薬局からの薬剤配送における薬剤の品質保持及び患者への確実な授与を担保する方法の確立に向けた調査研究

文献情報

文献番号
202324015A
報告書区分
総括
研究課題名
薬局からの薬剤配送における薬剤の品質保持及び患者への確実な授与を担保する方法の確立に向けた調査研究
課題番号
23KC1003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
林 秀樹(岐阜薬科大学 実践薬学大講座 地域医療実践薬学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 昭夫(岐阜大学医学部附属病院 薬剤部)
  • 山本 佳久(帝京平成大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 新型コロナウイルス感染症の影響によるオンライン服薬指導の普及や、医薬品の供給不安定などにより、薬局から患者宅への医薬品配送の需要が増している。しかし、医薬品配送時の患者への確実な授与や、配送時の医薬品の品質確保などの実態に関して不明な点が多い。
 医薬品は品質確保が重要であり、製造から消費者が使用するまでの全過程において品質管理が必要である。製薬会社および医薬品卸各社は、医薬品の物流に関する基準(Good Distribution Practice: GDP)等により厳格に管理している。しかし、薬局から患者宅に配送される機会が増加する中で、この段階の輸送環境が医薬品に影響を与えることも考えられるが、その実態は不明な点が多い。
 本研究では、患者宅への医薬品配送の実態を解明し、関連する諸問題に対する対策を見出すことを目的とした。さらに、実際の患者宅への配送時の温度や湿度を想定し、混合調製した軟膏剤について、温度と相分離との関係性について検証した。また、輸送条件の違いによる錠剤の崩壊時間への影響を比較検討した。
研究方法
1. 岐阜県内の全保険薬局(以下、保険薬局)1035店舗、日本チェーンドラッグストア協会及び日本保険薬局協会に所属する企業(以下、薬局事業者)464社、日本物流団体連合会に所属する企業(以下、物流事業者)95社に対して医薬品の配送に関するアンケート調査を実施し、FAXまたはインターネットで回答を収集した。
2.薬袋に温湿度を経時的に記録できるボタン型超小型データロガーと医薬品を入れ、定形外郵便、レターパックプラス、宅配便、冷蔵タイプ宅配便(以下、クール便)の4種類の配送方法で、岐阜市より北海道、千葉県、愛知県、岐阜県、三重県、愛媛県、鹿児島県の7地点に、2023年度の夏季と冬季に各2回発送し、受け取りまでの温度および湿度を5分間隔で計測した。
3.(1)軟膏製剤の混合物を調製し、25℃、30℃、35℃および40℃に設定したインキュベータ内に保管し、性状変化の有無を観察した。(2)①PTP包装下およびPTPから取り出して分包紙1包につき1錠を分包したMgO錠330 mg、5製剤を室温下および吸湿環境下(40℃、75%RH)で設定期間(3d、7d、14dおよび28d)保存した。② ①で保存したMgO錠の崩壊時間を測定した。③ ①の条件で保存した錠剤に対し、拡散反射法によるNIR測定を実施した。
結果と考察
 岐阜県内の全ての保険薬局および国内の薬局運営会社に医薬品配送の実態調査を実施したところ、手順書が作成されていなかったり、患者への確実な授与の確認がされていないことが判明した。また、国内の物流事業者に対して、医薬品配送の実態調査を実施したところ、手順書が作成されていなかったり、患者への確実な授与の確認がされていないことが判明した。
 患者宅への医薬品配送において使用されることが多い輸送手段を用いて、輸送中の温度・湿度を実測したところ、殆どの輸送手段において、日本薬局方が定める室温(1~30℃)を逸脱することが判明した。特に、患者宅の郵便受箱に医薬品が放置されると、外気の影響を受けやすく、配送事業者から直接手渡しされる輸送手段を選択することが望ましいことが明らかとなった。
 クール便についても、冷所の定義である1~15℃を逸脱していることが明らかとなった。インスリンのような一部の医薬品では、保管温度が2~8℃と狭い範囲で規定されており、このような医薬品については、医薬品専用の輸送手段を用いなければ、保管温度の厳守は困難である。
 このような実態を反映した製剤試験を実施したところ、軟膏等の混合物は室温に近い条件でも速やかに分離する組み合わせの存在が明らかとなり、MgO錠について、製剤による差はあるものの、Mg(OH)2への変化に由来する崩壊時間の延長はPTPから取り出して分包し、吸湿環境下で保存した場合に強く発現することが明らかとなった。調剤薬の輸送時の温湿度管理は重要であることが示唆された。
 本研究により、薬局や物流事業者における医薬品配送の実態が明らかになった。医薬品配送に対して科学的エビデンスに基づく適切なガイドラインや指針を作成することで、患者宅への医薬品配送に関して薬局や企業が抱える懸念事項の解決に繋がることが期待できる。本研究において検討した結果を基に、薬局等から患者宅への医薬品配送における適切な品質管理や患者への確実な授与を担保するために活用できるチェックリストを考案した。
結論
 薬局等から患者宅への調剤薬配送において、明確な基準が存在せず、現状では輸送中の品質を十分に保証することが困難な状況もある。薬剤師は科学的エビデンスに基づいて適切に配送を実施することが重要である。今後、患者宅への医薬品輸送に特化した輸送サービスの構築も望まれる。

公開日・更新日

公開日
2024-08-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-08-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202324015C

収支報告書

文献番号
202324015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,300,000円
(2)補助金確定額
5,119,000円
差引額 [(1)-(2)]
181,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,347,990円
人件費・謝金 37,050円
旅費 564,360円
その他 869,600円
間接経費 300,000円
合計 5,119,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-08-16
更新日
-