出産育児一時金の見直しを踏まえた出産費用の分析並びに産科医療機関等の適切な選択に資する情報提供の実施及び効果検証のための研究

文献情報

文献番号
202401015A
報告書区分
総括
研究課題名
出産育児一時金の見直しを踏まえた出産費用の分析並びに産科医療機関等の適切な選択に資する情報提供の実施及び効果検証のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23AA2007
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
田倉 智之(日本大学 医学部 社会医学系 医療管理学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
  • 野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
  • 杉森 裕樹(大東文化大学 スポーツ・健康科学部看護学科/大学院スポーツ・健康科学研究科予防医学)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
11,193,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 社会保障審議会医療保険部会における議論の整理(令和4年12月15日)や全世代型社会保障構築会議の報告書(令和4年12月16日)に基づき、令和5年4月の出産育児一時金の見直しを踏まえ、支給額の引き上げ後3年(令和8年)を目途に行う出産育児一時金の在り方の議論に向けて、出産費用の「見える化」における公表項目等の検討、詳細な出産費用の分析や「見える化」の効果検証が望まれる。
 以上を踏まえ、本研究は、出産費用の「見える化」と出産育児一時金の引上げという政策の潮流を背景に、それら(見える化と引き上げ)が妊産婦等の受療行動や分娩施設等の運営行動にどのような影響を及ぼすのか明らかにし、出産育児一時金の制度や少子化対策等の周辺政策の将来の議論に資することを目的とする。
 具体的には、出産費用の「見える化」に伴い、妊産婦のニーズや不満、さらには施設経営の課題やニーズ等がどのように変化をするのか、考証を行なう。また、出産費用の「見える化」の要因も考慮しつつ、出産育児一時金の引上げが、出産費用(請求額)の水準とともに医療施設の費用構造に及ぼす影響を明かにする。
 本研究は、調査の負担や分析の期間等の限界を背景に、分娩サービスの費用構造を通常の研究アプローチ(原価計算)ではなく、既存の公的統計データ等からモデリング等の手法も応用しつつ、一定の条件下で推計を試行することも検討する。なお、費用分析をモデリングで実施する例はあるが、分娩領域の先行報告はない。
 本研究における成果として、見える化の在り方と方法の検討や費用構造の推計手法の開発のみならず、さらなる見える化の効果検証および出産費用の変動分析も想定している。これらの研究成果は、妊産婦が適切に医療機関等を選択できるようになるための検討に資するうえ、医療機関の安定経営を促進させるための検討にも貢献する。
研究方法
 本年度は、大規模な医療データベースを応用した縦断的な解析による各種影響の整理に向けたデータ整備や、既存の公的統計データ等からモデリング等の手法も応用しつつ分娩サービスの費用構造を整理するロジックの検討を進めるとともに、妊産婦等の受療行動に関わる意識調査等を中心に研究を行った。その調査は、全国の妊産婦を対象に、既存のパネルを利用したWEB調査によるアンケート方式で実施した。本調査にあたり、大規模な調査対象集団に対して、地域(都道府県)、年齢(5歳帯)の条件下で我が国の妊産婦の人口構成にそって補正を行い、偏りの軽減とともに一定の代表性等を担保した。
 その他に本研究は、前年度の成果に基づき、既存の公表統計データ等を活用した最終的な分析手法について、一定規模のサンプルサイズや複数のデータソースにて検証を行う予定である。具体的には、地域特性、施設特性、さらに可能であれば分娩種別等の予想される影響因子にも配慮しつつ、分析手法の妥当性や限界等を考証する。
 さらに、本年度は出産費用等の予備分析を進めた。本研究においては、出産費用育児一時金の支給額の引き上げの前後(令和5年度)において、出産費用(請求額)や他の関連指標の変位を整理し、変動要因等に関わる分析を過年度の各種の研究成果も反映しながら実施する。また、2-1等の結果を踏まえ、過去の医療機関の費用構造や収支水準の推移を推計する。
結果と考察
 意識調査に関わるコホート整備の結果、サンプル数は3000件(回答率:100%)となり、その分析の結果、次の点が明らかとなった。2024年9月時点の当調査において、調査対象の妊産婦の中で、「出産なび」サイトを知っている人は約36%、サイトの利用者は約18%であった。「出産なび」サイトを利用することにより、出産費用を把握する時期が利用していない者と比較して有意に早まった(p<0.001)。さらに、情報収集の程度は、サイト利用群のほうが総じて高かった(p<0.01)ほか、費用に関する情報収集への満足度(p<0.01)や、出産費用が妥当と感じる割合も高かった(p<0.05)。以上により、妊婦にとって「出産なび」が出産費用等の情報へアクセスするツールとして活用されうることが示唆された。なお、本報告は、「出産なび」サイトの評価データの一部の整理に過ぎず、さらに多面的な検討等が必要であると考えられた。
結論
 「出産なび」サイトの開始から間もなく、データ(普及やサンプル)の制約もある現状を踏まえつつ、今後は、さらなる分析等を継続する予定である。また、本研究の目的にそって、出産費用の「見える化」に伴い、妊産婦のニーズや不満、さらには施設経営の課題やニーズ等がどのように変化をするのか、考証を行なう予定である。これらの研究成果は、妊産婦が適切に医療機関等を選択できるようになるための検討に資するうえ、医療機関の安定経営を促進させるための検討にも貢献すると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2025-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202401015Z