文献情報
文献番号
202327012A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1キャリア妊産婦の支援体制の構築に関する研究
課題番号
23DA0301
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
内丸 薫(国立大学法人東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 関沢 明彦(昭和大学 医学部 産婦人科学講座)
- 谷垣 伸治(杏林大学医学部産科婦人科)
- 三浦 清徳(長崎大学 医学部・歯学部附属病院)
- 宮沢 篤生(昭和大学医学部小児科学講座)
- 森内 浩幸(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学専攻感染症免疫学講座感染病態制御学分野)
- 根路銘 安仁(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 離島へき地医療人育成センター)
- 井村 真澄(日本赤十字看護大学 大学院 看護学研究科 国際保健助産学専攻)
- 有森 直子(聖路加国際大学 看護学部)
- 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 柘植 薫(国立大学法人香川大学 香川大学医学部附属病院がんセンター)
- 小出 馨子(学校法人 昭和大学 医学部)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
先行研究班(厚労板橋班)により、3か月以下の短期授乳では、完全人工乳に比べて児の感染率は上昇しないこと、適切な授乳支援がないと短期授乳選択者の20%程度は3か月での人工乳への切り替えができていないことが明らかになった。乳房管理・授乳支援を十分行うことを必須条件として、短期授乳を選択肢の一つとして挙げた改訂版HTLV-1母子感染予防対策マニュアルが作成されたが、これらの授乳支援が現状で不十分であり、本研究では、これらの支援体制の構築のために必要な調査研究を行った。
研究方法
HTLV-1抗体陽性妊婦に関する調査を実施した。短期授乳を選択したキャリア妊産婦に対する支援の実態、また短期授乳を選択したキャリア妊産婦の完全人工乳移行についても調査を行った。短期授乳の選択を希望するHTLV-1キャリア妊産婦に対する授乳支援体制の構築のため人工乳移行マニュアルの作成と普及に取り組み、これまでの事例として鹿児島県の情報収集と事例検討を行った。短期母乳栄養を選択したHTLV-1陽性妊産婦への支援に関する報告に基づき、標準的な事例または特徴的な事例を抽出し、妊娠期から産後の授乳終了に至る各期別に母子の授乳状況、支援時期と回数、助産師の支援内容、その他の支援等について分析を行った。また、HTLV-1キャリア登録ウェブサイトの登録者を対象にキャリアマザーの授乳に対する意識、および児の抗体検査についての考え方について調査を行った。東京地区の産科拠点施設、小児科協力施設による連携体制東京プログラムの運用と産科拠点病院ネットワークの課題の抽出を試みた。HTLV-1母子感染予防に関する研修事業の改善の方策にかかる提言の検討として、都道府県などの行政、保健所、一般産科クリニックまで含めて母子感染予防対策を周知し、サポート体制を構築、改善していくための研修事業の在り方について検討した。さらにキャリア妊産婦への普及啓発資材の作成を行った。
結果と考察
HTLV-1抗体陽性妊婦に関する調査の結果、短期授乳を選択したキャリア妊産婦のうち24.3%が3か月までフォローされていなかった。一方、フォローされていたキャリア妊産婦は全例で3か月以下での完全人工乳に成功していた。これらのデータは短期授乳を選択したキャリア妊産婦に対して十分な支援体制を構築すれば、短期授乳を選択したキャリア妊産婦が確実に3か月以下で完全人工乳へ移行することは可能であることを示唆する。具体的なキャリア妊産婦の授乳支援体制の内容についての基礎データが取得され、完全人工乳への移行の具体的な標準的手順を検討しマニュアル化する予定である。ウェブサイトによる調査により、仮に3か月以下であれば母乳哺育を行っても児のHTLV-1感染率は上昇しないとしても完全人工乳を選択すると回答したキャリア妊産婦が全体の半数を占めており、感染予防の情報をきちんとキャリア妊産婦に伝えることの重要性が改めて確認された。一方、3か月以下の短期授乳を選択したいというキャリア妊産婦も40%存在しており、短期授乳を希望するキャリア妊産婦に対しては適切な支援体制を整備することが必要であることが示された。東京プログラムは昨年10月から本格稼働を開始した。HTLV-1母子感染予防のための研修事業については、全都道府県中76.6%にあたる36都道府県で研修を実施したと回答しているが、現場レベルでの保健所を対象とした調査では27.6%と大きな隔たりがある。都道府県母子感染対策協議会の活性化の意味も含めて、研究班主催で都道府県(都道府県母子感染対策推進協議会)を通じての研修会などの検討が必要と考えられる。
結論
短期授乳を選択したキャリア妊産婦のうち約4分の1が授乳支援を十分に受けられていないこと、また授乳支援を受けた短期授乳選択キャリア妊産婦は全例3か月以下での完全人工乳移行に成功しており、授乳支援の有効性が示唆された。キャリア妊産婦の約半数が完全人工乳を選択するという意向であり、キャリア妊産婦に対して感染予防対策をきちんと説明する必要があるとともに40%のキャリア妊産婦は短期授乳を選択したいと考えており、希望するキャリア妊産婦に適切な授乳支援体制を提供することの必要性も示された。今年度の鹿児島県の事例検討により基礎的なデータが収集され、次年度完全人工乳移行マニュアルの作成の準備が整った。東京プログラムの運用を開始し、今後拠点化体制の課題などを検討していく予定である。HTLV-1母子感染予防の研修体制について都道府県の研修実施についての認識と保健所レベルでの認識にずれがあり、標準的な研修体制の構築の必要性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2024-09-03
更新日
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