治療と仕事を両立する患者に対する継続的な支援の実態と方策の検討

文献情報

文献番号
202322005A
報告書区分
総括
研究課題名
治療と仕事を両立する患者に対する継続的な支援の実態と方策の検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
22JA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
永田 昌子(産業医科大学 医学部 両立支援科学)
研究分担者(所属機関)
  • 立石 清一郎(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 江口 尚(北里大学 医学部)
  • 高橋 都(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部)
  • 吉川 悦子(高橋 悦子)(日本赤十字看護大学 看護学部)
  • 伊藤 美千代(東京医療保健大学 千葉看護学部)
  • 古屋 佑子(東海大学医学部 基盤診療学系衛生学公衆衛生学)
  • 原田 有理沙(産業医科大学 医学部 両立支援科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
7,027,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者の治療と就労の両立をしていくなかで、患者側の要因(病状や治療など)や職場側の要因(仕事内容など)は変化する。それらの変化に応じ治療と就労の両立をする患者を継続的に支援していくことが求められる。本研究は、継続的な支援が必要となる対象の類型化と、継続的な支援の促進要因と阻害要因を明らかにし、支援が行われる環境と条件を整理することを主な目的とした。
研究方法
8つの研究を行った。継続的な支援が必要な状態の類型化のために、医療機関および産業医を対象に就業上の配慮の変更の時期や契機などを調査する事例収集調査を行い、継続的な支援が必要とされる状態を整理した。また、最初の支援を行った支援者が、継続的な支援が必要な人をスクリーニングするツールを検討し、復職に対する自己効力感を評価する尺度の日本語版(試行版)を作成した。
結果と考察
本研究では、治療と仕事を継続して両立できるよう長期的視点を持って支援することを「継続的な支援」と定義し、目指す姿は、「支援者起点の積極的な支援がなくても、当事者が治療や症状ならびに職場の変化に自立的な行動をとれる状態」と整理した。次に、継続した支援が必要となる状態として次のように整理した。当事者が治療や症状ならびに職場の変化に自立的な行動をとれる状態でなく、困りごとが持続しているケースと、変化が見込まれる、もしくは変化があったケースとして整理できた。変化の種類は、治療や症状の変化、職場の変化、当事者の労働意欲の変化、安全と健康の確保に関するリスクの変化である。
継続的な支援の促進要因と阻害要因の調査として医療機関と職場、支援機関に対してインタビュー調査を行った。促進要因として、また促進要因を阻害する要因として阻害要因を定義した。職場の要因、事業場の体制等要因、医療機関の要因、支援機関の要因として分けて整理した。
両立支援の普及に資する情報提供のあり方の検討
医療機関が発行する「治療と仕事の両立支援連絡カード」の原案を作成した。既存のガイドラインと先行研究を参考にして作成され、複数の修正を経て最終バージョンが完成した。産業医と臨床医両方の視点からのフィードバックを通じて、必要な情報がほぼ網羅されているとされたが、簡単にチェックすることの危険性や情報の具体性と詳細さに欠ける点、用語や形式への不慣れ、教育の欠如が問題点として指摘された。また、記載に対する時間的および判断的負担を感じている医師が半数以上おり、負担軽減の方策が必要と考えられた。
事業場の治療と仕事の両立支援ガイドライン」の留意事項に付する情報
 医療機関におけるフォローアップ調査では、困りごとや精神症状は初回相談時から有意に減少していたが、退院後12か月後も多くの患者が困りごとを抱えており、退院6カ月後と12カ月後には約67%以上が引き続き困りごとを有していた。療養・就労両立支援指導料の継続支援制度により、初回支援から3か月間は支援者によるインセンティブがあり、その後は患者本人からの相談が必要となる。今後は、初回支援後3か月での困りごとの再評価と積極的な支援の必要性のスクリーニングが適切と考えられる。
就業配慮の変更に関する産業医側からの調査より、産業医配慮の見直しの内容は、以下の5パターンと配慮を見直さなかった事例に分類することが出来た。
① 症状の軽減による配慮の解除
② 復帰後の勤務実態や仕事ぶりに合わせた配慮の見直し
③ 症状増悪もしくは新たな症状の出現による配慮の追加
④ 職場側の変更による配慮の変更
⑤ 安全と健康の確保に関するリスクが下がったことを確認し配慮の解除
⑥ 検討の結果、配慮を見直さなかった事例
配慮の見直しの契機は、「就業上の配慮を要する期間をあらかじめ定めておいて、その前に面談等にて状況を確認」したことであり、配慮の実施後半年以内に7割以上の配慮の変更がなされていたことを考えると、企業側の産業保健スタッフに求められることとして復職時の配慮の実施期限は半年を目途にし、見直しを求めることが適切かもしれない。
治療と仕事の両立支援を必要とする復職後の患者に対する離職要因を検討するための調査において、一般集団と比較して、失業や離職転職の機会が多いことが伺われた。本調査では不本意な離職転職をしている者はわずかであったが、離職転職の要因は多様であり、支援においては、丁寧な聞き取りが必要と考えられたことも、特記すべきことである。
結論
2年間の研究班全体の成果物として、継続した支援を行うための教育コンテンツとして、a.医療機関の支援者向け、b.事業場の支援者向け、c.支援施設の支援者向け、d.当事者向けの4種類のリーフレットを作成した。今後これらが活用され、患者側の要因(病状や治療など)や職場側の要因(仕事内容など)は変化に対応し、継続的な支援が普及することが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

倫理審査等報告書の写し
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202322005B
報告書区分
総合
研究課題名
治療と仕事を両立する患者に対する継続的な支援の実態と方策の検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
22JA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
永田 昌子(産業医科大学 医学部 両立支援科学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者の治療と就労の両立をしていくなかで、患者側の要因(病状や治療など)や職場側の要因(仕事内容など)は変化する。それらの変化に応じ治療と就労の両立をする患者を継続的に支援していくことが求められる。本研究は、継続的な支援が必要となる対象の類型化と、継続的な支援の促進要因と阻害要因を明らかにし、支援が行われる環境と条件を整理することを主な目的とした。
研究方法
8つの研究を行った。継続的な支援が必要な状態の類型化のために、医療機関および産業医を対象に就業上の配慮の変更の時期や契機などを調査する事例収集調査を行い、継続的な支援が必要とされる状態を整理した。また、継続的な支援が必要な人をスクリーニングするツールを検討し、復職に対する自己効力感を評価する尺度の日本語版(試行版)と2年間の研究班全体の成果物として、継続した支援を行うための教育コンテンツとして、a.医療機関の支援者向け、b.事業場の支援者向け、c.支援施設の支援者向け、d.当事者向けの4種類のリーフレットを作成した。
結果と考察
本研究では、治療と仕事を継続して両立できるよう長期的視点を持って支援することを「継続的な支援」と定義し、目指す姿は、「支援者起点の積極的な支援がなくても、当事者が治療や症状ならびに職場の変化に自立的な行動をとれる状態」と整理した。次に、継続した支援が必要となる状態として次のように整理した。当事者が治療や症状ならびに職場の変化に自立的な行動をとれる状態でなく、困りごとが持続しているケースと、変化が見込まれる、もしくは変化があったケースとして整理できた。変化の種類は、治療や症状の変化、職場の変化、当事者の労働意欲の変化、安全と健康の確保に関するリスクの変化である。
継続的な支援の促進要因と阻害要因の調査として医療機関と職場、支援機関に対してインタビュー調査を行った。促進要因として、また促進要因を阻害する要因として阻害要因を定義した。職場の要因、事業場の体制等要因、医療機関の要因、支援機関の要因として分けて整理した。
 両立支援の普及に資する情報提供のあり方の検討として、医療機関が発行する「治療と仕事の両立支援連絡カード」の原案を作成した。ガイドラインと先行研究を参考にして作成された。産業医と臨床医より、必要な情報がほぼ網羅されていると一定の確認はとれた。簡単にチェックすることの危険性や情報の具体性と詳細さに欠ける点、医師への周知の必要性や医師の時間的および判断的負担が問題点として指摘された。
 事業場の治療と仕事の両立支援ガイドライン」の留意事項に付する情報として、医療機関におけるフォローアップ調査では、困りごとや精神症状は初回相談時から有意に減少していたが、退院後12か月後も多くの患者が困りごとを抱えており、退院6カ月後と12カ月後には約67%以上が引き続き困りごとを有していた。療養・就労両立支援指導料の継続支援制度により、初回支援から3か月間は支援者によるインセンティブがあり、その後は患者本人からの相談が必要となる。フォローアップ中に積極的な支援の要否の評価が必要と考えられる。
 就業配慮の変更に関する産業医側からの調査より、産業医配慮の見直しの内容は、以下の5パターンと配慮を見直さなかった事例に分類することが出来た。
① 症状の軽減による配慮の解除
② 復帰後の勤務実態や仕事ぶりに合わせた配慮の見直し
③ 症状増悪もしくは新たな症状の出現による配慮の追加
④ 職場側の変更による配慮の変更
⑤ 安全と健康の確保に関するリスクが下がったことを確認し配慮の解除
⑥ 検討の結果、配慮を見直さなかった事例
配慮の見直しの契機は、「就業上の配慮を要する期間をあらかじめ定めておいて、その前に面談等にて状況を確認」したことであり、配慮の実施後半年以内に7割以上の配慮の変更がなされていたことを考えると、企業側の産業保健スタッフに求められることとして復職時の配慮の実施期限は半年を目途にし、見直しを求めることが適切かもしれない。
 両立支援を必要とする復職後の患者に対する離職要因を検討するための調査において、一般集団と比較して、失業や離職転職の機会が多いことが伺われた。本調査では不本意な離職転職をしている者はわずかであったが、離職転職の要因は多様であり、支援においては、丁寧な聞き取りが必要と考えられたことも、特記すべきことである。
結論
2年間の研究班全体の成果物として、継続した支援を行うための教育コンテンツとして、a.医療機関の支援者向け、b.事業場の支援者向け、c.支援施設の支援者向け、d.当事者向けの4種類のリーフレットを作成した。今後これらが活用され、患者側の要因(病状や治療など)や職場側の要因(仕事内容など)は変化に対応し、継続的な支援が普及することが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202322005C

収支報告書

文献番号
202322005Z