文献情報
文献番号
202323034A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の放射性物質の基準値施行後の検証とその影響評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KA2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(東京医療保健大学 東が丘・立川看護学部看護学科/大学院看護学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 塚田 祥文(福島大学 環境放射能研究所)
- 青野 辰雄(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所 福島再生支援本部 環境動態研究チーム)
- 福谷 哲(京都大学 複合原子力科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
17,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
東京電力福島第一原子力発電所(福島原発)事故により食品の摂取による内部被ばくの影響が懸念され、厚生労働省は平成24年4月以降、食品からの内部被ばく線量(食品の安全性に十分に配慮した放射線量の目安)を1 mSv/年として導出された基準値を適用した。この基準値は、対象となる放射性セシウム(Cs)以外の放射性核種(ストロンチウム-90 (90Sr)、ルテニウム-106 (106Ru)及びプルトニウム (Pu)同位体)は、セシウム-137 (137Cs)との放射能濃度比から、その濃度を推定し、設定された。その評価は十分安全側と考えられるが、実際に食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。そこで現行の基準値によって食品中の放射性物質について安全性が十分に確保されていること、食品中の放射性物質の基準値に対して、国民が安心・安全を得ることができること、そして国内の食品の安全に関する根拠を示すことを目的に、食品中の放射性物質の基準値の妥当性の検証や国外の食品中の放射性物質の濃度等に関する科学的知見の集約を行った。
研究方法
福島県南相馬市、相馬市及び新地町の産地直売場の作物を網羅的に採取し、現在の作物中放射性Cs濃度を測定し、比較・検証した。また、福島県内に流通する福島相双海域の魚類中の放射性物質の濃度測定を行った。本研究で得られた農作物中放射性物質濃度等のデータを用いて、農作物摂取による内部被ばくの年間線量の推定を行った。国際機関や諸外国等における食品中の放射性物質の規制値や食品摂取に伴う内部被ばく線量の評価等に関する基礎的な資料の作成を目的に調査を行い、まとめた。
結果と考察
玄米、芋類、葉菜類、根菜類、豆類、果菜類(果実類を含む)、穀類、種実類及びその他作物中Cs-137濃度測定の結果、食品中の放射性物質の基準値を超える作物はなかった。今回の調査で最も高いCs-137濃度はトウガラシの6.3 Bq/kg-生重量であった。作物中放射性Cs濃度が減少している要因としては、表土の剥ぎ取り除染やK施用による放射性Csの低減化対策が十分に実施され、また放射性Csの物理的減衰により、作物中放射性Cs濃度は基準値を十分に下回っていると言える。作物中Sr濃度から類推した90Sr濃度は極めて低い濃度であった。令和4年12月に採取したスズキ及びヒラメ可食部中Cs-137濃度はいずれも0.5 Bq/kg-生重量以下の濃度で、これまでの魚類の調査結果と大きな違いは認められなかった。魚類アラ部に濃縮されやすいSr-90や内蔵部に濃縮されやすいPu-239+240濃度は検出下限値であった。またトリチウムも検出下限値以下であった。放射性セシウムによる被ばく線量(Cs-134とCs-137の合計値)被ばく線量の推定結果が最も高い年齢性別区分は【19歳以上男子】で、その推定値は0.0010 mSv/年であった。また、Sr-90による食品摂取に伴う内部被ばくの年間線量の推定結果が最も高い年齢性別区分は【13-18歳男子】で、その推定値は0.004 mSv/年であった。いずれについても、介入線量レベルである1 mSv/年を大幅に下回っていた。中国、韓国等のアジア地域およびスウェーデン等の北欧地域における食品中の放射性物質の規制に関連する情報を調査し、整理した。香港、台湾、韓国については、Codexのガイドラインレベルの導出に用いられた計算式およびパラメータが用いられており、汚染率についても考慮されていた。
結論
南相馬市及び相馬市周辺で栽培されている作物や福島相双海域で採取された市場を流通する魚類中の放射性Cs濃度で基準値を超えるものはなく、Sr-90濃度も十分に低い濃度であった。農作物の摂取に起因する放射性Cs及びSr-90による内部被ばくの年間線量は、いずれについても、介入線量レベルである1 mSv/年を大幅に下回っており、また、事故に起因するSr-90の寄与は極めて小さく、放射性Cs以外の放射性核種の寄与を安全側に考慮した放射性Csに対する基準値の算定値は、妥当であったと考えられる。主要な国際機関と欧米を中心とした諸外国における汚染率や少量消費食品について調査した。各国の食品中の放射性物質の規制値は、各国の考え方や、規制値設定時の国内の食料事情等が大きく影響するため、異なるタイミングで設定された各国の規制値を一律に比較することは困難であると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2024-12-26
更新日
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