文献情報
文献番号
202408010A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中・循環器病のEvidence-based policy making の推進に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FA1015
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
- 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター・研究開発基盤センター 予防医学・疫学情報部 EBM・リスク情報室 予防医学疫学情報部)
- 尾形 宗士郎(国立循環器病研究センター予防医学・疫学情報部)
- 清重 映里(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 予防医学疫学情報部)
- 堀江 信貴(広島大学 脳神経外科)
- 松丸 祐司(国立大学法人筑波大学 )
- 野口 輝夫(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院・心臓血管内科)
- 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
- 猪原 匡史(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 脳神経内科)
- 平松 治彦(国立循環器病研究センター 情報統括部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本年度は以下を目的に実施した:
1. 将来CVD死亡数を高精度に予測する「CVD death projection model(予測ツール)」の前向き評価。
2. CVDリスク因子への介入政策の国全体における中長期効果を政策実施前後の両時点で定量評価できる日本版IMPACTNCDモデル(IMPACTNCD-JPN)の開発。
1. 将来CVD死亡数を高精度に予測する「CVD death projection model(予測ツール)」の前向き評価。
2. CVDリスク因子への介入政策の国全体における中長期効果を政策実施前後の両時点で定量評価できる日本版IMPACTNCDモデル(IMPACTNCD-JPN)の開発。
研究方法
予測ツールの前向き評価において、本研究班が令和4年度に構築した3つの将来予測モデル(観察期間の平均変化率を用いるモデル、時系列死亡数予測のLee-Carterモデル、そして死亡率トレンドにおける年齢・時代・世代の効果及びそれらの時間変化を考慮可能なBAPCモデル)を用い、日本在住30歳以上の男女の冠動脈疾患(CHD)(ICD-10: I20–22, I24–25)および脳卒中(I60–69)の将来死亡数を予測した。性・都道府県・5歳階層別(80歳以上は1区分)で予測し、死亡数、観測人口(1995~2023年)、および将来人口(2023年時点の推計値)を用いた。2020~2023年の予測値と観察値を比較し、MAPE(Mean Absolute Percentage Error)予測精度評価した。全国値は都道府県別予測の集計とした。
IMPACTNCD-JPNの開発では2001~2019年の30~99歳の日本人を対象に、英国発のIMPACTNCDモデルを日本の疫学・人口データに適合させたmicrosimulation modelを構築。以下3つのモジュールで構築される。Demographic module:国勢調査や将来推計人口に基づき仮想個人を生成。Risk factor module:国民健康・栄養調査データ(1995–2019年)を用い、GAMLSSモデル(複数の分布パラメーターを推定可能)で7つのCVDリスク要因(SBP、LDL-c、HbA1c、BMI、喫煙、身体活動、野菜・果物摂取)の経年変化を推定。Disease module:年齢・性別・リスク要因に基づき、CHD・脳卒中の発症・死亡を確率的に決定。発症率はGBD 2021、相対リスクは既報メタアナリシス、死亡率は人口動態統計の死亡統計に基づいた。モデルの妥当性は既報の観測値の分布の類似度の確認にて実施した。ベースケースシナリオ(リスク要因の実際の推移)と、リスク要因を2001年水準で固定の反実仮想シナリオ(全固定および7つの個別固定)を構築して比較し、発症数、有病年数、死亡数、QALYs、医療費を評価した。アウトカムは、脳卒中とCHDのCPPsとCYPPs(予防・遅延された症例数と有病年数)、全死亡のDPPs(予防・遅延された死亡数)、およびQALYsと経済的負担(直接・間接費)とした。
IMPACTNCD-JPNの開発では2001~2019年の30~99歳の日本人を対象に、英国発のIMPACTNCDモデルを日本の疫学・人口データに適合させたmicrosimulation modelを構築。以下3つのモジュールで構築される。Demographic module:国勢調査や将来推計人口に基づき仮想個人を生成。Risk factor module:国民健康・栄養調査データ(1995–2019年)を用い、GAMLSSモデル(複数の分布パラメーターを推定可能)で7つのCVDリスク要因(SBP、LDL-c、HbA1c、BMI、喫煙、身体活動、野菜・果物摂取)の経年変化を推定。Disease module:年齢・性別・リスク要因に基づき、CHD・脳卒中の発症・死亡を確率的に決定。発症率はGBD 2021、相対リスクは既報メタアナリシス、死亡率は人口動態統計の死亡統計に基づいた。モデルの妥当性は既報の観測値の分布の類似度の確認にて実施した。ベースケースシナリオ(リスク要因の実際の推移)と、リスク要因を2001年水準で固定の反実仮想シナリオ(全固定および7つの個別固定)を構築して比較し、発症数、有病年数、死亡数、QALYs、医療費を評価した。アウトカムは、脳卒中とCHDのCPPsとCYPPs(予防・遅延された症例数と有病年数)、全死亡のDPPs(予防・遅延された死亡数)、およびQALYsと経済的負担(直接・間接費)とした。
結果と考察
予測ツールの前向き評価の結果、BAPCモデルが最も高精度で、2020-2023年における全国レベルの予測誤差(MAPE)はCHD死亡では男性6.2%、女性4.0%、脳卒中死亡ではそれぞれ4.4%、4.7%であった。一般にMAPE5%未満は非常に高精度とされ、BAPCの有用性が示された。
一方IMPACTNCD-JPNの結果、2001年から2019年の7つのCVDリスク要因の変化によって、脳卒中が男性で280,000 (95% 不確実性区間:150,000 - 460,000)件、女性で190,000 (110,000 - 310,000) 件のCPPsにつながった。また、CHDは男性で290,000 (140,000 - 510,000) 件、女性で210,000 (99,000 - 400,000) 件のCPPsにつながった。総死亡は男性で550,000 (460,000 - 680,000)件、女性で290,000 (220,000 - 390,000) 件のDPPsにつながった。また、QALYsは男性で1,600,000 (960,000 - 2,400,000) QALYs 、女性で1,300,000 (950,000 - 1,900,000) QALYs の増加につながった。最後に直接医療費については、男性で4700億円(3300億円 - 6200億円)、女性で3500億円 (2600億円 - 4800億円)の削減につながった。CVDリスク要因の変化が、2001年から2019年の間にCVD症例数、全死因死亡数、関連コストを減少させ、QALYsを増加させたことが明らかとなった。
一方IMPACTNCD-JPNの結果、2001年から2019年の7つのCVDリスク要因の変化によって、脳卒中が男性で280,000 (95% 不確実性区間:150,000 - 460,000)件、女性で190,000 (110,000 - 310,000) 件のCPPsにつながった。また、CHDは男性で290,000 (140,000 - 510,000) 件、女性で210,000 (99,000 - 400,000) 件のCPPsにつながった。総死亡は男性で550,000 (460,000 - 680,000)件、女性で290,000 (220,000 - 390,000) 件のDPPsにつながった。また、QALYsは男性で1,600,000 (960,000 - 2,400,000) QALYs 、女性で1,300,000 (950,000 - 1,900,000) QALYs の増加につながった。最後に直接医療費については、男性で4700億円(3300億円 - 6200億円)、女性で3500億円 (2600億円 - 4800億円)の削減につながった。CVDリスク要因の変化が、2001年から2019年の間にCVD症例数、全死因死亡数、関連コストを減少させ、QALYsを増加させたことが明らかとなった。
結論
BAPCモデルは高精度な将来予測を可能とし、政策立案に貢献する。またIMPACTNCD-JPNにより、リスク因子の改善が疾患・死亡・コストの減少とQALYsの増加に寄与したことが明らかとなり、今後も継続的な対策が重要である。
公開日・更新日
公開日
2025-08-27
更新日
-