食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究

文献情報

文献番号
200939018A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究
課題番号
H19-食品・一般-019
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 卓二(金沢医科大学 腫瘍病理学)
  • 原田 孝則(財団法人 残留農薬研究所 毒性部)
  • 出川 雅邦(静岡県立大学 分子毒性学)
  • 斉藤 貢一(星薬科大学 薬品分析化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中化学物質の相互作用を検討するため、発がん、発がん抑制、神経毒性及び免疫毒性に関するin vivo実験、代謝活性化及び酸化ストレスへの影響に関するin vitro実験を実施した。
研究方法
①IQの複合影響をgpt deltaラットで検討した。Cyp1a2 mRNA発現量への複合影響をマウスで検討した。フルメキンとMeIQxの併用投与によるgpt変異頻度への影響を検討した。②Indole-3-carbinolとhesperidin、或いはquercetinとcatechin mixtureをマウスに併用投与し、microarray解析を行った。③2種類の有機リン系農薬をラットに反復経口投与した。有機リン剤と有機塩素剤をマウスに反復経口投与し、フェノキシ酢酸系除草剤・殺菌剤を経皮暴露してLLNA法で検索した。④ヒトAhRリガンド検索用細胞株に食品添加物を処理し、AhR活性化の経時変化を検討した。また、ヒトPXRリガンド検索用細胞株に処理し、CYP3A酵素発現への影響を検討した。⑤クロロゲン酸およびカフェイン酸について、ニトロ化によるラジカル発生能をESRで検討した。
結果と考察
①IQ+CYP1A2誘導剤併用投与で、gpt変異頻度が減少しUGT活性が上昇した。ラット同様、併用でCyp1a2発現量が相加的に上昇した。フルメキン併用によりMeIQxのgpt変異頻度が上昇した。②変動遺伝子数は併用投与群で顕著に多く、単独群ではみられなかった遺伝子発現の変動が見られた。③パラチオンとメタミドホスは、相加的なChE活性阻害作用を示した。ChE活性阻害等は若齢の方が軽度であった。パラチオン及びメトキシクロルは、リンパ球細胞増殖活性を増加し、EC3濃度を低下させた。④チアベンダゾール共存下、低濃度のMCを処理したところ、MC単独処理に比してAUCの増加が見られたが、CYP3A酵素活性にはほとんど影響を及ぼさなかった。⑤フェノール性化合物はニトロ化によってProoxidant作用が減弱しAntioxidant作用が上昇した。フェノール性化合物はDNAの酸化を示すが、ニトロ化によって作用が減弱した。
結論
得られたデータを総合的に解析することにより、複合影響に対するより的確な安全性評価に寄与できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-06-01
更新日
-

文献情報

文献番号
200939018B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究
課題番号
H19-食品・一般-019
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 卓二(金沢医科大学 腫瘍病理学)
  • 原田 孝則(財団法人 残留農薬研究所 毒性部)
  • 出川 雅邦(静岡県立大学 分子毒性学)
  • 中澤 裕之(星薬科大学 薬品分析化学)
  • 斉藤 貢一(星薬科大学 薬品分析化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中化学物質の相互作用を検討するため、発がん、発がん抑制、神経毒性及び免疫毒性に関するin vivo実験、代謝活性化及び酸化ストレスへの影響に関するin vitro実験を実施した。
研究方法
①グルコン酸銅と抗酸化物質或いは金属キレート剤、β-ナフトフラボンとチアベンダゾールをラットに併用投与した。また、MeIQxと四塩化炭素またはフルメキンをgpt deltaマウスに併用投与した。②クルクミンとケルセチン、或いはヘスペリジンとインドール-3-カルビノールをマウスに併用投与し、microarrayにより遺伝子発現変異を解析した。③有機リン剤とカーバメート剤、或いは2種類の有機リン系農薬(パラチオンとメタミドホス)をラットに併用投与し、神経毒性及び免疫毒性への影響を検討した。④AhRまたはPXR活性化を高感度に検出しうるヒト肝がん細胞株を用いて、各種食品添加物の複合影響を検討した。⑤食品中フェノール性抗酸化物質と亜硝酸ナトリウムの複合曝露によるニトロ化反応で発生する活性酸素種への影響をin vitroで検討した。
結果と考察
①グルコン酸銅投与により酸化的ストレスが誘発されたが、併用投与による複合影響は顕著でなかった。β-ナフトフラボン及びチアベンダゾールは、肝CYP1A2 mRNA上昇に閾値を有する可能性が示された。四塩化炭素またはフルメキンの併用は、レポーター遺伝子の変異頻度をMeIQx単独投与群に比べて著しく上昇させた。②クルクミンとケルセチンの複合投与は、いくつかの特徴的な遺伝子発現の変化を誘導した。ヘスペリジンとインドール-3-カルビノールの複合影響は解析中である。③有機リン剤とカーバメート剤の併用により血漿総コレステロールが上昇した。有機リン系農薬の複合投与では、多動性などの神経行動毒性が増強される傾向がみられた。免疫毒性については検証中である。④チアベンダゾールやクルクミンは、AhR活性化やCYP1A酵素活性誘導において、3-メチルコラントレンとの相乗作用を示した。樹立したレポーター細胞株は、ヒトPXRリガンドに対して高い反応性を示した。⑤ニトロ化により活性酸素種の発生量が増強した。クロロゲン酸と亜硝酸ナトリウムを人工胃液中で反応させたところ、新たな化合物の生成が示唆された。
結論
得られたデータを総合的に解析することにより、複合影響に対するより的確な安全性評価に寄与できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-06-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200939018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品中化学物質の相互作用をin vivo及びin vitro実験で検討した結果、四塩化炭素やフルメキンの併用によるMeIQxの遺伝毒性の増強、有機リン系農薬の複合投与による多動性などの神経行動毒性の増強、3-メチルコラントレンとチアベンダゾールやクルクミンの併用によるAhR活性化やCYP1A酵素活性誘導の増強、フェノール系物質と亜硝酸塩の併用で惹起されるニトロ化反応による活性酸素種の発生増加等が認められた。成果は日本癌学会等で公表され、Cancer Science等の雑誌に掲載されている。
臨床的観点からの成果
網羅的な文献調査において、日常的に摂取する食品添加物の組合せでは、危惧すべき重大な相互作用は殆どないとする一応の結論が得られているが(食品添加物の複合影響に関する情報収集調査報告書、食品安全委員会、2007年3月)、その後、本研究班において複合的有害影響を示唆する幾つかの新知見が見出され、また英国医学誌において合成着色料と保存料の複合摂取による児童の多動性亢進を示唆する論文が掲載されたことなどから、食品と医薬品等に含まれる化学物質の相互作用による有害影響の作用機序を今後も追究していく必要がある。
ガイドライン等の開発
研究代表者(西川)が委員として参画した食品添加物の複合影響に関する情報収集調査において、当該研究班並びに関連する過去の研究班の実験データが参照された。その情報収集調査報告書の内容は、食品安全委員会の添加物に関する食品健康影響評価指針(2010年5月)にも引用されている。また最近、EUにおいて、残留農薬の累積リスク評価に関する指針作成の動きがあり、本研究班において示された有機リン系農薬の複合投与による多動性など神経行動毒性増強のデータ等は、その動向に大きく寄与できる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
一般消費者の間には、食品中に含まれる様々な化学物質による複合的な有害影響に対する漠然とした不安がある。その不安を解消するためには、危惧される組合せについて、実験的検証を行っていく必要がある。食品中化学物質相互の複合的な有害影響を未然に防ぐことは、厚生行政にとって最重要な施策の1つと位置づけられるべきものである。さらに、化学物質の相互作用による有害影響の作用機序に関するデータは、食品中化学物質のみならず、医薬品等の他の化学物質との複合影響を考察する上でも貴重な資料となるはずである。
その他のインパクト
本研究班での注目すべきデータがある程度集まり次第、日本毒性病理学会、日本癌学会、日本トキシコロジー学会等のシンポジウム、ワークショップなどにおいて、公開で討論する予定である。また、結果として、危惧すべき複合影響がみられなかった化学物質の組合せについても、国民の不安を払拭するために、その旨広く啓蒙していく手段を模索する。複合影響に関する標準的な試験法がない現状であるが、本研究班で確立した試験法を一般に普及していく努力も併せて行っていく。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kuroiwa, Y., Ishii, Y., Umemura, T. et al.
Combined treatment with green tea catechins and sodium nitrite selectively promotes rat forestomach carcinogenesis after initiation with N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine
Cancer Sci. , 98 , 949-957  (2007)
原著論文2
204. Kuroiwa, Y., Okamura, T., Ishii, Y. et al.
Enhancement of esophageal carcinogenesis in acid reflux model rats treated with ascorbic acid and sodium nitrite in combination with or without initiation
Cancer Sci. , 99 , 7-13  (2008)
原著論文3
211. Kanki, K., Umemura, T., Kitamura, Y. et al.
A possible role of nrf2 in prevention of renal oxidative damage by ferric nitrilotriacetate
Toxicol. Pathol. , 36 , 353-361  (2008)
原著論文4
210. Kuroiwa, Y., Yamada, M., Matsui, K. et al.
Combined ascorbic acid and sodium nitrite treatment induces oxidative DNA damage-associated mutagenicity in vitro, but lacks initiation activity in rat forestomach epithelium
Toxicol. Sci. , 104 , 274-282  (2008)
原著論文5
Miyamoto, S., Epifano, F., Curini, M. et al.
A novel prodrug of 4'-geranyloxy-ferulic acid suppresses colitis-related colon carcinogenesis in mice
Nutr. Cancer , 60 , 675-684  (2008)
原著論文6
Kim, M., Miyamoto, S., Sugie, S. et al.
A tobacco-specific carcinogen, NNK, enhances AOM/DSS-induced colon carcinogenesis in male A/J mice
In Vivo , 22 , 557-563  (2008)
原著論文7
Miyamoto, S., Yasui, Y., Tanaka, T. et al.
Suppressive effects of nobiletin on hyperleptinemia and colitis-related colon carcinogenesis in male ICR mice
Carcinogenesis , 29 , 1057-1063  (2008)
原著論文8
Shimizu, M., Shirakami, Y., Sakai, H. et al.
(-)-Epigallocatechin gallate suppresses azoxymethane-induced colonic premalignant lesions in male C57BL/KsJ-db/db mice
Cancer Prev. Res. (Phila Pa) , 1 , 298-304  (2008)
原著論文9
Fukuyama, T., Ueda, H., Hayashi, K. et al.
Use of long term dermal sensitization followed by intratracheal challenge method to identify low-dose chemical-induced respiratory allergic responses in mice
Toxicol. Lett. , 181 , 163-170  (2008)
原著論文10
Kim. M., Miyamoto, S., Yasui, Y. et al.
Zerumbone, a tropical ginger sesquiterpene, inhibits colon and lung carcinogenesis in mice
Int J Cancer , 124 , 264-271  (2009)
原著論文11
Fukuyama, T., Tajima, Y., Ueda, H. et al.
Allergic reaction induced by dermal and/or respiratory exposure to low-dose phenoxyacetic acid, organophosphorus, and carbamate pesticides
Toxicology , 261 , 152-161  (2009)
原著論文12
Tasaki, M., Umemura, T., Kijima, A. et al.
Simultaneous induction of non-neoplastic and neoplastic lesions with highly proliferative hepatocytes following dietary exposure of rats to tocotrienol for 2 years
Arch. Toxicol. , 83 , 1021-1030  (2009)
原著論文13
Ishii, Y., Okamura, T., Inoue, T. et al.
Dietary catechol causes increased oxidative DNA damage in the livers of mice treated with acetaminophen
Toxicology , 263 , 93-99  (2009)
原著論文14
Takahashi, M., Shibutani, M., Nakahigashi, J. et al.
Limited lactational transfer of acrylamide to rat offspring on maternal oral administration during the gestation and lactation periods
Arch. Toxicol. , 83 , 785-793  (2009)
原著論文15
Imai, T., Hasumura, M., Cho, YM. et al.
Inhibitory effects of aminoguanidine on thyroid follicular carcinoma development in inflamed capsular regions of rats treated with sulfadimethoxine after N-bis(2-hydroxypropyl)nitrosamine-initiation
Cancer Sci. , 100 , 1794-1800  (2009)
原著論文16
Tanaka, T., Yasui, Y., Tanaka, M. et al.
Melatonin suppresses AOM/DSS-induced large bowel oncogenesis in rats
Chem. Biol. Interact. , 177 , 128-136  (2009)
原著論文17
Shimizu, M., Shirakami, Y., Iwasa, J. et al.
Supplementation with branched-chain amino acids inhibits azoxymethane-induced colonic preneoplastic lesions in male C57BL/KsJ-db/db mice
Clin. Cancer Res. , 15 , 3068-3075  (2009)
原著論文18
Yasuda, M., Nishizawa, T., Ohigashi, H. et al.
Linoleic acid metabolite suppresses skin inflammation and tumor promotion in mice: possible roles of programmed cell death 4 induction
Carcinogenesis , 30 , 1209-1216  (2009)
原著論文19
Yoshimi, K., Tanaka, T., Takizawa, A. et al.
Enhanced colitis-associated colon carcinogenesis in a novel Apc mutant rat
Cancer Sci. , 100 , 2022-2027  (2009)
原著論文20
Fukuyama, T., Tajima, Y., Ueda, H. et al.
Apoptosis in immunocytes induced by several types of pesticides
J. Immunotoxicol. , 7 , 39-56  (2010)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-