アルツハイマー病の新しい抗Aβ抗体薬およびBPSD治療薬対応のための診療指針策定のための調査研究

文献情報

文献番号
202406011A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病の新しい抗Aβ抗体薬およびBPSD治療薬対応のための診療指針策定のための調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24CA2011
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
冨本 秀和(国立大学法人 三重大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
16,831,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の抗アミロイド抗体薬の投与は令和7年3月末ですでに7,000例を超えているが、従来のガイドラインでは抗体薬治療の対象となる軽度認知障害患者のアミロイドPET検査が対象に含まれていないなど、社会実装に伴う様々な課題が明らかになっている。
一方、令和6年にはブレクスピプラゾールがアジテーションに対して有効性の認められる抗精神病薬として初めて保険適用が追加された。従来のガイドラインでは、アルツハイマー病によるアジテーションに対する保険適用薬は存在せず、4つの抗精神病薬の適用外使用が容認されてきたため経緯があり、改定が必要となっている。以上の新しい状況に即応する目的で、PET(第3版)、液性バイオマーカー・APOE遺伝子検査の適正使用指針(第2版)、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」(第2版)について最近の知見を加え改訂を行うことを目的とした。
研究方法
アルツハイマー病の抗アミロイドβ抗体薬、BPSD治療薬の臨床導入に向けて、以下のガイドラインの記載を一括して改定した。令和6年度に研究班として3回の研究班会議を開催し、各分担研究者は委員長として適宜ガイドライン委員会を招集し、従来の版の改定作業を行った。BPSDガイドラインについては従来のガイドラインの利用実態に関するアンケート調査を外部委託として行った。
結果と考察
4つのガイドライン・ワーキンググループで、新規薬剤の登場により新たに生じた課題を抽出した。課題とその対応方法について研究班会議で共有し、並行して4つの委員会において文献渉猟などの方法で調査研究を実施し、最新の知見を網羅して関連ガイドラインをアップデートした。アミロイドPETガイドラインについては、抗アミロイド抗体薬の治療目的の場合は保険適用となり、その範囲に軽度認知障害も含まれる点を記載した。液性バイオマーカーではアミロイドAβ、p-Tauの血液バイオマーカーの診断能に長足の進歩が認められ、これらの点を追加した。APOE遺伝学的検査の適正使用ガイドラインは初版として独立し、患者への説明・同意文書を作成して添付した。令和6年の抗精神病薬ブレクスピプラゾールのアジテーションに対する保険適用の追加に伴って、第2版に記載されていた抗精神病薬の保険適用外使用の記載を改めた。
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインの調査結果では、66%が従来のガイドラインを活用しており、83%が抗精神病薬の処方経験があり、多くがガイドラインに対して認知症の原因・診断別の対処法に関する情報を求めていた。以上から、ガイドラインは認知されており、認知症の原因・診断を加味した頻用薬剤の適正使用に関する適切な情報提供が重要と考えられた。
これら4つのガイドラインはすべて認知症関連の6学会(日本神経学会、日本神経治療学会、日本精神神経学会、日本認知症学会、日本老年医学会、日本老年精神医学会)での査読監修を受けた。これに加えて、アミロイドPETイメージング剤の適正使用ガイドライン(第4版)については日本核医学会、日本遺伝カウンセリング学会からの監修を受けて 完了している。4つのガイドラインは一括して研究代表者の所属する三重大学脳神経内科ホームページに掲載した。また、PETガイドラインは分担研究者石井賢二の所属する東京都健康長寿医療センター、バイオマーカーガイドラインは池内健の所属する新潟大学脳研究所、APOE遺伝子ガイドラインは関島良樹の所属する信州大学医学部内科学第3講座、BPSDガイドラインは新井哲明の所属する筑波大学精神科の夫々のホームページに掲載した。
4つの新ガイドラインの整備によって、複数の抗アミロイド抗体薬が上市され、BPSDのアジテーションに対する保険適用薬が登場した令和7年3月の状況に対応可能となった。新ガイドラインは厚生労働省および認知症・核医学関連学会のホームページ掲載が見込まれており、診療に関係する医療関係者に周知を図ることで、認知症新薬の円滑な処方に役立てることが期待される。
結論
ガイドラインの整備を通じて認知症医療の質の向上や均霑化を進めることは、認知症の早期診断や精密診断に重要な新たなバイオマーカーの開発、認知症の各種治験を進めるための方法論や患者コホートの構築などにも貢献し、世界をリードするわが国の認知症の研究開発・産業促進・国際展開をより一層強化することが期待される。 

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
2025-06-30

行政効果報告

文献番号
202406011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
昨年度、複数の抗アミロイド抗体薬の上市、およびアルツハイマー病のアジテーションに対する初めての保険適用薬の登場があり、認知症に関連する既存の4つのガイドラインは現状に合わなくなっている。このため、令和6年度の研究事業として、4つのガイドライン委員会相互の連携を図り、行政や医師会、関連学会との協議を研究班として一括して行うことでガイドラインの効率的な改訂を図った。その成果として、令和6年年度末には関連学会の承認を得て、令和7年5月までに4つのガイドラインを順次公開した。
臨床的観点からの成果
抗アミロイド抗体薬にはアミロイド関連画像異常(ARIA)とよぶ副作用が一定の割合で生じる。薬剤の種類、APOE遺伝子型、アミロイドの沈着量などによってARIAの発生頻度は大きく変化するため、複数薬剤で共用可能となるガイドラインが必要な状況があった。また、認知症のアジテーションに対して、従来の抗精神病薬は適応外使用の位置づけであったため、ブレクスピプラゾールの保健承認によって、薬剤の選択順位に大きな変化が生じていた。4つのガイドラインの一括改定は、これらの課題を一挙に解決する結果をもたらした。
ガイドライン等の開発
1.アミロイドPETイメージング剤の適正使用ガイドライン(第4版)、2.認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用ガイドライン(第3版)、3.認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン(初版)、4.かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)を開発した。
上記4ガイドラインは認知症関連6学会の監修を経て令和7年5月までに公開された。公開は認知症関連学会のHPに掲載されて、広く臨床で活用されることになった。
その他行政的観点からの成果
PET, バイオマーカー、APOE遺伝子検査は検査試薬の新規申請が今後に計画されており、審査を実施するにあたって、これらのガイドラインは資料として活用される見込みである。また、アジテーションの抗精神病薬使用は従来は根拠になるエビデンスがなく、慣用としで使用が許容されてきたが、BPSD新ガイドラインの登場によって保険審査の円滑化が期待できることとなった。
その他のインパクト
これら4つのガイドラインは、認知症の主要学会である日本認知症学会、および日本老年精神学会のHPに公開されている。また、代表研究者の講座HPには4ガイドラインを一括掲載し、分担研究者の講座HPにはそれぞれ委員長として担当したガイドラインを掲載した。また、本年度は認知症関連学会で4ガイドラインに関するシンポジウムが計画されている(日本認知症学会、令和7年11月)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
4件
認知症関連のガイドライン作成4件
その他成果(普及・啓発活動)
8件
ホームページ掲載5施設、2学会、シンポジウム1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Niimi Y, Janekidze S, Sato K et al
Combining plasma Aβ and p-tau217 improves detection of brain amyloid in non-demented elderly
Alzheimers Res Ther. , 16 (1) , 15-  (2024)
10.1186/s13195-024-01469-w.

公開日・更新日

公開日
2025-06-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
202406011Z