文献情報
文献番号
202319016A
報告書区分
総括
研究課題名
在留外国人に対するHIV検査や医療提供の体制構築に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HB1006
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
北島 勉(杏林大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
- 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合 港町診療所)
- 宮首 弘子(杏林大学外国語学部)
- Tran Thi Hue(チャン ティフェ)(神戸女子大学 文学部国際教養学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、我が国の在留外国人が増加傾向にある。2023年6月末時点で322万人が滞在していた。在留外国人の多くは20〜30代で、性的にも活動的な年齢層であるため、HIVを含む性感染症に感染する者が増加する可能性がある。そこで、本研究では、在留外国人のHIV検査受検促進や陽性者への医療関連サービスへのアクセスの改善をめざし、自治体やNPO等との連携モデルを構築することを目的とする。
研究方法
本研究では以下の活動を実施した:(1)外国人を主な対象とした研究班主催のHIV検査会を、東京都、沖縄県、埼玉県で実施した。(2)HIV及び結核のための多言語通訳の育成とその利用に関する検討を行った。(3)東京で開催されたネパール祭りの参加者を対象に、HIV検査へのアクセスに関する質問票による調査を実施した。また、福岡県において同様のオンライン調査を実施した。(4)在留外国人の数が増加しているベトナムのHIV流行と派遣契約により海外に派遣されるベトナム人労働者に対する出発前に健康診断の状況を調べた。
結果と考察
(1)計21回の検査会で173人が受検し、出身国は35ヶ国にであった。中国、フィリピン、ベトナムなど在日人口の多い近隣諸国の出身者が上位を占めた。今後は、多言語での広報とWeb予約、遠隔通訳からなる多言語対応モデルを、保健所等での検査会において活用してもらうように促すことと、郵送検査など、施設以外でも受検可能な選択肢を増やすための検討が必要である。(2)2023年9月から2024年の1月にかけて医療通訳研修を行い、全国から54人の参加があった。参加者のHVに関する知識や認識の改善が認められた。通訳のロールプレイを実施し、正確性と迅速性において、ほぼすべての参加者に成長が見られた。本年は、全国の保健所から19件の医療通訳者の派遣についての相談があり、このうち6件で遠隔通訳の利用が実現した。研究班の主催・共催による検査会で17件の利用がありうち1件ではHIV陽性となり治療に繋がった。(3)ネパール祭りでは305人から回答が得られ、25.6%がHIV検査を受けたいと回答していた。HIV陽性となった場合でも、日本を出国しなくても良いと回答した割合は45%で、検査受検の障壁となっている可能性が示唆された。また、福岡県で実施した調査では、300人から回答を得た。福岡県でHIV検査を受検したのは11%しかなかったが、将来HIV検査受検に興味があると回答したのが54%であった。(4)ベトナム保健省によると、2023年12月時点でHIV感染者数は約23万人で、同年の新規感染者は12,800と推計されている。16〜29歳が50%を占めており、ホーチミン市、ハノイといった大都市や東南部地方の居住者が多くを占めている。派遣契約により海外で就労しているベトナム人労働者は約52万人であった。出発前に健康診断を受診し、健康診断書を提出することが義務付けられており、その中にはHIVとB型肝炎ウイルス抗体検査が含まれていた。
結論
これまで研究班が取り組んできた在留外国人を対象としたHIV検査会の経験から、SNSや外国人コミュニティを介して多言語での検査会の広報、予約サイトでの多言語での予約の受付、検査当日または結果告知の際の遠隔通訳の提供が、在留外国人のHIV検査へのアクセスを改善するための有効なモデルになると考えられる。今後は、この多言語化モデルをより多くの保健所等で活用してもらい、その内容を現場のニーズにあったものにしていく必要がある。また、対面受検が難しい人に対して郵送HIV検査の多言語化による提供の可能性についても検討が必要である。医療通訳者の研修を今年度もオンラインにより実施した。研修については対面で実施する内容にほぼ準じたものを提供することができた。今年度も研修修了者で一定のレベル以上の者を保健所や研究班のHIV検査会に遠隔通訳として派遣する事業を行った。昨年度よりも件数は増え、申請から通訳派遣までスムーズに対応できた。検査結果陽性者に遠隔通訳を介して情報提供をしたことで、確認検査や医療に繋げることができた。今後もこの事業を継続し、効果や課題を明らかにしていきたい。
首都圏のネパール人と福岡県在住の外国人を対象とした調査から、HIV検査へのニーズがあることが確認できたため、多言語で受検できる機会を増やすとともに、HIV陽性者や出国しなくてはならないと認識している者も一定数いることが示唆されたため、検査受検に対する需要を喚起するとともに、正しい情報を伝えるための方策を検討する必要がある。これらの活動から得られた知見や課題を踏まえて、自治体やNPO等との連携のもと、在留外国人のHIV検査や医療へのアクセスを改善するための方策を検討し、より多くの地域で活用できるように活動を継続していきたい。
首都圏のネパール人と福岡県在住の外国人を対象とした調査から、HIV検査へのニーズがあることが確認できたため、多言語で受検できる機会を増やすとともに、HIV陽性者や出国しなくてはならないと認識している者も一定数いることが示唆されたため、検査受検に対する需要を喚起するとともに、正しい情報を伝えるための方策を検討する必要がある。これらの活動から得られた知見や課題を踏まえて、自治体やNPO等との連携のもと、在留外国人のHIV検査や医療へのアクセスを改善するための方策を検討し、より多くの地域で活用できるように活動を継続していきたい。
公開日・更新日
公開日
2025-05-13
更新日
-