文献情報
文献番号
202405003A
報告書区分
総括
研究課題名
ASEAN等における高齢者介護サービスの質向上のための国際的評価指標の開発と実証に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23BA1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 知子(国立保健医療科学院 公衆衛生政策研究部)
研究分担者(所属機関)
- 荒井 秀典(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 理事長室)
- 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
- 佐々木 由理(国立保健医療科学院 公衆衛生政策研究部)
- 大夛賀 政昭(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
- 山口 佳小里(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
- 三浦 宏子(北海道医療大学 歯学部)
- 菖蒲川 由郷(新潟大学医歯学系 十日町いきいきエイジング講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
5,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口高齢化は世界が直面している課題であるが、特にアジア太平洋地域では変化のペースが速く、65歳以上人口割合は、2050年には現在の約2.5倍に増加すると推定されている。東南アジア諸国(Association of Southeast Asian Nations, 以下ASEAN)等においては、アクティブエイジングに関する取組が進められている一方、高齢者の増加に伴い、介護サービス(Long-term care services,以下LTC)へのアクセス拡大、公的LTC導入や整備、継続的な提供が課題となっている。本研究では、諸外国の介護の質の評価に関する既存の枠組みや指標を収集し、中・低所得国を含め、国際的に広く利用可能な評価指標の開発に資することを目的とする。
研究方法
初年度にひき続き、ASEANにおけるLTC政策の質の評価指標の適用可能性について、文献レビュー(国連、WHO、OECD、国際高齢者連盟等が発行する主要な報告書および学術文献)により、LTCに関する価値観、概念、評価指標の枠組みを抽出・整理し、ASEANにおける適用可能性と文化的・制度的要因との関係について検討した。現地調査では、高齢化施策が比較的進展しているタイにおけるリハビリテーションサービスの提供状況やベトナムの高齢化対策に関する現況について情報収集を行った。また、二次資料を用いてタイ高齢者に対する歯科保健医療施策と口腔ケア提供体制に関する現状分析を実施した。さらに、パイロット調査(タイ・マレーシア・フィリピン・カンボジア)を実施し、初年度に開発した評価指標7領域(①高齢者の介護(長期ケア)のための資源とアクセス、②利用者・介護者のQOL(Quality of Life)、③プライマリヘルスケアを含むサービスの統合、④認知症ケア、⑤ICT(Information and Communication Technology)の活用、⑥リハビリテーション、⑦介護予防・連携)32指標について、デルファイ法を用いたコンセンサス分析を行った。
結果と考察
国連、WHO、国際高齢者連盟等の国際機関が示すLTCの基本的価値観―すなわち尊厳、自律性、人権尊重、生活の質の重視―は、LTC評価の指針として国境を越えた共通性を有していた。一方、ASEANにおけるLTC政策評価の実装においては、制度的成熟度、財源構造、文化的価値観に大きな差異が存在しており、特に家族ケアの役割の強さや制度的支援の限界が評価指標の運用に直接影響を及ぼす点が確認された。多くの国が高齢化政策のメカニズムを確立してきている一方で、資源不足による行動制限の可能性が報告されていた。
現地調査では、タイにおいて、中間ケア(Intermediate Care: IMC)の導入により、介護に至る前の急性期から回復期までのリハビリテーション拡充と資金の投入がみられた。また、二次資料では、タイ高齢者に対する歯科保健医療施策と口腔ケア提供体制に関する公的施策の積極的推進が確認された。ベトナムでは介護は医療に含まれているが、2020年に高齢者医療計画の政令が発出され、既存の地域ボランティア活用など、地域包括支援制度の推進が掲げられていた。パイロット調査分析では、評価指標7領域はいずれも合意基準を満たし、最も合意率が高かった指標は「認知症を有する人々の意思決定と倫理的課題に関する政策」であり、続いて「認知症ケアに特化した医療・福祉施設の存在」「リハビリテーションを実施するための資格を有する専門職の存在」等であった。LTCのプライマリヘルスケアへの統合、認知症ケアやリハビリテーション、ICT利用に関する項目は合意率が高かったが、病院や医療施設からの退院時連携や在宅医療への統合等については合意率が低く、調査対象国において、高齢者医療そのものが普及していない実情が反映されていることが示唆された。
現地調査では、タイにおいて、中間ケア(Intermediate Care: IMC)の導入により、介護に至る前の急性期から回復期までのリハビリテーション拡充と資金の投入がみられた。また、二次資料では、タイ高齢者に対する歯科保健医療施策と口腔ケア提供体制に関する公的施策の積極的推進が確認された。ベトナムでは介護は医療に含まれているが、2020年に高齢者医療計画の政令が発出され、既存の地域ボランティア活用など、地域包括支援制度の推進が掲げられていた。パイロット調査分析では、評価指標7領域はいずれも合意基準を満たし、最も合意率が高かった指標は「認知症を有する人々の意思決定と倫理的課題に関する政策」であり、続いて「認知症ケアに特化した医療・福祉施設の存在」「リハビリテーションを実施するための資格を有する専門職の存在」等であった。LTCのプライマリヘルスケアへの統合、認知症ケアやリハビリテーション、ICT利用に関する項目は合意率が高かったが、病院や医療施設からの退院時連携や在宅医療への統合等については合意率が低く、調査対象国において、高齢者医療そのものが普及していない実情が反映されていることが示唆された。
結論
ASEANにおける高齢者ケアの実態把握と介護の質評価指標のパイロット調査を実施した。評価指標7領域すべてが合意基準を満たしたが、指標はASEANにおける家族介護中心の介護の実情を反映した結果となった。今後、ASEANにおけるLTC制度の整備と並行して、評価指標の共通基盤を構築することは、地域内の政策比較、進捗管理、そして資源配分の合理化に資すると考えられる。国際機関や周辺国との連携により、文化的に感受性の高い指標の整備と測定手法の標準化がさらに促進されることが期待された。
公開日・更新日
公開日
2025-12-10
更新日
-