文献情報
文献番号
200936256A
報告書区分
総括
研究課題名
那須ハコラ病の臨床病理遺伝学的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H21-難治・一般-201
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 準一(明治薬科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 天竺桂 弘子(明治薬科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
那須ハコラ病(Nasu-Hakola disease; NHD)は、多発性骨嚢胞による病的骨折と白質脳症による若年性認知症を主徴とする稀少疾患である。1970年代初頭に那須毅博士とHakola博士により最初に報告され、患者は日本と北欧に集積している。NHDはDAP12遺伝子またはTREM2遺伝子の機能喪失変異により発症する常染色体劣性遺伝性疾患であり、有効な治療法のない難病である。本邦では現在まで疫学的実態調査はなく、正確な患者数は把握されていない。DAP12は脳ではミクログリアの細胞膜に発現しており、TREM2と会合しITAMモチーフを介してシグナルを伝達するアダプター分子である。DAP12機能喪失による白質脳症発症機構は明らかでない。本研究は本邦における患者数把握のため、診断基準を作成して全国調査を行い、脳分子病態を解明して創薬標的分子を見出すことを主たる目的としている。
研究方法
過去の症例報告を精査して臨床的特徴を把握し、専門的知識のない一般臨床医でも利用可能な平易な診断基準を作成して、全国の神経内科・精神科・整形外科教育研修施設4071カ所を対象に、文書で臨床病理遺伝学的項目に関するアンケート調査を行った。また剖検脳組織を免疫組織化学的に解析した。さらに患者樹状細胞の遺伝子発現データ(GEO: GSE3624)をバイオインフォマティクス手法で解析して、疾患特異的バイオマーカーを同定した。
結果と考察
NHD診断基準を作成し公開した(www.my-pharm.ac.jp/~satoj/)。アンケート調査に対して、1656施設から回答を得た(回答率41%; 患者29名; 剖検8例)。従って本邦における患者数は約200人と推定された(患者数29x回収率補正2.5x病院数補正3.5; 20-40歳代に集積)。遺伝子発現データからNHD特異的バイオマーカーSIGLEC1, AIF1を同定した。患者剖検脳組織(DAP12 141delG)を解析し、HLA-DR陽性Iba1陽性ミクログリアの集積を見出した。すなわち患者脳ではミクログリアの恒常的活性化を認め、正常脳ではDAP12はミクログリアに対して活性化抑制シグナルを伝達している可能性が示唆された。
結論
アンケート調査において、30施設では専門医であるにも関わらず、NHDを初めて聞いたと回答した。数施設からは遺伝子解析の依頼と遺伝病カウンセリングの問い合わせがあった。すなわち本研究はNHDの医療的認知度の向上に貢献し得た。患者脳におけるミクログリアの異常活性化を阻止する薬を開発出来れば、創薬につながる可能性があることがわかった。
公開日・更新日
公開日
2010-04-12
更新日
-