磁界の生体への影響とその機構の解明

文献情報

文献番号
200942025A
報告書区分
総括
研究課題名
磁界の生体への影響とその機構の解明
課題番号
H20-健危・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
久保田 俊一郎(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥野 誠(東京大学 大学院総合文化研究科)
  • 村越 隆之(東京大学 大学院総合文化研究科)
  • 深津 晋(東京大学 大学院総合文化研究科)
  • 梅景 正(東京大学 環境安全本部)
  • 牛山 明(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
9,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働行政の課題として、電磁界(送電線, 家電など)曝露のヒトへの健康影響(発癌性、妊産婦とその児への影響、脳への影響)が挙げられる。健康影響を明らかにして、その対策をとることが求められている。本研究は、実験的研究および文献調査・メタアナリシスにより、これらの課題に回答を出す研究である。
研究方法
2007年以降の査読付き論文を電磁界の周波数を限定せずに、細胞実験および動物実験に関する文献収集を行い、レビューをおこなった。また、生活環境レベル (50Hz, 40μT)の磁界強度について、細胞レベルおよび動物レベルで実験を実施した。
種々の培養細胞を低周波磁界に曝露し、細胞増殖への影響と活性酸素発生への影響を解析した。
動物実験では、ラットを低周波磁場に曝露し、脳スライス標本を用いて、電気生理学的に評価した。
生殖系への影響を明らかにするため、妊娠マウスを低周波磁界に16日間曝露し、胎児の生死、奇形の有無および母獣への影響で評価した。
低周波数(50Hz)磁束密度(40、400 μT)の磁場がオスマウスの生殖機能に及ぼす影響について検討するため、離乳直後(3週齢)から2週間磁場に曝露させ、精子形成が正常に進むかを調べた。
結果と考察
文献レビュー:「影響なし」の論文が多く見られた一方で、「影響あり」の論文も散見されたが、多くはガイドラインを大きく越える曝露条件であり、現時点では居住(生活)空間の電磁界強度が健康リスクを発生するという明確な根拠はみられないと考えられた。
細胞実験:細胞増殖への影響はなかった。また、発癌と関係のある活性酸素発生への影響もなかった。
動物実験:電気生理学的実験において、急性磁場曝露群(1時間)では、GABAを伝達物質としリズム性をもって発する抑制性シナプス伝達バーストの強度には変化が見られなかった。また同様に慢性的磁場曝露群(2週間)でも対照群との有意な差は見られなかった。
生殖系への影響:妊娠マウス実験で、胎児の生死、奇形の有無および母獣への影響で評価したが、影響は見られなかった。
オスマウスの生殖機能への影響を見る実験で、精巣上体に出現した精子の密度、精子運動率ともに有意な差は見られなかった。ストレスに関しても曝露群とコントロール群では有意な差は見られなかった。
結論
生活環境レベルの低周波磁界 (50Hz,40μT)曝露は、細胞増殖、活性酸素発生、生殖能(妊娠マウスと胎児)、精子形成、脳神経系機能に関して影響はないと考えられる。さらに、精子形成に関して、400μTの磁束密度も影響がないことが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2010-08-29
更新日
-