疾病の診断基準等作成のための奨励研究:アトピー性脊髄炎診断基準の作成とそれに基づいた臨床疫学調査の実施

文献情報

文献番号
200936085A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病の診断基準等作成のための奨励研究:アトピー性脊髄炎診断基準の作成とそれに基づいた臨床疫学調査の実施
課題番号
H21-難治・一般-030
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(九州大学大学院医学研究院 脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 飛松 省三(九州大学大学院医学研究院 臨床神経生理学分野)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科)
  • 坂田 清美(岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学)
  • 谷脇 考恭(久留米大学医学部呼吸器・神経・膠原病内科)
  • 河村 信利(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー性脊髄炎はアトピー性疾患に伴う脊髄炎である。患者は脊髄障害による四肢の異常感覚(じんじん感)、筋力低下、感覚低下、歩行障害、腱反射異常、排尿障害などの症状により長期にわたり日常生活に重大な支障をきたし、一部では末梢神経障害を合併する難治性疾患である。アトピー性脊髄炎では早期に診断、治療されることが重要と考えられるが、現行におけるアトピー性脊髄炎の診断基準は臨床所見に基づくものしかなく十分とはいえない。本研究では、従来の診断基準でのアトピー性脊髄炎の臨床疫学調査結果の解析や免疫学的、神経生理学的な手法を用いた新規診断マーカーに関する検討を行い、より感度・特異度の高い新規のアトピー性脊髄炎診断基準を作成する。
研究方法
1) アトピー性脊髄炎・末梢神経炎の全国疫学調査結果の解析、2) 小児におけるアトピー性脊髄炎の全国疫学調査の実施、3) アトピー性脊髄炎の電気生理学的検査結果の解析、4) 新規アトピー性脊髄炎診断基準の作成および感度・特異度の検討、5) アトピー性脊髄炎の免疫学的マーカーに関する検討を行った。
結果と考察
研究成果として、1) アトピー性脊髄炎・末梢神経炎の全国疫学調査結果の解析により、アトピーに関連する神経障害は中枢神経のみならず末梢神経にも見られ、先行するアトピー性疾患により神経障害の分布、臨床症状に異なる特徴を有することが示唆された。2) 小児におけるアトピー性脊髄炎の全国疫学調査の実施により、小児のアトピー性脊髄炎では発症様式や初発症状、経過中の臨床症状が成人例と比べて若干異なる可能性が示唆された。3) アトピー性脊髄炎の電気生理学的検査結果の解析により、アトピー性脊髄炎の誘発電位検査における特徴は視覚誘発電位が正常、下肢の運動誘発電位が正常(特に潜時延長例が少ない)、上肢運動誘発電位で誘発不能例が多いことが明らかとなった。4) 新規アトピー性脊髄炎診断基準の作成および感度・特異度の検討においては、新規のアトピー性脊髄炎診断基準を作成した。その感度・特異度はそれぞれ80%以上であり、比較的高精度の診断基準を作成することに成功した。5) アトピー性脊髄炎の免疫学的マーカーに関する検討では、アトピー性脊髄炎患者の末梢血におけるTh9細胞の同定に成功し、アトピー性脊髄炎における血小板機能低下傾向がみられた。こられは新規の免疫学的マーカーとなる可能性が示唆されたが、診断基準に応用するためには多数例での検討が必要と考えられた。
結論
新規アトピー性脊髄炎の診断基準を作成した。今後は本診断基準を用いた国内外での共同臨床疫学調査の実施を目指す。

公開日・更新日

公開日
2010-06-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936085C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究によるアトピー性脊髄炎の日本での臨床疫学調査結果は米国の一流専門誌であるNeurology誌に掲載されるなど、極めて高い評価を得た。さらに、免疫学的なマーカーの検索として、本症患者髄液では特異的にIL-9とeotaxinが上昇していることを、Neurology誌に報告し、本症がヒトTh9 diseaseであることを世界で初めて提唱するなど、世界的にみても極めて特色ある研究を進めている。
臨床的観点からの成果
臨床の場において原因不明の脊髄炎を伴う患者は多く存在しており、その中にはアトピー性脊髄炎のようにアレルギー的機序による脊髄炎も含まれている可能性が考えられる。本研究班の活動によりアレルギーに伴う脊髄炎の存在が認識されつつあり、臨床上の重要な鑑別診断として考えられるようになりつつあることで本研究班の臨床における診断、治療に貢献している。また近年、欧州各国から同様な症例の報告があり、韓国からは多数例の報告があった。諸外国例も臨床病理学的に共通の特徴を示すことが明らかとなった。
ガイドライン等の開発
新規のアトピー性脊髄炎の診断基準を開発した。その精度に関しては重要な鑑別疾患である多発性硬化症との比較検討において、感度87%、特異度81%であった。今後は本診断基準の論文発表、ホームページなどでの公表を行う。また、新診断基準を用いて、海外を含めた臨床調査を行った後、ガイドラインなどの開発を行う。
その他行政的観点からの成果
新規のアトピー性脊髄炎の診断基準を開発し、今後、難病疾患である本疾患患者の把握などにおいて有用であったと考えられた。
その他のインパクト
本研究班の活動により、アトピー脊髄炎が神経内科、整形外科分野の代表的な教科書に記載されるようになった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
41件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
29件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Isobe N, Kira J, Kawamura N, et al.
Neural damage associated with atopic diathesis: a nationwide survey in Japan.
Neurology , 73 (10) , 790-797  (2009)
原著論文2
Matsushita T, Isobe N, Piao H, et al.
Reappraisal of brain MRI features in patients with multiple sclerosis and neuromyelitis optica according to anti-aquaporin-4 antibody status.
J Neurol Sci , 291 (1) , 37-43  (2010)
原著論文3
Ueda M, Kawamura N, Tateishi T, et al.
Phenotypic spectrum of hereditary neuralgic amyotrophy caused by the SEPT9 R88W mutation.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 81 (1) , 94-96  (2010)
原著論文4
Watanabe A, Matsushita T, Doi H, et al.
Multimodality-evoked potential study of anti-aquaporin-4 antibody-positive and -negative multiple sclerosis patients.
J Neurol Sci , 281 (1) , 34-40  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20