本邦における家族性地中海熱の実態調査

文献情報

文献番号
200936093A
報告書区分
総括
研究課題名
本邦における家族性地中海熱の実態調査
課題番号
H21-難治・一般-038
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
右田 清志(独立行政法人 国立病院機構 長崎医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 好一(自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門 公衆衛生学)
  • 上松 一永(信州大学医学研究科感染防御学)
  • 古川 宏(独立行政法人 国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター)
  • 石橋 大海(独立行政法人 国立病院機構 長崎医療センター 臨床研究センター )
  • 安波 道郎(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 井田 弘明(長崎大学医学部第一内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
家族性地中海熱(FMF)は、発熱、関節痛など自己免疫疾患類似の症状がみられ、確定診断が遅れるケースも多い。本研究では、FMFの全国疫学調査を行い、日本における患者数、治療実態、予後に関する疫学調査を行う。さらに、患者QOL向上のために、これら集積した臨床情報を解析し、本邦独自の診断基準の作成、診断に有用なバイオマーカーの、早期確定診断法の確立を目的とした。
研究方法
①(臨床研究)本邦FMF症例の臨床像の解析、診断基準の作成
分担研究者の自験例、遺伝子診断依頼例、アンケート調査回答例、論文報告例など詳細な臨床情報が得られた症例をもとに、本症に特徴的な臨床症状、臨床所見を解析し本邦独自のFMF診断基準を作成する。

②家族性地中海熱の全国疫学調査
結果と考察
本研究班で行なった全国の国立病院を対象とした調査では、FMF症例 15名が抽出された。また、臨床、遺伝学的解析により不明熱症例の12.4%(193名中24名)にFMF確実例がふくまれていることを明らかにした。詳細な臨床所見が把握できた80例のFMF確定例で解析を行った結果、本邦例は、海外例と異なり、平均発症年令が17.3±10.7歳と高く、腹膜炎の頻度、アミロイドーシス合併頻度が低いことが判った。一方、発症から診断まで平均13年を要している点などの問題点も明らかになった。遺伝子解析結果では海外例との違いが明らかになった。本邦例では、MEFV遺伝子エクソン10の変異と、エクソン2変異の組み合わせ(複合ヘテロ接合体)の比率が多く、重症例にみられるM694V変異は本邦例では1例もないことが判った。
結論
全国の国立病院機構を対象とした1次調査では、FMF15名が抽出され、また不明熱症例(193名)の12.4%にFMF症例がふくまれていることを明らかにした。詳細な診療情報が得られた80名の解析結果より、本邦例の臨床像と国際診断基準を勘案し、本邦症例に則した診断基準を作成した。さらに一部の症例において、診断の遅れ、それに伴うQOLの低下が明らかとなった。これら研究成果より、FMF症例は日本国内に一定数存在し、海外症例と遺伝子変異型、病型が大きく異なり、診断の遅れが問題になっていることが判明した。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936093C

成果

専門的・学術的観点からの成果
不明熱症例149名の臨床症状、遺伝子解析結果を検討した結果、家族性地中海熱(FMF)確定例が10名(6.7%)含まれており、不明熱症例の中にFMFが一定数存在することを明らかにした。また本邦FMF症例では、MEFV遺伝子エクソン10の変異と、エクソン2の変異の複合ヘテロ接合体の比率が多く、重症例にみられるM694V変異は本邦例では見出されなかった。本邦例は、海外例と比較して、遺伝子変異型が大きく異なり、これら差異が本邦例の重症度の低さに関連していることが示唆された。
臨床的観点からの成果
FMFは、地中海沿岸の地域に多い遺伝性自己炎症疾患であるが、本邦でも報告例が増加している。本邦のFMF確定例90名の臨床像を解析した結果、平均発症年令は17.3±10.7歳、38℃以上の周期性発熱を98%に認め、胸膜炎61%、腹膜炎55%、関節炎28%に認めた。海外例との比較では、腹膜炎の比率が低く、重症例でみられるアミロイドーシスの合併頻度が少ないことが判った。また治療効果に関しては、約85%の症例で、コルヒチンが奏功していた。
ガイドライン等の開発
本邦症例の臨床像をふまえ以下の診断基準を作成した。
<必須項目>12時間から3日間続く38度以上の発熱を3回以上繰り返す
<補助項目>1.発熱時の随伴症状として、a非限局性の腹膜炎による腹痛、b胸膜炎による胸背部痛、c関節炎(股関節、膝関節、足関節)、d心膜炎、e精巣漿膜炎、f髄膜炎による頭痛(a-fのいずれかを伴う)
2.発熱時にCRPや血清アミロイドA(SAA)など炎症検査所見の著明な上昇を認めるが、発作間歇期にはこれらは消失する
3.コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する
その他行政的観点からの成果
FMFは遺伝性の難病の一つであり、そのQOLの改善のためには、本邦症例に則した診療指針の作成が必要である。FMFの病因は不明であるが、効果的な治療法は確立しており、早期診断、早期治療介入で、寛解導入が可能で、機能障害、後遺症を残すことなく、健常人の同等のQOLを確保できる。今回の調査で診断の遅れにより一部の症例で健康障害が生じていることが判明しており、本邦症例の臨床的特徴、標準的治療に対する反応性、予後を明らかにし、これら情報を医療現場へ公表し、標準的治療の普及を計る必要がある。
その他のインパクト
当研究班において、本邦のFMF症例の遺伝子変異の特徴(海外症例との違い)を初めて報告した。また本邦で、これまで存在しないと考えられていたM680I症例が存在すること、海外での報告がないE84K変異症例が一定数存在することを報告してきた。これら実績をもとに、全国二次調査から得られる遺伝子変異情報を集積し、これらゲノム情報のデータベースを構築する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-