労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断のより適切な実施に資する研究

文献情報

文献番号
202322007A
報告書区分
総括
研究課題名
労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断のより適切な実施に資する研究
課題番号
22JA1004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
上條 英之(東京歯科大学 歯科社会保障学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 英輝(国立保健医療科学院)
  • 上野 晋(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 有川 量崇(日本大学 松戸歯学部)
  • 大山 篤(東京医科歯科大学 口腔疾患予防学分野)
  • 澁谷 智明(日立製作所京浜地区産業医療統括センタ 新川崎健康支援センタ)
  • 小林 宏明(東京医科歯科大学歯学部 医歯学総合研究科 歯周病学分野)
  • 佐藤 涼一(東京歯科大学 歯学部)
  • 鈴木 誠太郎(目白大学 短期大学部歯科衛生学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
7,410,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歯・口の健康に有害な業務従事者等の口腔内の有所見状況並びに業務従事状況を把握し歯の酸蝕症の新基準の有用性について検討するとともに歯の酸蝕に特化した予防法開発を目的とした基礎実験を行いました。このほか、リスクアセスメント歯科健診制度の開始にあたり歯科医療関係者への制度周知を図ることが目的です。
研究方法
1 有害業務に従事する者の歯科健診による歯の酸蝕症の状況
1)茨城県内の事業所の調査
 歯の酸蝕症の診断について2つの基準で実施しました。
2)オンラインリサーチ会社の募集による調査
2023年1月にオンラインリサーチ会社で募集された被験者を対象とし製造業で都市部での居住、工場や研究所での勤務者を対象としました。
2 事業所における法定歯科健診の実施状況
【健康管理担当者へのオンライン調査】
マイボイスコム株式会社が保有するモニターのうち、常勤の勤務者が「300人以下」の事業者に勤務する健康管理担当者を対象に実施しました。
【令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)】
 令和3年労働安全衛生調査(実態調査)事業所調査票情報の提供を受けて、分析しました。
3 一部事業所の労働衛生管理の状況に関する調査
 茨城県歯科医師会の協力を得て、一部の事業場に労働衛生管理の状況を質問紙により調査しました。
4 事業場の従業員に対する質問紙調査
事業場で歯科健診、唾液検査を実施する従事者に質問紙調査を行いました。
5 労働現場や歯科医院における酸蝕症に特化した予防方法開発
牛歯を用いた基礎実験により予防処置法の評価を行いました。
事業場で歯科口腔保健の事業を進めるための評価指標について、個々の項目について調査を行いました。
6 事業所におけるリスクアセスメント対象物歯科健康診断ガイドブック作成
 リスクアセスメント歯科健診制度の開始に伴う周知を図るため作成しました。
結果と考察
1 歯の酸蝕症の状況について
事業所での歯科医師による歯の酸蝕症の健診により新基準で3.7%が歯の酸蝕症と判定されました。重度な症状はみられませんでした。
また、酸性環境にさらされた労働者は職場での保護具の使用がより多く見られ、より頻繁に歯科健診を受けていました(p<0.001)。一方で、144人のうち、酸蝕の疑いのある者は3人(2.1%)のみでした。
2 事業所での歯科健診の状況
中小企業のオンライン調査の結果、法定歯科健診の実施割合は事業所の健康管理担当者の意識および歯科保健事業への実際の取組みの姿勢に影響される可能性が示されました。今後、事業所に対して歯科口腔保健の推進のための積極的な普及啓発を促すとともに要因分析を可能とするさらなる研究の必要性が考えられました。
3 一部事業所における労働衛生管理の状況に関する調査
13の事業所での質問紙調査から調査実施企業のすべてで化学物質のアセスメントが実施されSDSの周知が行われていましたが、一般の歯科健康診断を実施している事業所は皆無でした。
4 事業場従事者の質問紙調査の結果
歯科特殊健診を行っている多くの事業場では適切な作業管理、作業環境管理および健康管理が行われていると考えられました。しかしながら一部の事業場では作業環境の改善の必要性も示唆されました。
また、健康管理の面で多くの事業場で一般歯科健診実施の検討も必要であると考えられました。同時に行った業務従事状況の質問紙調査(生活習慣関連)の結果から胃酸の逆流や嘔吐、酸性食品の嗜好など歯の酸蝕症の診断に詳しい生活習慣の聞き取りが必要であることも示唆されました。歯・口の病気で仕事に支障が出たことがある割合が10%でした。さらなる口腔疾患予防への対応が期待されます。
5 労働現場や歯科医院における酸蝕症に特化した予防方法開発
労働現場や歯科医院における酸蝕症に特化した予防方法の開発研究においてはAP-MFP群および併用群は,APF群よりも象牙質耐酸性を向上させ,クエン酸脱灰に対する歯質硬さおよび粗さを改善することが示唆されました。本方法は産業現場の酸蝕症における新たなプロフェッショナルケアとして期待できます。
6 リスクアセスメント歯科健診制度の開始に伴うガイドブック作成
歯科医療従事者の周知が図れるようリスクアセスメント対象物歯科健康診断ガイドブックとしてとりまとめを行いました。
結論
歯の酸蝕症保有者は3.7%で年齢が高く、従事年数も長期間でした。歯の酸蝕症は軽症化していますが継続的モニタリングが必要と考えられました。また、オンライン調査の結果、法定歯科健診の実施割合は事業所の健康管理担当者の意識および歯科保健事業への実際の取組みの姿勢に影響される可能性が示されました。
なお、2024年4月から開始されるリスクアセスメント対象物歯科健康診断のガイドブックを研究班として作成したことから今後、関係者の方々に活用されることが期待されます。

公開日・更新日

公開日
2024-09-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

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公開日・更新日

公開日
2024-09-10
更新日
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文献番号
202322007Z