文献情報
文献番号
202325003A
報告書区分
総括
研究課題名
甲状腺に対する化学物質の影響を評価する手法の研究
課題番号
21KD1003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・病理部)
研究分担者(所属機関)
- 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
- 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
- 赤根 弘敏(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
12,762,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌攪乱物質のヒト健康への影響は広く検討されているが、化学物質による抗甲状腺作用の評価方法については、いまだコンセンサスが得られていない。本研究では、国際機関および諸外国等における、甲状腺ホルモン攪乱化学物質の判定に利用可能な評価手法ならびに評価実績の情報収集を実施するとともに、ラット組織を用いた病理組織学的・免疫組織化学的検索による、化学物質の甲状腺影響のin vivo評価法確立を目指す。
研究方法
6週齢のSDラットに対し、種々の抗甲状腺物質を複数用量で28日間反復経口投与した。各種内分泌器官の臓器重量および血清ホルモン値を測定し、甲状腺・下垂体等について、病理組織学的・免疫組織化学的・分子生物学的検索を実施した。これらの中から、抗甲状腺作用の検出において最も鋭敏あるいは機序の推定に有用なパラメータの組み合わせを検索した。また、甲状腺機能阻害物質投与時の遺伝子発現変化を検討し新規バイオマーカーとしての応用を目的とし、甲状腺および下垂体を用いて、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を実施した。さらに、研究期間を通じて、諸外国・国際機関における甲状腺機能評価に関する情報を収集した。
結果と考察
OECDガイドラインおよび化審法に規定される齧歯類を用いた28日間反復経口投与試験に準じて、甲状腺ペルオキシダーゼ阻害等、7種類の機序に基づく計11種の抗甲状腺物質をラットに複数用量で投与し、臓器重量測定および病理組織学的・免疫組織化学的検索を実施し、血清ホルモン値との比較を行った。最も重要な結果として、病理組織学的解析における甲状腺濾胞上皮細胞の肥大が、多くの被験物質において血清中の甲状腺関連ホルモン値の有意な変動がみられた用量よりも、さらに低い用量から統計学的有意差をもって認められた。また、マイクロアレイ解析によって見出されたナトリウム/ヨウ素共輸送体(NIS)の免疫染色に加え、肝重量および肝UGT1A6発現は、抗甲状腺作用の機序推定に利用し得る可能性が示唆された。
結論
令和5年度までの結果から、抗甲状腺物質の検出において、ラット28日間反復経口投与試験から得られた甲状腺の病理組織学的検索が、血中ホルモン値測定よりも鋭敏な指標となり得ることが示された。また、甲状腺重量、下垂体TSHおよび甲状腺Ki67の免疫染色も、血中ホルモン値と概ね同等の感度を示し、抗甲状腺物質の評価に有用と考えられた。ヒトへの外挿性を考慮する上で特に重要な、甲状腺への直接影響かあるいは肝臓での代謝を介した間接的な影響かを区別するために、甲状腺のT3・T4免疫染色、肝臓における病理検査およびUGT1A6免疫染色を利用し得る。これまでの甲状腺・下垂体を用いた網羅的遺伝子発現解析により見出されたNISは、ヨウ素取込み阻害と脱ヨウ素酵素阻害作用の鑑別に利用し得る。国際的には、OECDおよびICCVAM/EPAを中心とした専門家会議において、抗甲状腺物質のin vitro評価系開発が進んでいるものの、実用化には多くの課題が残されており、既存の試験に組込みが可能なin vivo評価手法の確立が引き続き重要であることが確認された。
公開日・更新日
公開日
2024-10-03
更新日
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