HLA多型が寄与する自己免疫疾患の発症機序の解明

文献情報

文献番号
200936004A
報告書区分
総括
研究課題名
HLA多型が寄与する自己免疫疾患の発症機序の解明
課題番号
H19-難治・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
反町 典子(国立国際医療センター(研究所) 消化器疾患研究部消化管疾患研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 春巳(国立国際医療センター(研究所) 臨床病理研究部)
  • 伊藤 健司(国立国際医療センター(第一病棟))
  • 高木 智(国立国際医療センター(研究所) 地域保健医療研究部)
  • 前仲 勝実(九州大学生体防御医学研究所 ワクチン開発構造生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性疾患には、免疫システムの異常が病態に寄与する免疫難病が数多く含まれ、ヒト主要組織適合抗原(MHC)であるHLAの特定の分子との高い相関が報告されている。本研究では、MHCによる新しい免疫機能制御という視点から病態を解析し、新しい治療標的候補分子を提示することを目的としている。本年度は、MHCによる炎症細胞の制御異常とそれによる恒常性維持の破綻の分子基盤の解明、疾患関連HLAの構造解析と免疫細胞の機能修飾等について解析を行った。
研究方法
MHCクラスI受容体欠損好中球の機能制御異常について分子機構を解析した。また、HLA-B51を発現するヒト好中球様細胞を用いて、HLA-B51によるシグナル制御を生化学的に解析した。強直性脊椎炎の関連遺伝子であるHLA-B27について、LILRB2-HLA-B27複合体の結晶化とNMR解析に取り組んだ。さらに関節リウマチ(RA)通院者の診療記録(治療薬の副作用と効果、合併症)のデータベース化を進め、HLA多型と臨床像の関連を解析した。
結果と考察
MHCクラスIがその受容体を介してラフトエンドソームとライソゾームの輸送制御とこれらの輸送小胞におけるシグナル伝達制御に重要であることを見出した。この制御機構が破綻するとウイルス感染応答に異常をきたすことを明らかにした。また、HLA-B51がアクチン制御の異常を引き起こすことを見出した。HLA-B27ではHLA受容体であるLILRBとの会合に違いが生じることを見出した。さらに世界に先駆けてLILRB2-HLA-B27複合体の大量調製および針状結晶を得ることに成功し、構造解析を進めている。HLAの多型によって分子の3次元構造が異なり、それによってHLA受容体との結合に影響が生じ、HLA受容体を介する免疫制御の異常が病態に関わる可能性が示唆された。
結論
本研究により、MHCクラスIが自然免疫細胞の機能制御に根幹的な役割を果たしており、この制御機構の異常が感染の遷延化や炎症反応の経過に大きな影響を与えることが明らかとなった。さらに疾患関連HLAは、その受容体との結合に異常をきたすことが構造解析から裏付けられ、疾患関連HLAと受容体とのシス結合の異常による炎症細胞の機能制御異常が免疫難病の病因病態に関わる可能性が示唆された。また、今回、遺伝子情報に基づいた詳細な症例データベースの解析が、治療方針の決定に重要な情報を提供することが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200936004B
報告書区分
総合
研究課題名
HLA多型が寄与する自己免疫疾患の発症機序の解明
課題番号
H19-難治・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
反町 典子(国立国際医療センター(研究所) 消化器疾患研究部消化管疾患研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 春巳(国立国際医療センター(研究所) 臨床病理研究部)
  • 伊藤 健司(国立国際医療センター(第一病棟))
  • 高木 智(国立国際医療センター(研究所) 地域医療保健研究部)
  • 前仲 勝実(九州大学生体防御医学研究所 ワクチン開発構造生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 難知性疾患には免疫システムの異常が病態に関与する免疫難病が数多く含まれ、疾患単位を超えた炎症病態の共通性として、ヒトにおける主要組織適合抗原(MHC)であるHLAの特定の多型と高い相関が報告されている。免疫難病の病態にHLA多型がどのように寄与するかを解明し、新しい病因論を樹立することは、新しい診断、治療法の開発に有益である。本研究では、HLAによる新しい免疫制御機構とその分子基盤の解明を目的とした。
研究方法
 ベーチェット病および強直性脊椎炎の疾患関連HLAであるHLA-B51およびHLA-B27について、HLA受容体を介した免疫制御という視点から、疾患関連HLAの構造的基盤と炎症制御異常について解析を行った。またマウスHLA(MHC)の受容体を欠損し、その結果MHCを介した機能が欠損するモデルマウスを用いて、MHCによる新しい炎症制御機構の分子基盤を解析した。さらに臨床家による症例データベースの作成と、それに基づく病態とHLAとの関連の詳細な解析を行った。
結果と考察
 HLA-B51が好中球のアクチン骨格系の制御に影響を与えることを見出した。また、HLA-B27における構造異常とそれに起因するHLAクラスI受容体LIRABへの結合異常を明らかにし、疾患関連HLAではHLA受容体を介した機能に異常が生じる可能性を見出した。MHCクラスIのシス受容体欠損マウスを用いて、MHCクラスIはその受容体を介して炎症細胞のシグナル伝達の制御に根幹的な役割を果たしており、この制御機構が破たんすると、感染時の炎症細胞によるサイトカイン産生、炎症巣への浸潤に異常をきたすことを明らかにした。これまでMHCクラスIは、T細胞への抗原提示が免疫系における主たる機能と認識され、特定のMHCクラスIが自己抗原を提示することによって自己免疫疾患が発症すると考えられてきたが、本研究で、MHCクラスIが、T細胞だけではなく、自然免疫細胞の制御に重要であることが明らかにできたことにより、新しい病因論の樹立への大きなブレークスルーとなった。
結論
 MHCクラスIは、獲得免疫応答のみならず、自然免疫細胞の制御にも重要な役割を果たしており、樹状細胞、マクロファージや好中球といった炎症細胞のシグナル伝達とサイトカイン産生の制御を通じて炎症病態を制御している。疾患関連MHCクラスIでは、その構造異常による炎症応答の制御の異常が病態に関与している可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究成果は、これまでのMHCクラスIの抗原提示機能の自己免疫疾患発症への関与という、ドグマとも言える病因論に対して、MHCクラスIによる自然免疫細胞の制御という全く異なる発症メカニズムを提唱したという点で、極めて新規性が高く、かつ重要である。得られた知見はその科学的インパクトが評価され、Immunity等、トップレベルの国際誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
本研究で症例データベースを作成し、関節リウマチの病態を詳細に解析した結果、メソトレキセートに抵抗性の患者にタクロリムスの少量投与が有効であること、TNF阻害薬投与中のRA患者でビスホスホネート製剤併用が有効であることが示された。このことは、症例データベースの充実が治療のオーダーメイド化に貢献する可能性を示しており、意義が大きい。また、Lnk機能を抑制することにより、骨髄移植効率の上昇が認められたことは、移植医療に大きな可能性を提示した。
ガイドライン等の開発
関節リウマチ(RA)の診療記録(治療薬の副作用と効果、合併症)とHLA情報を対応させたデータベースを作成した。
その他行政的観点からの成果
疾患関連HLAの構造解析に基づくリード化合物の検索は、アプローチとして有益であり、今後大きな社会的意義をもつ重要な成果に直結することが強く期待される。さらに今回、症例データベースの充実が治療のオーダーメイド化に貢献する可能性を示したことは、今後の厚生労働行政にとって重要な位置づけとなるものである。得られた成果に関する刊行物(論文等を含む)は、予算要求の基礎資料としての活用している。
その他のインパクト
学術的に極めて高い評価を受けている国際誌Immunity (Cell Press)に掲載された本研究成果は、その新規性、独創性と科学的インパクトが評価され、姉妹誌であるCellに、“Immunology Select”として紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
42件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
51件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sasawatari, S., Yoshizaki, M., Taya C. et al.
Ly49Q plays a crucial role in neutrophil polarization and migration by regulating raft trafficking.
Immunity , 32 , 200-213  (2010)
原著論文2
Hayashi M., Nakashima T., Kodama T. et al.
Ly49Q, an ITIM-bearing NK receptor, positively regulates osteoclast differentiation.
Biochem Biophys Res Commun. , 393 , 432-438  (2010)
原著論文3
Kamei N, Kwon SM, Alev C. et al.
Lnk deletion reinforces the function of bone marrow progenitors in promoting neovascularization and astrogliosis following spinal cord injury.
Stem Cells. , 28 , 365-375  (2010)
原著論文4
Takizawa H, Nishimura S, Takayama N. et al.
Lnk/Sh2b3 regulates integrin αIIbβ3 outside-in signaling in platelets leading to stabilization of developing thrombus in vivo.
Journal of Clinical Investigation. , 120 , 179-190  (2010)
原著論文5
Thananchai H, Makadzange T, Maenaka K. et al
Reciprocal recognition of an HLA-Cw4-restricted HIV-1 gp120 epitope by CD8+ T cells and NK cells.
AIDS , 23 , 193-  (2009)
原著論文6
Takahashi Y, Mizoue T, Suzuki A. et al.
Time of initial appearance of renal symptoms in the course of systemic lupus erythematosus as a prognostic factor for lupus nephritis.
Modern Rheumatology , 19 , 293-301  (2009)
原著論文7
Yoshizaki M., Tazawa A., Kasumi E. et al.
Spatiotemporal regulation of intracellular trafficking of TLR9 by an inhibitory receptor, Ly49Q.
BLOOD , 114 , 1518-1527  (2009)
原著論文8
Michael S. Patrick, Hiroyo Oda. et al.
Gasp, a Grb2 associating protein, is critical for positive selection of thymocytes.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 106 , 16345-16350  (2009)
原著論文9
Hiroyo Oda, Manabu Fujimoto, Michael S. et al.
RhoH plays critical roles in FceRI-dependent signal transduction of mast cells
Journal of Immunology , 182 , 957-962  (2009)
原著論文10
Nakamura S, Kuroki K, Ohki I. et al.
Molecular basis for E-cadherin recognition by killer cell lectin-like receptor G1 (KLRG1)
Journal of Biological Chemistry , 284 , 27327-27335  (2009)
原著論文11
Sasaki K, Kajikawa M, Kuroki K. et al.
Silkworm expression and sugar profiling of human immune cell surface receptor, KIR2DL1.
Biochem Biophys Res Commun. , 387 , 575-580  (2009)
原著論文12
Tai L.E, Goulet M-L, Belanger S. et al.
Positive regulation of plasmacytoid dendritic cell function via Ly49Q recognition of class I MHC.
Journal of Experimental Medicine , 205 , 3187-3199  (2008)
原著論文13
Mamegano K, Kuroki K, Miyashita R. et al.
Association of LILRA2 (ILT1, LIR7) splice site polymorphism with systemic lupus erythematosus and microscopic polyangiitis.
Genes and Immunity , 9 , 214-223  (2008)
原著論文14
Tai LH, Goulet ML, Belanger S. et al.
Recognition of H-2K(b) by Ly49Q suggests a role for class Ia MHC regulation of plasmacytoid dendritic cell function.
Molecular Immunology , 44 , 2638-2646  (2007)
原著論文15
Seita J, Ema H,Ooehara J. et al.
Lnk negatively regulates self-renewal of hematopoietic stem cells by modifying thrombopoietin-mediated signal transduction.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America , 104 , 2349-2354  (2007)
原著論文16
Takizawa S, Takatsu K, Takaki S. et al.
Transient blocking of Lnk-mediated pathways as a potential approach to promote engrafting ability of hematopoietic progenitor cells.
Inflammation and Regeneration , 27 , 59-64  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
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