文献情報
文献番号
202319008A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関するコホート調査を含む疫学研究と情報の普及啓発方法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1008
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(奈良県総合医療センター 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
- 高野 政志(防衛医科大学校 産科婦人科学講座)
- 出口 雅士(神戸大学 医学研究科)
- 吉野 直人(岩手医科大学 医学部)
- 杉浦 敦(武蔵野赤十字病院 産婦人科)
- 田中 瑞恵(国立国際医療研究センター 小児科)
- 山田 里佳(JA愛知厚生連海南病院 産婦人科)
- 北島 浩二(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
28,351,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する全国調査により発生状況を把握し、コホート調査により抗HIV治療の母子への長期的影響を検討する。HIV等の性感染症と妊娠に関する国民向けリーフレットや小冊子を妊娠初期妊婦や若者に配布し、知識の向上効果を検証する。「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」と「HIV母子感染予防対策マニュアル」の改訂により、わが国独自のHIV感染妊娠の診療体制を整備し均てん化する。
研究方法
以下の8つの分担研究課題について研究を行った。1)HIV感染妊娠に関する研究の統括とこれまでの研究成果の評価と課題の抽出、2)国民へのHIV感染妊娠に関する情報の普及啓発、3)医療従事者へのHIV感染妊娠に関する情報の普及啓発と診療体制の整備と均てん化、4)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査等に関する全国調査、5)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析およびデータベースの更新、6)HIV感染女性と出生児の臨床情報の集積と解析およびウェブ登録によるコホート調査の全国展開、7)「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」と「HIV母子感染予防対策マニュアル」の改訂、8)HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベース管理のIT化およびコホート調査のシステム支援
結果と考察
研究分担者相互による研究計画評価会議と研究協力者も加えた全体班会議にて、研究の進捗状況と成績を相互評価し研究計画の修正を行い、研究の確実な実施につなげた。厚労科研費エイズ対策政策研究事業による研究の長年の成果をまとめ、「日本におけるHIV母子感染に関する研究のあゆみ」として(詳細版)と(一般国民向け)を刊行した。国民へのHIV感染妊娠に関する情報の普及啓発活動として、性教育・性感染症予防を目的とするショート動画「中高生の性の悩みに答えるDrタカノ」を作成し、You Tube、TikTok、Instagramにおいてシーズン2(14本)、シーズン3(16本)を公開した。妊娠初期妊婦のHIVスクリーニング検査に関するアンケート調査を定点施設で継続実施すること自体に、高い教育啓発効果を認めた。HIV感染妊婦の経腟分娩実施施設を訪問し、経緯やマニュアル第9版の不足内容などを調査した。産婦人科病院での妊婦HIVスクリーニング検査実施率は99.6%で、妊娠中・後期におけるHIVスクリーニング再検査を全例に実施しているのは、58病院(7.2%)のみであった。HIV感染妊娠の報告数は、2022年12月までで1,194例となった。年間報告数は30例前後で推移していたが、本邦での全分娩数減少に伴い減少することが予想される。しかし妊娠10万件あたりのHIV感染妊娠の報告数は、2017~2021年では3.8、3.9、3.7、3.3、4.5で、減少傾向はみられない。分娩様式はほぼ100%が帝切分娩であったが、ウイルスコントロール良好例に対する経腟分娩が毎年報告され、増加が予測される。本邦で安全な経腟分娩を行うためには、HIV感染妊娠の経腟分娩に特化したマニュアルの作成が必要である。近年増加している妊娠初期HIVスクリーニング検査陰性例からの母子感染は、2012年以降の母子感染7例中5例(71.4%)を占めていることから、HIV母子感染予防対策の改訂が必要である。小児科二次調査での累計報告数は689例となった。母子感染の内訳は、感染57例、非感染504例、未確定128例である。HIV感染女性とその児のコホート調査は、2023年10月14日現在、累計40例が登録され、本年度の新規登録は4例であった。児の先天形態異常や発達異常、頭部画像異常、発達検査異常を一定数認めており、今後も症例の蓄積が必要である。「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」第3版への改訂を行った。わが国の医療経済事情や医療機関の対応能力を考慮した、日本独自のガイドラインである。HIV感染妊婦が経腟分娩を行う際の、分娩施設と患者の適応基準を明示した。全国調査とデータベース管理のIT化およびコホート調査のシステム支援を行った。産婦人科と小児科からの情報を統合連携する仕組みを実装し、安定的・継続的運用を行える環境を作った。
結論
研究計画はすべて完遂された。わが国におけるHIV感染妊娠の発生はパンデミックに至らず、妊婦のHIVスクリーニング検査も全国に浸透したが、HIV感染妊娠数の明確な減少傾向はみられていない。妊娠初期スクリーニング検査以降の女性の初感染による母子感染という新たな課題も確認された。医療従事者および一般国民への教育啓発方法の開発と実効性の検証も課題として残る。以上から、後方視的・前方視的調査研究と教育啓発活動が一体となった本研究課題の継続は、社会に大きく貢献できるものと考える。
公開日・更新日
公開日
2025-04-23
更新日
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