両側性蝸牛神経形成不全症の治療指針の確立

文献情報

文献番号
200936215A
報告書区分
総括
研究課題名
両側性蝸牛神経形成不全症の治療指針の確立
課題番号
H21-難治・一般-160
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 泰地 秀信(国立成育医療研究センター 耳鼻咽喉科)
  • 守本 倫子(国立成育医療研究センター 耳鼻咽喉科)
  • 坂田 英明(目白大学 言語聴覚学科、埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科)
  • 浅沼 聡(埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科)
  • 安達 のどか(埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科)
  • 仲野 敦子(千葉県こども病院 耳鼻咽喉科)
  • 城間 将江(国際医療福祉大学 言語聴覚学科)
  • 新正 由紀子(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
  • 尾藤 誠司(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター政策医療企画研究部 臨床疫学研究室)
  • 加我 君孝(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
両側性蝸牛神経形成不全症は、原因不明の蝸牛神経発生障害による先天性高度難聴である。先天性高度難聴では言語の獲得が困難であるため、生活に重大かつ長期の支障をきたす。特に本難聴では補聴器の効果が期待できず、人工内耳の効果も他の先天性高度難聴より低いため、先天性難聴の治療困難例の原因としての重要性が高い。本研究では、両側性蝸牛神経形成不全症のサブタイプ別に治療指針を確立することを目的とする。
研究方法
まず過去に内耳MRIで蝸牛神経形成不全症が診断された10症例および内耳CT検査により蝸牛神経形成不全症が診断された42例の臨床像を検討した。次いで新規症例について各研究参加施設で内耳CTと内耳MRIの両方あるいはいずれかで蝸牛神経形成不全を診断し、その臨床データを東京医療センターに集積して解析した。今年度の新規症例は14例であった。
結果と考察
MRIによる診断の10症例では、8例は蝸牛神経欠損、2例は蝸牛神経低形成であった。聴覚検査では全例高度難聴であったが、5例ではOAE検査により内耳機能は保たれていることが判明した。内耳CTによる評価が行われた5例では、全例で蝸牛神経管は欠損または低形成が認められた。
CTによる診断の42例では、蝸牛神経管のみの狭窄が18例で、24例では蝸牛神経管と内耳道の狭窄が合併して認められた。聴覚検査結果は7例で中等度難聴、35例で高度難聴であった。
新規14例では、12例は先天性、2例は後天性(発症年令16才と42才)であった。42才発症例は補聴器によるリハビリテーションが有効であった。14例中11例は難聴以外に合併症を呈する症候群性であった。14例中9例は内耳奇形を合併していた。2例で治療として人工内耳手術が行われ、2例とも効果は緩徐だが確実に表れた。
結論
診断においては内耳奇形を伴う症候群性難聴では、蝸牛神経形成不全の診断を念頭に置いて画像評価を行うことが重要であり、治療においては蝸牛神経形成不全でも補聴器、人工内耳の有効例があるため、これらの手段を用いた治療の適応を検討することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936215C

成果

専門的・学術的観点からの成果
まず、蝸牛神経形成不全症には内耳奇形が高頻度で合併することが明らかとなった。日本人では初めての知見であり、また海外の報告より合併頻度が高い可能性が示された。次に、少数例であるが内耳奇形を伴わない難聴症例においても本症が診断された。このことより、言語発達が困難な小児難聴の一部の症例の原因に、蝸牛神経形成不全症があることが示された。これらの成果は国内の学会および聴覚医学専門誌に掲載され大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
特に内耳奇形を伴う症候群性難聴では両側蝸牛神経形成不全症の診断を念頭に置いて画像評価を行うことが重要であり、本症の治療においても補聴器、人工内耳の有効例が明らかになった。内耳性難聴と比較して効果は緩徐であるが、使用前と比べると確実に聴覚の向上が認められた。また、発音の明瞭化にも効果を確認できて、早期診断により個別の病態に適した言語訓練が促進されることが示された。これらはアジア人では初めての研究成果である。
ガイドライン等の開発
これまで作成されていなかった両側性蝸牛神経形成不全症の治療ガイドラインへの提言を作成した。通常の先天性難聴と同様にまず補聴器による聴覚および言語発達を評価して、有効の場合は継続し、効果が得られない場合は人工内耳の適応を検討する。内耳MRI検査で蝸牛神経欠損であっても細い蝸牛神経が残存している可能性があり、小児では細い蝸牛神経でも言語発達を得られる可能性があるため、人工内耳の適応は補聴器による音への反応で判断する点の重要性を根拠を持って記せた。
その他行政的観点からの成果
今後、両側性蝸牛神経形成不全症の診療ガイドラインを学会等で作成する際に、本研究成果が重要な資料となる。本研究成果で本症の難聴児の言語発達が促進され、社会参加の機会が増えることは、社会生産性の活性化と、障害者援助に必要な社会的経費の減少につながる。子どもの難聴の見通しが不明であると、親は不安で多数の医療機関で過剰な検査を受ける場合も多い。本症の治療の適正な説明が可能となれば、そのような過剰な医療費を減らすことができる。
その他のインパクト
両側性蝸牛神経形成不全症の発症時期、蝸牛神経管狭窄、平衡機能障害、特定の症候群との合併という臨床的特徴別にサブタイプ分類を提唱した。このような病態に則したサブタイプ分類することで、より効果の高い診療が促進される。また、優性遺伝性視神経萎縮では本症と平衡障害を合併することを発見した。本症に対する組織的な取り組みは我々が初めてであり、わが国の小児難聴診療をリードする形に発展している。

発表件数

原著論文(和文)
5件
Bio Industry,Otol Jpn,Audiology Japan,Equiblium research
原著論文(英文等)
3件
Keio J Med,Acta Otolaryngol,Pediatric Radiology
その他論文(和文)
7件
中等度難聴の遺伝子、小児耳鼻咽喉科診療指針、耳鼻咽喉科・頭頚部外科、JOHNS
その他論文(英文等)
2件
Neuropathies of the Auditory and Vestibular Eighth Cranial Nerves
学会発表(国内学会)
11件
日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科学会総会、日本耳科学会総会、日本めまい平衡医学会、国立病院総合医学会、東京都地方部会、日本小児耳鼻咽喉科学会総会、埼玉地方部会
学会発表(国際学会等)
2件
第2回国際シンポジウム、AAO-HNSF
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
小児難聴シンポジウム、小児難聴シンポジウム パンフレット、難聴幼児通園施設職員研修会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
加我君孝、竹腰英樹、新正由紀子、他
幼小児の人工内耳手術-先天性および後天性高度難聴児に聴覚を回復させる新しい医療-
Bio Industry , 26 (3) , 92-98  (2009)
原著論文2
守本倫子
先天性蝸牛神経形成不全による一側性難聴例の検討
Otol Jpn , 19 , 41-482  (2009)
原著論文3
守本倫子、木村朋子、泰地秀信
当科にて聴力精査を行った0歳児の検討
Audiology Japan , 52 , 523-524  (2009)
原著論文4
中村智恵、守本倫子、五島史行、他
耳症状で初発し、平衡機能障害を呈した小児ランゲルハンス組織球症(LCH)の一例
Equiblium research , 68 , 404-  (2009)
原著論文5
泰地秀信、守本倫子、松永達雄
Auditory neuropathy spectrum disorderの乳幼児例におけるASSR閾値
Audiology Japan , 53 (1) , 76-83  (2010)
原著論文6
Matsunaga T
Value of genetic testing in determination of therapy for auditory disorders
Keio J Med , 58 (4) , 216-222  (2009)
原著論文7
Jin Y,Shinjo Y,Akamatsu Y, et al.
Vestibular evoked myogenic potentials of children with inner ear malformations before and after cochlear implant
Acta Otolaryngol , 129 , 1198-1205  (2009)
原著論文8
Miyasaka M, Nosaka S, Morimoto N, et al.
CT and MR imaging for pediatric cochlear implantation: emphasis on the relationship between the cochlear nerve canal and the cochlear nerve
Pediatric Radiology  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-