新生児食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)の疾患概念確立、実態把握、診断治療指針作成に関する研究

文献情報

文献番号
200936154A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)の疾患概念確立、実態把握、診断治療指針作成に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-099
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
野村 伊知郎(国立成育医療センター 第一専門診療部アレルギー科)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 健治(成育医療研究センター 免疫アレルギー研究部)
  • 新井 勝大(国立成育医療センター 消化器科)
  • 伊藤 裕司(国立成育医療センター 新生児科)
  • 下条 直樹(千葉大学 小児科)
  • 大塚 宜一(順天堂大学 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)は1995年頃から急激に報告数が増加してきた。診断が難しいことも多く、重い合併症を残すことがある。実態に関してはェ多く、発症率、診断検査法、病態などほとんど明らかになっていない。これを解決するために、(1)発症率を調査し、(2)疾患コホート研究を行って実態を把握する。(3)簡明な診断治療指針を作成し、インターネットで広く医学情報を□Jする。(4)診断検査法を開発する。(5)リンパ球刺激試験をrefineし、抗原検索の有用な手段にする。(6)病態解明のための消化管組織検査を行う、などを計画した。
以下、この(1)から(6)の項目に従って記載する。
研究方法
(1)東京都のすべての産科、小児科、総合病院にアンケート送付し発症率調査を行った。
(2)230名の患者について、症状、検査所見などを解析した。
(3)年に2回の班会議を通じて、診断治療指針の改良を繰り返した。
(4)末梢血好酸球数、便Eosinophil-Derived Neurotoxin (EDN)、血清サイトカインを、患者と対照者で測定し、比較した(case-control study)。
(5)リンパ球刺激試験は、抗原のLPSの混入を測定し、除去を行った後、患者及び対照者で測定した(case-control study)。
(6)新生児用のファイバー検査の設備を整え、N-FPIES患者、対照児で腸粘膜を採取し、RNAを抽出、マイクロアレイ研究を行った。
結果と考察
(1)初めて一般人口を対象とした発症率0.21%が得られた。
(2)大きく分けて4つのサブグループに分類されることが判明した。
(3)これまでに蓄積されてきた事実に基づいて診断治療指針を改定した
(4)末梢血好酸球は対照者の平均値+3SDをカットオフラインとすると、尤度比10以上と診断的価値の高さを示す結果を得た。便EDNの測定は、1万ng/g 便をカットオフポイントとすると、これも尤度比28.7と高い診断的価値を示した。サイトカインの結果も興味深いものであった。
(5)疾患サブタイプにより陽性率が大きく異なっていた。
(6)着々と組織が集められ、マイクロアレイ解析が開始できた。
結論
研究の結果、N-FPIESの実態が徐々に明らかになりつつある。医学情報のインターネットによる公開などにより、全国で最善の診断治療が実施され、診断検査法の開発、病態の解明も進んでおり、今後もこれを継続してより正確な診断治療が行える環境を整え、後遺症に苦しむ患者、保護者を一人でも減らしたいと願っている。

公開日・更新日

公開日
2010-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936154C

成果

専門的・学術的観点からの成果
はじめて一般人口での発症率調査を行い、0.21%の結果を得た。また、230名の研究班に登録された患者の症状検査所見を解析し、大きく4つのグループに分かれること、多くの児で胎内感作が疑われること、低出生体重、外科手術などがリスクファクターとなることなどが判明した。
検査診断法の開発を行い、便Eosinophil-Derived Neurotoxinの高値、リンパ球刺激試験、病理組織検査の有用性などが明らかになりつつあり、日本アレルギー学会、米国喘息アレルギー免疫学会などで発表され、注目された。
臨床的観点からの成果
初発時の診断は通常の検査のみでは困難であるため、外科的疾患、感染症など、ある程度鑑別を終えたら、速やかに治療乳へ変更し、症状改善を先ず確保すること、体重増加が得られた後に、負荷テストで確定診断する方法(http://www.nch.go.jp/imal/FPIES/icho/index.htmlホームページ上の診断治療指針に明確に記載)が浸透しつつあり、重大な合併症は減少傾向にあると考えている。予後についてもある程度解明できたことから、保護者も見通しを持って治療にあたれるようになった。
ガイドライン等の開発
年に2回行われている班会議(新生児乳児アレルギー疾患研究会と合同)にて診断治療指針を開発し、改定を行っている。また、インターネットホームページ上に無償公開している。
小児アレルギー学会、食物アレルギーガイドライン委員会にてこの診断治療指針を提出し、これを参考に、相談しながらガイドラインのN-FPIESにあたる項目を作成中である。

その他行政的観点からの成果
診断検査開発の中でも、便EDN検査については、論文発表を行ったあとで、保険収載を目指している。全国で、早期診断に寄与するものと思われる。
研究班本部はN-FPIESに関する情報センターの役割を持ち、全国から診断治療についての相談を受け付けている。また、研究協力医師たちは、地域において相談を受けており、地域の情報センターとして活躍している。
その他のインパクト
N-FPIESの概要と当研究班の活動内容は、2010年2月10日の毎日新聞に掲載された。
班会議のホームページは常に多くのアクセスを受けており、診断治療、啓発に一定の役割を果たしている。
医師への講演は多数行ったが、特に日本小児アレルギー学会のN-FPIESに関するシンポジウムでは、研究代表者が座長をつとめ、600名の会員の参加を得て、熱のこもった討論が行われた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
インターネットホームページに診断治療指針を無償公開している。 診断治療に関する相談受付、情報センターとしての役割を持つ。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
野村伊知郎
新たな疾患・病態の概念 新生児-乳児消化管アレルギー
小児科診療 , 72 (7) , 1225-1236  (2009)
原著論文2
野村伊知郎
Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome (FPIES), 臨床、病態のまとめと診断治療指針作成
小児アレルギー学会雑誌 , 23 (1) , 34-47  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-