文献情報
文献番号
202323030A
報告書区分
総括
研究課題名
食品及び食品用容器包装に使用されるナノマテリアル等の新規素材の安全性評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1011
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
- 安達 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
- 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
13,460,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ナノマテリアル等の新規素材は、様々な用途での応用が期待される一方で、その特性による予想外の健康影響の可能性が指摘されている。また、我々の実験動物を用いたナノ銀の先行研究でもサイズによって暴露後の生体反応が異なることが明らかとなった (Cho et al, J Toxicol Pathol. 2018)。近年、欧州食品安全機関の意見書に基づき、欧州委員会は酸化チタン(E171)の食品への添加を禁止した。しかし、酸化チタンは食品添加物のみならず様々な用途で用いられており、一律の禁止措置によって混乱が生じている。
本研究では、食品及び食品用容器包装用途に使用され、経口及び経皮等から暴露されるナノマテリアル等の新規素材について、安全性評価方法及び評価データ、並びに関連する国際動向情報を蓄積し、適切な毒性評価法の提案及び特性に応じた試験上の考慮事項等の整理を目的とする。
本研究では、食品及び食品用容器包装用途に使用され、経口及び経皮等から暴露されるナノマテリアル等の新規素材について、安全性評価方法及び評価データ、並びに関連する国際動向情報を蓄積し、適切な毒性評価法の提案及び特性に応じた試験上の考慮事項等の整理を目的とする。
研究方法
1次粒径6, 30, 180 nmと異なる結晶子径を持つ酸化チタン粒子を90日間反復投与したラットについて、免疫染色およびRNA シークエンシングによりパイエル板におけるナノ酸化チタン投与に関連するシグナルの検討をすすめている。また、これらの粒子の2次粒子系について、透過型電子顕微鏡で分析した。
また、ナノ酸化チタンの経口摂取が食物アレルギーの症状発現に与える影響については、ナノ酸化チタンに感受性が高い免疫担当細胞を絞り込むため、まず、免疫細胞でのナノ酸化チタンの影響についてin vitroで解析した。
さらに、2021年7月にEFSAが発行した「Nano-RAに関するガイダンス」の記載内容を中心に、欧州食品分野における遺伝毒性・酸化ストレスに関する試験法や評価手法について調査を実施した。
また、ナノ酸化チタンの経口摂取が食物アレルギーの症状発現に与える影響については、ナノ酸化チタンに感受性が高い免疫担当細胞を絞り込むため、まず、免疫細胞でのナノ酸化チタンの影響についてin vitroで解析した。
さらに、2021年7月にEFSAが発行した「Nano-RAに関するガイダンス」の記載内容を中心に、欧州食品分野における遺伝毒性・酸化ストレスに関する試験法や評価手法について調査を実施した。
結果と考察
結晶子径の異なる二酸化チタン粒子(6, 30, 180 nm)をラットに90日間反復経口投与して得られた検体を用いて主要臓器(肝臓、腎臓、脾臓)中のチタン元素を定量したところ、結晶子径が最も大きい180 nmの投与群において肝臓チタン量の高値が認められた。一方でγ-H2AX陽性肝細胞の誘導は見られず、二酸化チタン粒子は肝臓に取り込まれてもDNA損傷を誘発しないことが示唆された。透過電子顕微鏡により正確な粒度分布測定を実施したところ、二次粒子のメジアン径は6 nm < 180 nm < 30 nmの順であった。パイエル板の二酸化チタン沈着領域における免疫応答を検討するため、ホルマリン固定標本からのマイクロダイセクションによるRNA抽出法を検討し、RNA-seq解析を実施し、すべての個体でライブラリーを作製し、シークエンス解析を実施することができた。
ナノ酸化チタン暴露による免疫系への影響について、マウス腹腔マクロファージでのLPS刺激によるサイトカイン産生において、IL-6及びIL-10の増加がナノ酸化チタン処理により抑制され、TNF-αの産生は増強することが明らかとなった。経皮感作時にナノ酸化チタンCが共存すると、所属リンパ節において樹状細胞やマクロファージが増加する傾向が示された。したがって、ナノ酸化チタンの経皮感作時のアジュバント効果に関して、樹状細胞やマクロファージが関与している可能性が高いことが示された。今後、粒子径が異なるナノ酸化チタンの生体内での影響について検討を進める必要があると考えられる。
食品分野におけるナノマテリアル並びに新規素材の毒性試験法に関する国際動向調査研究では、「Nano-RAに関するガイダンス」において、ナノマテリアルの遺伝毒性試験は、ナノマテリアルの特異的特性を考慮するものであり、EFSA遺伝毒性試験戦略の概要に従うことを推奨していた。また、酸化ストレスをエンドポイントとした評価としては現在のところ明確な試験法はないが、生体内曝露においては、炎症反応と関連する可能性を示唆するものであった。
ナノ酸化チタン暴露による免疫系への影響について、マウス腹腔マクロファージでのLPS刺激によるサイトカイン産生において、IL-6及びIL-10の増加がナノ酸化チタン処理により抑制され、TNF-αの産生は増強することが明らかとなった。経皮感作時にナノ酸化チタンCが共存すると、所属リンパ節において樹状細胞やマクロファージが増加する傾向が示された。したがって、ナノ酸化チタンの経皮感作時のアジュバント効果に関して、樹状細胞やマクロファージが関与している可能性が高いことが示された。今後、粒子径が異なるナノ酸化チタンの生体内での影響について検討を進める必要があると考えられる。
食品分野におけるナノマテリアル並びに新規素材の毒性試験法に関する国際動向調査研究では、「Nano-RAに関するガイダンス」において、ナノマテリアルの遺伝毒性試験は、ナノマテリアルの特異的特性を考慮するものであり、EFSA遺伝毒性試験戦略の概要に従うことを推奨していた。また、酸化ストレスをエンドポイントとした評価としては現在のところ明確な試験法はないが、生体内曝露においては、炎症反応と関連する可能性を示唆するものであった。
結論
反復経口投与したナノ酸化チタン粒子のうちごく一部は肝臓に到達しうることが示されたが、肝毒性やDNA鎖切断を示唆する所見は認められなかった。また、ナノ酸化チタンの経皮/経口暴露による免疫毒性については、ナノ酸化チタンが免疫担当細胞に与える影響について検討し、ナノ酸化チタンが体内に取り込まれた場合、マクロファージや樹上細胞が影響を受ける可能性が示唆された。一方、国際動向調査においては、遺伝毒性と酸化ストレスに焦点をあて調査を実施したところ、in vitro遺伝毒性試験に関しては、ナノ粒子の細胞内取り込みが観察されないという点のみを根拠に、当該マテリアルが遺伝毒性を示さないとは言えないと述べられていた。さらに炎症性メディエーター放出など二次的なメカニズムを誘発する可能性も示唆されていた。
公開日・更新日
公開日
2024-09-13
更新日
-