迅速・簡便な検査によるレジオネラ対策に係る公衆浴場等の衛生管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
200942010A
報告書区分
総括
研究課題名
迅速・簡便な検査によるレジオネラ対策に係る公衆浴場等の衛生管理手法に関する研究
課題番号
H19-健危・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 森本 洋(北海道立衛生研究所 微生物部)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 常 彬(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 山崎 利雄(国立感染症研究所 バイオセーフティー管理室)
  • 遠藤 卓郎(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 杉山 寛治(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 細菌科)
  • 黒木 俊郎(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 田栗 利紹(長崎県環境保健研究センター 保健科)
  • 緒方 喜久代(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
  • 渡辺 祐子(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 荒井 桂子(横浜市衛生研究所 検査研究課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
18,180,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のレジオネラ症の多くは入浴施設を介して発生している。浴槽水中のレジオネラ属菌検査は培養を基本としており、結果判定までに7日間要する。そこで、迅速にレジオネラ汚染を測定する方法を開発評価した。

研究方法
定量的リアルタイムPCR(qPCR)法とLAMP法を用いレジオネラを測定した。リボソームRNAを鋳型として検出するqRT-PCRも行った。Legionella pneumophilaについて、7遺伝子の塩基配列を比較して遺伝子型別を行い菌株の近縁図を作製した。バイオマスの指標としてのATPを浴槽水で測定した。
結果と考察
1) DNAのアルカリ熱抽出において阻害回避試薬を用い、LAMP法の検出感度を向上できた。2)qRT-PCRに、濃縮試料の短時間液体培養を組み合わせることで、選択的な生菌の検出が可能となった。2) 生菌を検出する遺伝子迅速検査EMA-qPCRについてEMAをPMAと比較し、EMAが優れていた。5S rRNA遺伝子を標的とすると死菌も検出された。3)ATPの指標値をもとに浴槽をモニタリングした。浴槽の清掃と関連してATPの数値の低下が認められ、ATPの量とレジオネラ汚染がよく関連していた。4)浴槽水に比べ土壌と冷却塔由来のL. pneumophila株は多様性が少なかった。モノクローナル抗体MAb3/1陽性株の比率は臨床分離株で85%と多く、環境中では23%以下であった。環境の株は一様に人に感染するわけではない。5)効率の良い集落観察法(斜光法)の研修を行い、レジオネラ属菌の定性までの時間短縮、より正確な定量結果を報告することを可能とした。分離培地の適切な保存を行えば製造後3ヶ月間はレジオネラ属菌の発育性能が保持されていることを確認した。6)一定の菌数のL .pneumophilaを含んだゼラチンディスクを配布して、7つの民間検査機関を含む30の機関について外部精度管理を実施した。7)市販DNA-DNA ハイブリダイゼーション(DDH)キットで同定できない6種のレジオネラ属菌を、DDH法により同定可能にした。8)冷却塔水及び浴槽水由来のL. pneumophilaの遺伝子型の違いが宿主アメーバの違いによるとの証拠は得られなかった。
結論
遺伝子検査を用いたレジオネラの定量により入浴施設の迅速な衛生管理が可能となった。浴槽水のATPモニタリングにより入浴施設でレジオネラ汚染の迅速簡便な管理ができた。

公開日・更新日

公開日
2010-08-29
更新日
-

文献情報

文献番号
200942010B
報告書区分
総合
研究課題名
迅速・簡便な検査によるレジオネラ対策に係る公衆浴場等の衛生管理手法に関する研究
課題番号
H19-健危・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部 )
  • 森本 洋(北海道立衛生研究所 微生物部)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部 )
  • 常 彬(国立感染症研究所 細菌第一部 )
  • 山崎 利雄(国立感染症研究所 バイオセーフティー管理室)
  • 遠藤 卓郎(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 杉山 寛治(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 細菌科)
  • 黒木 俊郎(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 田栗 利紹(長崎県環境保健研究センター 保健科)
  • 渡辺 祐子(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 緒方 喜久代(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
  • 荒井 桂子(横浜市衛生研究所 検査研究課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のレジオネラ症の多くは入浴施設を介して発生している。浴槽水中のレジオネラ属菌検査は培養を基本としており、結果判定までに7日間要する。そこで、迅速にレジオネラ汚染を測定する方法を開発評価した。
研究方法
定量的リアルタイムPCR(qPCR)法とLAMP法を用いレジオネラを測定した。リボソームRNAを鋳型として検出するqRT-PCRも行った。Legionella pneumophilaについて、7遺伝子の塩基配列を比較して遺伝子型別を行い菌株の近縁図を作製した。バイオマスの指標としてのATPを浴槽水で測定した。
結果と考察
1)2つの市販レジオネラ遺伝子検査試薬はわが国で分離されるレジオネラ属菌を概ね検出し、浴槽水を数時間以内に検査できた。2)遊離残留塩素が0.4mg/L以下の試料に限定すると、qPCR法と培養法の検出菌数はよく相関した。3)遺伝子増幅反応の阻害を避けるのに、中性-弱酸性下のカラムによる核酸抽出法と阻害回避試薬を使用したアルカリ熱抽出法の有用性を提案した。4)qRT-PCR法は高感度のため希釈で阻害作用を回避できた。生菌の検出法として、EMA処理とqPCRの組合わせ、短時間液体培養と組み合わせたqRT-PCRを提案し浴槽水で培養法との相関をみた。5)菌株識別法であるPFGE法を改良し、結果が判明するまでの日数を4日から2日に半減させた。6)現場で浴槽水のATPを測定して浴槽を衛生管理する指標値を提案した。入浴施設の迅速モニタリングに有用であった。7)患者由来L. pneumophila株の遺伝子型は多様で、環境株の中では浴槽水由来株が多様であった。8)一定の菌数のL .pneumophilaを含んだゼラチンディスクを配布して、外部精度管理を試みた。検査工程の処理手順を具体的に示し回収率が向上した。遠心法よりろ過法の回収率が良好であった。9)ID50(50% Infectious-Dose)を用いて、レジオネラ属菌種間のアメーバ感染性を定量的に比較し、菌種・菌株と感染性の違いを見出した。10)効率の良い集落観察法(斜光法)を確立し、レジオネラ属菌の定性までの時間短縮、より正確な定量結果を報告することが可能となった。非濃縮検体の並行培養、非選択培地の活用によりレジオネラ検出率を高めた。11)市販DNA-DNA ハイブリダイゼーション(DDH)キットで同定できない6種のレジオネラを、DDH法により同定可能にした。
結論
遺伝子検査を用いたレジオネラの定量により入浴施設の迅速な衛生管理が可能となった。浴槽水のATPモニタリングにより入浴施設でレジオネラ汚染の迅速簡便な管理ができた。

公開日・更新日

公開日
2010-08-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200942010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 市販のレジオネラ遺伝子検査試薬の反応特異性を検討し、わが国で分離されるレジオネラ属に関して概ね検出した。定量的PCRは生菌のみならず死菌も検出し培養法との相関は高くなかったが、浴槽水の塩素濃度を0.4ppm以下に限定するとよく相関した。Ethidium monoazide処理とPCRの組合せ、短時間液体培養と定量逆転写-PCRとの組合わせでレジオネラ生菌を選択的に迅速に検出できた。浴槽水のATP測定により、微生物による汚染状況を迅速に把握でき、ATP値とレジオネラ汚染との関係を明らかにした。
臨床的観点からの成果
レジオネラ臨床分離株の特徴を環境分離株と比較して明らかにした。Sequence-based typingにより臨床分離株と共通のsequence typeは浴槽水分離株で多く、冷却塔水分離株や土壌分離株で少なかった。モノクローナル抗体Mab3/1陽性株は、臨床分離株、浴槽水、土壌、冷却塔水でそれぞれ85%、22%、14%、2%で、環境中の一部の株が人に感染していた。
ガイドライン等の開発
レジオネラ症防止指針第3版(ビル管理教育センター, 2009)に研究成果が盛り込まれた。盛り込まれた事項は、遺伝子検査法の発達;「培養法における判定」でコロニー観察法;付録2、レジオネラ属菌検査法について(「菌株の識別方法」でパルスフィールド電気泳動・SBT・モノクローナル抗体型、レジオネラ迅速検査法)である。
その他行政的観点からの成果
遺伝子迅速検査はレジオネラが検出された入浴施設の再開に利用されている。浴槽水のATP量のモニタリングは、微生物汚染の程度を現場で簡便に把握し施設清掃の具体的な動機づけになった。レジオネラの集落を簡便に識別できる斜光法を開発普及した。遺伝子検査法と組合せてレジオネラの同定までの日数を4-7日間短縮した。Legionella pneumophilaの遺伝子型別は感染源型(冷却塔、土壌等)の推定に役立った。感染源の特定に必須のパルスフィールド電気泳動の結果判明までの期間を4日から2日に短縮した。
その他のインパクト
厚労省の生活衛生関係技術担当者研修会、国立保健医療科学院短期研修細菌研修、国立保健医療科学院短期研修新興再興感染症技術研修、公衆衛生学会行政研修フォーラム、「科学的根拠に基づく政策決定を支援するための地方衛生研究所の試験研究機能の強化及び情報ネットワークの構築」に関する地方衛生研究所間等甲信静ブロック専門家会議、東京都の特別区職員研修専門研修検査技術、神奈川県の公衆衛生専門技術研修、兵庫県の環境衛生監視員研修会、宮崎県のレジオネラ属菌汚染防止対策講習会等において研修を行った。

発表件数

原著論文(和文)
2件
感染症学雑誌、日本環境感染学雑誌
原著論文(英文等)
8件
主な原著論文の他、Epidemiology and Infecton, Emerging infectous Diseases, Jpn. J. Infect. Dis.
その他論文(和文)
7件
レジオネラ症防止指針、病原微生物検出情報5件、最新細菌・カビ・酵母図鑑
その他論文(英文等)
1件
Nowa Medycyna
学会発表(国内学会)
29件
日本細菌学会、日本感染症学会、公衆衛生学会、衛生微生物技術協議会研究会等
学会発表(国際学会等)
9件
Annual Meeting of the EWGKI 4件、LEGIONELLA 2009 4件, Int. Cong. Bacteriol. Appl. Microbiol.
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
14件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Amemura-Maekawa J, Kura F, Chang B, et al.
Distinct difference of flaA genotypes of Legionella pneumophila between isolates from bath water and cooling tower water.
Microbiology and Immunology , 52 (9) , 460-464  (2008)
原著論文2
Chang B, Sugiyama K, Taguri T, et al.
Specific detection of viable Legionella cells by combined use of photoactivated ethidium monoazide and PCR/real-time PCR.
Applied and Environmental Microbiology , 75 (1) , 147-153  (2009)
原著論文3
Kuroki T, Ishihara T, Ito K, et al. 
2009. Bathwater-associated cases of legionellosis in Japan, with a special focus on Legionella concentrations in water.
Japanese Journal of Infectious Diseases , 62 (3) , 201-205  (2009)
原著論文4
Amemura-Maekawa J, Kura F, Helbig JH, et al.
Characterization of Legionella pneumophila isolates from patients in Japan according to serogroups, monoclonal antibody subgroups, and sequence types.
Journal of Medical Microbiology , 59 (6) , 653-659  (2010)
原著論文5
Chang B, Tagri T, Sugiyama K, et al.
Comparison of the ability of ethidium monoazide for selective detection of viable Legionella cells.
Japanese Journal of Infectious Diseases , 63 (2) , 119-123  (2010)
原著論文6
烏谷竜哉,黒木俊郎,大谷勝実,他
掛け流し式温泉におけるレジオネラ属菌汚染とリスク因子.
感染症学会誌 , 83 (1) , 36-44  (2009)
原著論文7
森本 洋
分離集落の特徴を利用したレジオネラ属菌分別法の有用性.
日本環境感染学会誌 , 25 (1) , 8-14  (2010)
原著論文8
Tagri T, Oda Y, Sugiyama K, et al.
A rapid detection method using flow cytometry to monitor the risk of Legionella in bath water
Journal of Microbiological Methods , 86 (1) , 25-32  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-11-25
更新日
-