AI支援型MPSを用いたヒトiPS由来神経細胞による神経毒性試験法の開発

文献情報

文献番号
202325006A
報告書区分
総括
研究課題名
AI支援型MPSを用いたヒトiPS由来神経細胞による神経毒性試験法の開発
課題番号
22KD1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
安彦 行人(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 松永 民秀(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 臨床薬学分野)
  • 加藤 竜司(名古屋大学 大学院創薬科学研究科)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
  • 吉成 浩一(東北大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
23,477,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、化学物質の発達神経毒性はげっ歯類を用いた行動試験により評価されているが、ヒトへの外挿性や予測性に課題がある。動物試験における3Rsの観点からも、ヒト生体に近い細胞や標本を用いたin vitro評価系や、コンピューターを活用したin silico予測手法の開発が望まれる。本研究はヒトiPS細胞由来の神経細胞及び血液脳関門(BBB)を用いたin vitro評価法の開発、in vitroとin silico手法の統合による新たな発達神経毒性予評価法の開発を目的とする。
研究方法
ヒトiPS細胞由来神経細胞のネットワーク活動の化学物質に対する反応を多点電極アレイ(MEA)システムにより測定し、得られたデータを用いて主成分分析及びAIモデルによる毒性予測技術を検討した。ヒトiPS細胞由来神経細胞のMEAデータの再現性の問題点を改善するため、AI画像解析による細胞状態のモニタリング手法開発を進めた。またヒトiPS細胞由来BBBについて、国衛研と名市大において経内皮電気抵抗(TEER)測定による機能確認のプレバリデーションを実施した。
In silico毒性予測手法として、発達神経毒性に関する総説(Mundy et al., Neurotoxicol Teratol, 52:25-35, 2015)に記載された361の化学物質について、構造記述子により物質相互の構造類似度を計算し、リードアクロスによる毒性予測を検討した。特に、比較する物質数や、類似度の計算に用いる構造記述子の選択基準について検討を行った。
化学構造に基づくin silico神経毒性予測において予測性が低かった有機リン剤について、MEAによりヒトiPS細胞由来神経細胞への影響を解析した。発達神経毒性のメカニズムが明らかでない物質としてフッ化ナトリウム、過塩素酸アンモニウムに着目してラット発達期ばく露を行い、児動物脳の海馬歯状回の組織及び遺伝子発現を解析した。
結果と考察
MEAパラメータを用いた主成分分析及びAIモデルにより、神経毒性判定の閾値設定を行うことができた。これにより今後、さらに多くの化合物のMEAデータやin vitroデータを取り込むことで、精度の高い毒性予測手法の開発が期待される。AI画像解析による細胞状態のモニタリング手法開発を進め、細胞画像から自動的に画像特徴量を抽出するプログラムを作成して、MEAデータと相関の高い画像特徴量を見出した。これによりin vitro評価系の再現性向上に資することが期待される。ヒトiPS細胞由来脳オルガノイドのMEA計測プロトコル開発を進め、良好なネットワーク活動検出が行えることを確認した。これにより今後、薬剤投与に適切なタイムウィンドウ等、毒性評価プロトコルの確立が期待される。ヒトiPS細胞由来BBBと神経細胞の共培養へ向け、BBBのバリア機能を良好に保つことができる培地の候補を見出した。これにより今後、BBBのキネティクスを反映したin vitro評価系の樹立に繋がると期待される。
化学構造式からコンピューターを用いて発達神経毒性を予測する手法として、構造記述子により化学構造の類似した物質の毒性予測を行うリードアクロス手法を開発した。比較する物質数や類似度に適切な閾値を設けることで、神経毒性予測性を向上させられることが示唆された。予測性の低い化学物質に共通する構造上の特徴について検討し、偽陰性となる物質は低分子量で構造が単純である傾向、偽陽性となる物質は高分子量で構造が複雑である傾向を見出した。また開発に用いたデータベース上で、有機リン剤など一部のグループについて発達神経毒性に関する文献報告が不足していることも示唆された。今後、毒性情報の追加やin vitro試験との統合を進めることで、予測性の向上が期待される。
毒性メカニズムが明らかでない発達神経毒性物質として、フッ化ナトリウム、過塩素酸アンモニウムに着目してラット発達期ばく露を行い、両物質ともに海馬歯状回における神経新生を阻害することが示された。またそのメカニズムを解析した結果、フッ化ナトリウムは神経前駆細胞の数を減少させ、過塩素酸アンモニウムは甲状腺機能低下を介して神経新生、オリゴデンドロサイト新生を阻害していることを見出した。これにより今後、こうした作用を検出するin vitro評価系を開発することで発達神経毒性予測精度が向上することが示唆された。
結論
AIを用いた細胞画像評価及びMEAデータ解析、また脳オルガノイドのMEA測定プロトコル開発やBBBのプレバリデーションにより、in vitro神経毒性評価の技術基盤を構築できた。今後、in vitro試験データ・in silico予測を統合的に活用することにより、発達神経毒性の予測性が向上することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

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収支報告書

文献番号
202325006Z