わが国初の周産期心筋症の全国後方視的・前方視的症例調査に関する研究

文献情報

文献番号
200936217A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国初の周産期心筋症の全国後方視的・前方視的症例調査に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-162
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 千津子(国立循環器病センター 周産期治療部)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 智明(国立循環器病センター 周産期治療部 )
  • 石田 充代(明治大学 農学部 生命科学科)
  • 神谷 厚範(国立循環器病センター 循環動態機能部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊娠に関連して発症する周産期心筋症は、わが国における妊産婦死亡の原因として重要な疾患であるが、疾患の特徴上、産科と循環器科の境界領域に属し、医療空白であるため、疾患概念すら周知されておらず、その国内発症数の把握すらされていないのが現状である。そこで今回、全国の周産期母子医療センターや大学病院のみでなく、救命救急センターおよび循環器専門医研修施設を対象として、周産期心筋症の発生状況と臨床像の調査・分析を行った。結果は、疾患の早期診断、治療法の確立に寄与し、最終的に予後向上、妊産婦死亡を減少させるものと期待される。
研究方法
全国の周産期専門医認定施設(1025施設)、救命救急専門医認定施設(約431施設)、循環器専門医認定施設(約1030施設)へのアンケート調査を実施した。2007年1月~2008年12月までの2年間に診療した新規発症例を対象とし、2009年8月31日まで、インターネットによる症例登録を行った。
結果と考察
対象施設の73%から、症例の有無についての回答を得、重複登録を除いて102例の登録を得た。三大初発症状は、呼吸困難、咳、浮腫であり、重症例では重篤な臨床転帰(6%が死亡または心移植待機、33%が慢性心不全化、急性期死亡の頻発)をたどり、不十分な医療体制(初診医は心不全を専門としない産科医や一般医、死亡例は全例急性期死亡、疾患概念周知の不足等)が初めて明らかとなった。また、初診時と平均10ヶ月後の心機能は相関しており、早期発見早期治療が予後改善につながることも示唆された。危険因子として、妊娠高血圧症候群(38%)、多胎(14%)、子宮収縮抑制剤(14%)などが挙がった。初診時の血清BNP値はほぼ全例で増加(95%の患者において100pg/ml以上)しており、心不全診療に不慣れな医師にとっても簡便な診断ツールになると考えられた。また高血圧合併の有無が予後予測因子の一つであることが判明した。
結論
 今後、妊婦の高齢化に伴い、わが国においても症例数の増加が予測される(現に、アメリカでは、年々発症数が増えていることが報告されている)。疾患概念を周知させ、リスクを把握し、予防もしくは早期発見早期治療にむけた取り組みが必須である。今後、本調査結果をもとに、長期予後や再妊娠時の予後、治療法などについての、さらなる前向き臨床研究を展開し、診断・治療ガイドライン作成が急務の課題である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936217C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国初の全国調査による102症例の解析から、①初診時の血清BNP値が著明に上昇しており、95%の患者で100pg/ml以上であった。②高血圧非合併例では、合併例に比して心機能回復が不良であった(発症10ヶ月後心臓エコー左室駆出率の正常回復率は、非合併例56% vs. 合併例 70%)。③妊娠中の心不全発症例では、胎児予後も不良であった(子宮内胎児死亡3例、子宮内発育遅延2例)。これらは世界的にも未報告な事項であり、診療治療指針の作成の基盤となるばかりか、病因にも迫る重要な結果である。
臨床的観点からの成果
全国調査結果では、初診医の75%が、普段心不全治療に携わっていない産科医もしくは一般内科医であった。一方、早期発見早期治療が予後改善につながる可能性があり、初診時の診断率の向上が重要である。そこで、疾患概念とともに、調査結果により判明した三大初発症状が呼吸困難、咳、浮腫であること、血清BNP値が簡便な診断ツールになりうること、35歳以上の高血圧合併妊婦にもっとも多いことなどの周知が、初診時の診断率向上に繋がるであろう。
ガイドライン等の開発
周産期心筋症は妊娠の最終月から産褥5か月間に心不全を発症すると1970年代に発表されたが、妊娠中期以降に心不全を発症した患者の背景・予後などが古典的な定義に当てはまる患者と同等であるとの報告が2005年に米国からなされた。また、高血圧合併例を心筋症に加えるかどうかも意見が分かれており、世界的にも、診断基準すら定まっていないのが現状である。その上で、米国の結果を裏付けるとともに、高血圧合併の有無で心機能予後が異なるという本研究成果は多大な意義を持ち、今後の診断ガイドラインの基盤となろう。
その他行政的観点からの成果
本研究成果より、心機能低下が重症化する前に初診した患者では慢性期予後が良いことが判明し、早期発見早期治療が予後改善の鍵を握ることが示唆された。そこで、疾患概念の普及は本疾患予後に大きな影響を持つと考え、医療従事者に加え、広く一般にも疾患が知られるようその周知・啓蒙に努めた。また、本研究により、両科横断的な専門知識や診療能力を持つようなスペシャリストを養成するための基盤を形成できたと思われる。
その他のインパクト
■朝日新聞掲載
平成21年8月2日「周産期心筋症2万人に1人」
平成21年9月8日から20日“患者を生きる”シリーズ全12回(NO.1063-1074掲載)
■メディカルトリビューンVol.43 No.7掲載

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
8件
「周産期心筋症について」(心臓)「産褥心筋症」(産婦人科の実際)「産科救急Q&Aケーススタディ10周産期心筋症」(救急・集中治療)「心疾患合併妊婦の周産期管理」(産婦人科治療)他
その他論文(英文等)
1件
Traumatic Tricuspid Regurgitation Caused by Myocardial Laceration
学会発表(国内学会)
4件
■第31回心筋生検研究会 ■第12回成人先天性心疾患研究会 ■日本性差医学・医療学会第3回学術集会 ■第74回日本循環器学会総会・学術集会
学会発表(国際学会等)
1件
■First International Congress on Cardiac Problems Pregnancy
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
■第4回国立循環器病センター周産期サマーセミナー

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20