気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究

文献情報

文献番号
202326001A
報告書区分
総括
研究課題名
気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21LA1004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 修(東北大学 大学院工学研究科 )
  • 柳橋 泰生(福岡大学 工学部)
  • 藤本 尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 高梨 啓和(鹿児島大学 大学院理工学研究科)
  • 下ヶ橋 雅樹(叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部)
  • 越後 信哉(京都大学 大学院地球環境学堂)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 清水 和哉(東洋大学 生命科学部)
  • 浅田 安廣(京都大学 大学院工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,719,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 浅田安廣 国立保健医療科学院(令和3年4月1日~令和5年9月30日) → 所属機関名(令和5年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究」 に資する成果を得ることを目指し、気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャル評価と将来発生予測モデルの構築、障害生物発生時における分析方法の開発と効率的な浄水処理システムの提案、気候変動により生じる生物障害等リスクに対する対応策の検討に関連する研究を実施した。
研究方法
WHO飲料水水質ガイドラインの更新に伴い、シアノトキシンの水道水源での実態調査を行った。複数のカビ臭原因物質産生藻類株を用いてカビ臭合成酵素遺伝子による系統の違いとカビ臭産生能、増殖に及ぼす窒素制限、温度、光強度等の影響について検討を行った。気候変動条件下での藻類の発生予測モデルについて検討を行った。生ぐさ臭の機器分析による水質管理を可能とするために、 原因物質の構造を検討した。精密質量分析による藻類由来有機物の検知手法について、培養したラフィド藻類の有機物試料、ラフィド藻類が発生した水試料を用いて検討した。気候変動により生じる生物障害等リスクに対する対応策をまとめるために、水道事業体へのヒアリングやアンケート調査を実施した。
結果と考察
日本の水道原水でのシアノトキシンの存在が確認された。様々な環境条件の変化に対して藻類の応答が種あるいは株ごとに異なることを示した。続いて、気候変動に関連する環境条件である温度条件、光強度また、日長が与えるカビ臭物質産生への影響について解析した結果、増殖に関わる環境因子として水温、日長の影響が重要であることを見いだした。藻類発生予測モデルを構築し、気温が4度上昇するシナリオで、平均障害生物濃度が増加する結果が得られ、気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャルが定量的に評価された。量子化学計算と高分解能GC-MSを用いて水道水生ぐさ臭原因物質の構造を明らかにした。精密質量分析によるDOMの精密質量スペクトルの差異解析により、ラフィド藻類由来有機物の検知を試み、大気圧化学イオン化法(APCI)の使用、試料前処理との組み合わせにより、低濃度の藻類の存在を検知できる可能性を示した。ダムの放流量と下流の取水場における原水濁度の関係を明らかにした。原水濁度、カビ臭物質濃度の上昇への対処法として高塩基度PAC、高機能粉末活性炭注入が有効であることを示した。アンケート調査で、濁度監視の重要管理点、高濁度に対する処理の強化内容、水安全計画に基づく対応の実行状況について明らかにした。
結論
気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャル評価により、気候変動にともなう水温上昇は、カビ臭被害の広域化や深刻化を引き起こす可能性があることが示された。日本の水道原水でのシアノトキシンの存在が確認された。構築した藻類発生予測モデルとその手順により、将来的な藻類異常発生リスクの定量的な評価及びダム湖間の比較が可能となった。 水道水生ぐさ臭の原因物質構造が明らかとなり、水道水生ぐさ臭の原因として3物質の混合臭の可能性を指摘した。精密質量スペクトルの差異解析を用いた藻類由来有機物の検知方法を示した。環境水中でも藻類増殖に由来する有機物を分別可能であることを示した。気候変動と濁度、カビ臭に関する関係とその対応策について示した。アンケート調査で、濁度監視の重要管理点、高濁度に対する処理の強化内容、水安全計画に基づく対応の実行状況について明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202326001B
報告書区分
総合
研究課題名
気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21LA1004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 修(東北大学 大学院工学研究科 )
  • 柳橋 泰生(福岡大学 工学部)
  • 藤本 尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 高梨 啓和(鹿児島大学 大学院理工学研究科)
  • 下ヶ橋 雅樹(叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部)
  • 越後 信哉(京都大学 大学院地球環境学堂)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 清水 和哉(東洋大学 生命科学部)
  • 浅田 安廣(京都大学 大学院工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の目的:本研究では「気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究」 に資する成果を得ることを目指し、①気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャル評価と将来発生予測モデルの構築、②障害生物発生時における分析方法の開発と効率的な浄水処理システムの提案、③気候変動により生じる生物障害等リスクに対する対応策の検討に関連する研究を実施した。
研究方法
気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャル評価について、気候変動による環境条件の変化の中で、影響が大きいと想定される温度条件を中心に、増殖能に関連する栄養塩濃度、マグネシウムイオン濃度、光強度、日長、共生微生物の影響について評価を行った。次に、WHO飲料水水質ガイドラインの更新に伴い、日本全国の21水源について、シアノトキシン存在実態調査を行った。最後に、障害生物の将来発生予測モデルを構築するために、使用するデータ、モデルの検証を行い、最後に気候変動による障害生物の発生予測を行った。生ぐさ臭の機器分析による水質管理を可能とするために、量子化学計算と高分解能GC/MSを用いて水道水生ぐさ臭原因物質の構造を推定した。またGC-MSを用いて分析する際の条件を検討した。藻類異常発生の検知技術を構築するために、精密質量分析による藻類由来有機物の検知方法について検討した。効率的な浄水処理システムの提案として、粉末活性炭処理によるカビ臭原因物質の効率的除去について検討した。海外での気候変動により生じるリスクに対する対応について海外の書籍を翻訳した。全国の水道事業を対象に、水安全計画の運用、豪雨による高濁度発生時の対応に関するアンケート調査を行った。水道事業体の現場で実施している気候変動適応策についてヒアリング調査、データ解析により検証を行った。最後に「気候変動適応策ガイドライン」を作成した。
結果と考察
様々な環境条件の変化に対して藻類の応答が種あるいは株ごとに異なることを示した。カビ臭物質合成遺伝子によるカビ臭産生藻類を簡易同定可能な定量PCR系を構築した。日本の水道原水でのシアノトキシンの存在が確認された。藻類発生予測モデルを構築し、気候変動による将来的な藻類異常発生リスクを定量的に評価した。量子化学計算と高分解能GC-MSを用いて水道水生ぐさ臭原因物質の構造を明らかにし、GC-MSを用いて分析する条件を確立した。精密質量分析による藻類由来有機物の検知方法では、大気圧化学イオン化法(APCI)の使用、試料前処理との組み合わせにより、低濃度の藻類の存在を検知できる可能性を示した。効率的な浄水処理システムの提案として、前処理による吸着競合影響の低減効果、粉末活性炭処理に対する吸着競合を評価可能な指標、通常炭と高機能炭の混合注入条件の一例を示した。水安全計画、気候変動に関連する2つの書籍を翻訳した。アンケート調査では、濁度監視の重要管理点、高濁度に対する処理の強化内容、水安全計画に基づく対応の実行状況について明らかにした。河川水位等の長期的変動と気候変動の関係、水道の原水におけるジェオスミン、2-MIB濃度と河川水位、河床高の変化の影響、ダムの放流量と下流の取水場における原水濁度の関係を明らかにした。原水濁度、カビ臭物質濃度の上昇への対処法として高塩基度PAC、高機能粉末活性炭注入が有効であることを示した。
結論
気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャル評価により、気候変動にともなう水温上昇は、カビ臭被害の広域化や深刻化を引き起こす可能性があることが示された。カビ臭発生監視手法としてカビ臭物質合成遺伝子を用いた簡易同定可能な定量PCR系の有用性を示した。日本の水道原水でのシアノトキシンの存在実態を明らかにした。構築した藻類発生予測モデルとその手順により、将来的な藻類異常発生リスクの定量的な評価及びダム湖間の比較が可能となった。水道水生ぐさ臭の原因として3物質の混合臭の可能性を指摘し、同時にGC-MSを用いて分析する条件を確立した。精密質量分析による藻類由来有機物の検知方法を示した。効率的な浄水処理システムの提案として、前処理方法、吸着競合の評価指標、通常炭と高機能炭の混合注入条件の一例を示した。水安全計画、気候変動に関連する2つの書籍を翻訳した。アンケート調査では、濁度監視の重要管理点、高濁度に対する処理の強化内容、水安全計画に基づく対応の実行状況について明らかにした。気候変動と濁度、カビ臭に関する関係とその対応策について示した。

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202326001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国水道水源で発生するカビ臭原因物質産生藍藻類の簡易同定・定量法を開発し、カビ臭発生水源での原因調査を行い、水道事業体に情報提供を行った。藻類発生モデルの構築により気候変動による障害生物発生リスクを定量的に評価可能となった。更に異臭味の一つである生ぐさ臭の原因物質を特定した。これは、分析方法、要検討項目の基準項目の設定に向けた成果となっている。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
地方自治体が活用可能な気候変動適応策ガイドラインを作成した。気候変動適応策に関する内容について厚生労働省水道課が主催した令和5年10月11日開催の「水道の諸課題に係る有識者検討会」で情報提供を行った。WHO飲料水水質ガイドラインの改訂に伴い、シアノトキシンに関するガイドラインの変更、実態調査等について厚生労働省水道課が主催した令和4年12月21日、令和5年12月8日開催の「水道における微生物問題検討会」で情報提供を行った。
その他行政的観点からの成果
気候変動適応法に基づく第3次気候変動影響評価報告書を策定することを目的に設置された令和5年度環境省気候変動影響に関するワーキンググループ(水環境・水資源分野)参画し、研究成果が科学的知見として活用された。
令和5年度和光市環境審議会(研究代表者が会長として参画)の諮問事項「環境基本計画における評価対象事業の見直しについて」の基礎資料として活用された。
その他のインパクト
「水安全計画の監査に関する実践ガイド」、「気候に対してレジリエントな水安全計画:気候の変動と変化にともなう健康リスクの管理」を出版し、国立保健医療科学院ならびにWHOのHPに掲載した。和光市ジュニアSDGsセミナー(令和6年2月3日開催)にて、研究成果を基礎資料とした「水道と地球温暖化対策」に関するポスターを展示し、説明を行った。国立環境研究所気候変動適応センター気候変動適応研修会(中級コース)、日本水道協会水道技術管理者研修会等にて、研究成果を活用した資料に基づき講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
審議会での議論2件、ガイドライン作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
12件
シンポジウム1件、講演8件、セミナー1件、ホームページ(書籍PDFを掲載)2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shinfuku Y, Takanashi H, Akiba M et al
The Status Quo of Causal Substance Exploration for Fishy Odor in Raw Water for Taps
Journal of Water and Environment Technology , 20 (2) , 29-44  (2022)
原著論文2
Shen Q, Akiba M, Shimizu K et al
Temperature affects growth, geosmin/2-methylisoborneol production, and gene expression in two cyanobacterial species
Environmental Science and Pollution Research , 29 (8) , 12017-12026  (2022)
原著論文3
Asada Y, Hayasaka S, Miyoshi T et al
Effects of raw water quality on adsorptive removal of 2-methylisoborneol by powdered activated carbon under non-equilibrium conditions
AQUA - Water Infrastructure, Ecosystems and Society , 72 (6) , 1084-1095  (2023)
原著論文4
Zhang J, Akiba M, Shimizu K et al.
Development of a Quantification and Detection Method for 2-MIB-producing Cyanobacteria
Turkish Journal of Fisheries and Aquatic Sciences , 23 (4)  (2023)
原著論文5
Miao H, Akiba M, Shimizu K et al
Development of Rapid PCR Methods for the Detection and Quantification of Geosmin‐Producing Dolichospermum spp.
Water, Air, & Soil Pollution , 233 (9)  (2023)
原著論文6
Miura Y, Nishimura O, Sano D et al
Prediction of algal bloom using a combination of sparse modeling and a machine learning algorithm: Automatic relevance determination and support vector machine
Ecological Informatics , 78  (2023)
原著論文7
矢野留実子,平健司,浅田安廣他
かび臭産生糸状藍藻類の遺伝子学的試験法の検討
水道協会雑誌 , 91 (3) , 2-12  (2022)
原著論文8
神里良太,浅田安廣,秋葉道宏他
粉末活性炭の短時間接触による2-メチルイソボルネオール除去に対する競合吸着有機物の特性評価
水道協会雑誌 , 91 (12) , 4-13  (2022)
原著論文9
藤本尚志, 浅田安廣,秋葉道宏他
藍藻類単離株および水道水源試料のカビ臭原因物質合成酵素遺伝子の解析
水道協会雑誌 , 92 (10) , 4-15  (2023)
原著論文10
早坂俊一, 三好太郎, 浅田安廣他
2-メチルイソボルネオール除去に対する複数種の粉末活性炭混合注入がもたらす効果
水道協会雑誌 , 92 (12) , 4-13  (2023)
原著論文11
浅田安廣,神里良太,三好太郎他
非平衡条件下における粉末活性炭による2-メチルイソボルネオール除去に対してMicrocystis aeruginosa産生有機物が及ぼす競合影響
土木学会論文集 , 79 (25)  (2023)

公開日・更新日

公開日
2024-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
202326001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,719,000円
(2)補助金確定額
8,702,000円
差引額 [(1)-(2)]
17,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,503,854円
人件費・謝金 399,922円
旅費 2,060,562円
その他 1,737,795円
間接経費 0円
合計 8,702,133円

備考

備考
自己資金133円

公開日・更新日

公開日
2024-10-24
更新日
-