ADH分泌異常症(尿崩症)を呈するリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断マーカーの開発に向けた患者検体の収集

文献情報

文献番号
200936126A
報告書区分
総括
研究課題名
ADH分泌異常症(尿崩症)を呈するリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断マーカーの開発に向けた患者検体の収集
課題番号
H21-難治・一般-071
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大磯 ユタカ(名古屋大学 大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 三衛(自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科)
  • 椙村益久(名古屋大学医学部附属病院糖尿病内分泌内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性疾患克服研究事業特定疾患調査研究分野の対象疾患であるADH(バゾプレシン) 分泌異常症の中でもバゾプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)を呈するリンパ球性漏斗下垂体後葉炎は自己免疫性の慢性炎症性疾患と考えられているが、疾患特異的な自己抗原、自己抗体は未だ同定されておらず、病態も十分に解析されていない。診断が困難で誤診によって患者が極めて不利益を被ることがあり、診断に有用な非侵襲的な検査方法の開発が強く望まれている。本研究の目的はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎患者血清検体の収集及び品質管理が厳格に実施されることにより共同研究を加速し、血清を用いた非侵襲的な診断マーカーの開発に資することである。
研究方法
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎患者の血清検体収集については、名古屋大学医学部では倫理委員会の承認を得ていたが、他の自治医科大学附属さいたま医療センター、および関連病院、研究協力施設において倫理委員会から承認を得て生体試料収集を施行した。診断マーカーの開発については、従来のウェスタンブロッティング法を用いた検討の他、より高感度で網羅的にハイスループットな同定が可能なプロテオーム解析について検討した。
結果と考察
生検を施行されリンパ球性漏斗下垂体後葉炎と確定診断された患者は1名、および疑いと診断された患者は9名であった。全症例の血清検体を名古屋大学に収集し、説明書、同意書の保管などとともに品質管理した。ウェスタンブロッティング法を用いた結果、過去報告されていない患者特異性が高い下垂体後葉由来と考えられる約95kD蛋白のバンドが認められた。また、プロテオーム解析について検討し、自己抗体を用いた免疫沈降-ショットガンLC-MS/MS法を開発し、複数のリンパ球性下垂体炎後葉炎患者で認められ健常者で認められない新規病因自己抗原蛋白候補をいくつか同定した。
結論
本研究によりリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の血清を収集管理することができた。収集された血清検体を用い、従来報告されていない自己抗体を用いた免疫沈降-ショットガン LC-MS/MS法を開発し、この新たなプロテオーム解析の手法により疾患特異的下垂体自己抗原候補が同定し、診断マーカーの開発を推進することができた。今後、自己抗原候補の中から有効な診断マーカー、また病態を反映するようなバイオマーカーを開発するためには、臨床検体を収集し大規模な検証が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936126C

成果

専門的・学術的観点からの成果
診断マーカーの開発については、ウェスタンブロッティング法を用いた検討の結果、過去報告されていない下垂体後葉由来と考えられる約95kD蛋白のバンドが患者特異性が高く新規診断マーカーの候補であると考えられた。また、ウェスタンブロッティング法より高感度で網羅的にハイスループットな同定が可能なプロテオーム解析について検討し、自己抗体を用いた免疫沈降-ショットガンLC-MS/MS法を開発することができた。
臨床的観点からの成果
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎患者の血清検体収集については、名古屋大学医学部においては倫理委
員会の承認を得ていたが、他の自治医科大学附属さいたま医療センター、および関連病院、研究協
力施設において倫理委員会から承認を得て生体試料収集を施行し本研究をすすめることができた。また各施設に症例についての情報を調査依頼し全施設から返答を得た。全症例の血清検体を名古屋大学に収集し、説明書、同意書の保管などとともに品質管理した。
ガイドライン等の開発
我々が開発した自己抗体を用いた免疫沈降-ショットガンLC-MS/MS法によって複数のリンパ球性下垂体炎後葉炎患者で認められ健常者で認められない新規病因自己抗原蛋白候補をいくつか同定しており、今後、自己抗原候補の中から感度、特異性ともに優れた有効な診断マーカー、また病態を反映するようなバイオマーカーを開発するため、より多くの臨床検体を収集し検証を行っていく予定である。
その他行政的観点からの成果
本研究によって、ADH(バゾプレシン) 分泌異常症の中でもリンパ球性漏斗下垂体後葉炎症例は希少であることが確認され、特に生検が施行され確定診断された症例が極めて少ないことが判明した。しかしながら厚生労働省難治性疾患克服研究事業の臨床調査研究分野で本研究と関連する間脳下垂体機能障害調査研究班と連携を図り試料を収集した。患者数が少ないため研究の進みにくいバゾプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)を呈するリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の血清検体の収集、管理を推進することができた。
その他のインパクト
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の疾患特異的自己抗原の同定によって本疾患のみならず、原因不明である特発性バゾプレシン分泌低下による中枢性尿崩症の分子学的病態解明にも貢献できると考えられた。本研究の結果開発された診断マーカーの新技術が将来保険適用される可能性も十分考えられ、本研究の成果が臨床現場で応用されることによって非侵襲的な診断が可能になり、誤診の危険が低下し適切な治療を受けられるようになり、患者のQOL、国民の保健・医療の向上に大きく貢献できる可能性があると考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-