文献情報
文献番号
202323015A
報告書区分
総括
研究課題名
フードテックを応用した細胞培養食品の先駆的な調査検討による食品衛生上のハザードやリスクに係る研究 -リスクプロファイルの作成とモデル細胞実験系による検証・還元-
課題番号
22KA1005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 仁科 博史(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
- 堀 正敏(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
- 福田 公子(東京都立大学 理学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
12,728,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
フードテック、すなわち食に関する最先端技術を活用した、食料システムの構築や国民の健康増進に資する食品の探索などの観点から、従来の生産方法とは異なる新たな方法で作られる、又はこれまでに食経験のない、若しくはこれまでとは違った方法により摂取されるような新規食品の研究開発が進められている。この代表例としては、骨格筋細胞といった家畜・家禽由来の様々な細胞を採取・培養し食肉の代用品を作る、「いわゆる培養肉」(肉と称するのは適切とは限らないため、以降「細胞培養食品」とする)の研究開発が国内外で進展している。現時点で国内では、技術の確立や市場化の目途は立っていないが、様々な研究会の設立をはじめ、研究開発の加速が見込まれ、将来、フードテックを活用した様々な「細胞培養食品」の上市化が想定され、その安全性評価に向けた課題の抽出について検討すべきタイミングを迎えている。本調査研究では、特に「細胞培養食品」に着目し、この食品衛生法上の取扱いを検討するため、そのハザードやリスクの特定に向けた課題の抽出をおこない、リスクプロファイルの作成ならびに、想定される今後の動向と方策につき考察することを目的とする。この際、学術的に能動的な調査に努め、あわせて、「細胞培養食品」のモデルとなり得る独自の細胞培養実験系を用いて、抽出した課題の妥当性について検証し、またこの結果を調査の方に還元し、その確度について補強する。
<各年度の目標> 令和4年度:ハザードやリスクの特定に向けた課題の抽出、令和5年度:リスクプロファイルの検討と抽出した課題の妥当性についての検証、令和6年度:リスクプロファイルの作成及び安全管理の提案
<各年度の目標> 令和4年度:ハザードやリスクの特定に向けた課題の抽出、令和5年度:リスクプロファイルの検討と抽出した課題の妥当性についての検証、令和6年度:リスクプロファイルの作成及び安全管理の提案
研究方法
本研究では具体的には、1)細胞培養食品の食品衛生上のハザードやリスクに係る調査を行い、2)調査において懸念されたハザードの事象につき、エピジェネティクス解析等を検討し、また3)モデルとなるウシやニワトリ由来の細胞の分化増殖過程におけるハザード解析を検討する。そして、これらの結果を調査(1)の方に還元し、その確度について補強する。併せて、各種モデル系に係る補完的検討も実施し、連携の向上と円滑な進捗を図る。
結果と考察
令和5年度(2年目)は、細胞培養食品の食品衛生上のハザードやリスクに係る調査検討では、1)開発動向、ならびに2)安全性や衛生規制の動向を中心に、Web上の公開情報の調査を実施し、それぞれの特徴を抽出し、また細胞培養食品に関する潜在的なハザード因子を抽出した。調査に先立ち、細胞培養食品に関する便宜的な分類表を用意し、これに基づき調査結果を整理した。モデル細胞の分化増殖過程におけるエピジェネティクス解析では、調査過程において大量培養への応用という期待と同時にハザードが懸念された転写共役因子YAP遺伝子に着目し検討した結果、活性化の強さが閾値を超えると肝がん、並びにエピジェネティック変化が生じることを見出した。モデル家畜細胞の分化増殖過程におけるハザード解析では、マウス単離線維芽細胞の遺伝子発現プロファイルの週齢差について明らかとし、またウシ気管由来単離平滑筋培養細胞の遺伝子発現プロファイルから、糖質コルチコイドなどの生理活性物質の産生に係る継代差について明らかにした。モデル家禽細胞の分化増殖過程におけるハザード解析では、ニワトリ胚砂嚢平滑筋細胞の分化の維持には、細胞間接着が必要であることが示唆されたため、分化の維持に向け、ハンギングドロップ法による3D培養系を確立し、この際、ウシ胎児血清、あるいはニワトリ胚抽出液を添加した場合について比較検討したところ、細胞形態や組織構築が両者で異なることを明らかとした。
結論
細胞培養食品の食品衛生上のハザードやリスクに係る調査を、特に開発動向、ならびに安全性や衛生規制の動向を中心に行った結果、それぞれの現状と特徴を整理することができ、また潜在的なハザード因子を抽出できた。また各分担研究における検討は、当該生理活性物質及び転写共役因子YAP遺伝子を潜在的なハザード因子として見出したことを表し、また細胞培養食品の作製に際しての、使用する年齢・臓器部位・培養条件などの様々な選択理由に資する成果と考える。引き続き、次年度も計画に則り、同様な調査・実験を実施、検討する。本調査研究により、「細胞培養食品」の食品衛生法上の安全性評価に向けた課題や方策が明らかとなることが期待され、その安全性評価に向けた新たな制度の枠組みの設定といった行政支援として寄与することが期待される。同時にこの課題への方策を通して、食品衛生法上の安全性を担保した上での「細胞培養食品」の開発につながれば、その安全性について国際的にアピールする上でも重要な成果となり得る。以って、振興と規制の両面からの切れ目のない俯瞰的・長期的政策立案に寄与することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2024-10-04
更新日
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