品および職業性環境であり、特に装飾品由来のニッケル感作は若年女性に多く認められた。また、職業性金属アレルギーも一定数確認されている。これらの知見は、装飾品中のニッケル含有量に関する規制強化や、職業現場における金属曝露防止策の導入など、行政的対応の必要性を強く示唆している。
その他のインパクト
医科と歯科の診療連携体制の構築を目的に、皮膚科および歯科の専門医が日本皮膚科学会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本補綴歯科学会のシンポジウムや教育講演において継続的に議論を重ねた。これにより、金属アレルギーの実態や診療上の課題に対する理解が深まり、さらに、医療関係者全体への啓発と多診療科にまたがる広範な連携体制の構築に向けた動きが全国的に広がりつつある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-11-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
202412002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,400,000円
(2)補助金確定額
3,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 797,730円
人件費・謝金 621,565円
旅費 0円
その他 1,215,705円
間接経費 765,000円
合計 3,400,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-11-20
更新日
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