エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究

文献情報

文献番号
202319001A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 椎野 禎一郎(国立国際医療研究センター 臨床研究センター・データサイエンス部)
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,393,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、平成30年1月18日に改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。エイズ予防指針に基づく課題の一覧表を作成し、これまでの研究、事業、HIV感染症に関するガイドラインとの関連性を整理し、HIV感染者・エイズ患者を取り巻く課題に関わる様々な専門家との討議を通じて各種課題を解決の方策を議論する。令和5年度も「課題の一覧表」とHIV関連の研究事業の解析結果に基づき、以下の3課題に着目した研究を行った。即ち1)早期診断治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含むLate Presenterに対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防の3課題である。
研究方法
第37回日本エイズ学会総会にて、「エイズ予防指針・新時代の課題」というシンポジウムを企画、12名の登壇者を始めとして多くの参加者による討議を行った。2022年に新規報告が多かったdTCについてベイズ推定法による時間系統樹解析を試みた。新規報告例の臨床マーカーと、系統樹の枝長・分岐点の時間・近縁の症例との採取時期の差から、それぞれ症例がrecent infectionかどうかを判定するアルゴリズムを検討した。エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を行った。平成30年度から令和2年度にかけての3年間は、調査用のウェブサイトを構築し、各自治体にID・パスワードを配布、令和3年度分は集計用ファイルを自治体に送付する形で集計を行った。一般成人調査は、個別施策層向けの先行研究の調査項目を応用し、A社が保有するアンケートモニター登録者を対象に、性別と居住する都道府県、年齢階級の三段階層化抽出法を用いて質問紙調査を実施した。質問項目はHIV検査行動や予防啓発の認知、PrEP認知や経験、性感染症既往や性行動とした。
結果と考察
エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を継続した。HIV対策は自治体の感染症専門部署や拠点病院を中心に行われてきたが、HIV担当者が他の感染症にも担当する為、コロナ禍では大きな影響を受けた。各自治体の負担軽減のためには、業務の外部委託や対面からWebへの移行に加え、先行する成功事例に関する情報共有など自治体の枠を超えた連携体制の構築が有用と考えられた。医療体制では、HIV感染者の高齢化に対応した、医療・福祉・介護などの領域が連携した取り組みが期待されている。HIV対策を考える上で早期診断(recent infection)やlate presenterの把握は重要な課題である。世界では診断時のCD4数に加え、いくつかの指標を組み合わせたMulti Assay Algorithm (MAA)が用いられている。我が国のHIV検査体制にavidity testを組み込むことは現実的ではないため、ウイルスゲノムデータと臨床データのみからrecent infectionやlate presenterの判定を試みた。HIV検査に関しては、受検経験が全体で12.2%であり、先行研究の14.0%(2020年)、15.0%(2022年)よりやや低くなったが、母集団の規模の拡大のためと考えられる。PrEPの潜在的ニーズは、統計処理上やや高い推計結果であるが、約200万人と推定された。PrEPは、感染リスクのより高い層に届ける必要があるが、わが国では利用できる環境が不十分である。現状では、他の性感染症の増加やHIV既感染での利用、途中中断等の課題も多く、ヘルスリテラシーを考慮した複合的な予防対策を進めていく必要がある。
結論
COVID-19は感染症法上の位置づけが5類感染症になったとはいえ、HIV検査機会の縮小など、コロナ禍がもたらした問題は解決されていない。多様な検査機会の導入など早期診断・早期治療開始につながる施策は、PrEPの導入と併せて新規感染の劇的な減少につながる可能性が期待される。この意味で、新規診断例の診断時期のモニタリングは重要である。また、エイズ予防指針に基づく施策の各自治体の負担軽減のため、先行する成功事例に関する情報共有や、自治体の枠を超えた連携体制の構築は有用と考えられる。一般成人を対象とした調査では、HIVに関する知識の普及は不十分であることが確認された。「コミュニティエンパワーメント」と呼ばれるコミュニティ活動へのさらなる支援は、予防啓発の活動にとって極めて重要である。

公開日・更新日

公開日
2025-04-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-04-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202319001B
報告書区分
総合
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21HB1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 椎野 禎一郎(国際医療研究センター 臨床研究センター・データサイエンス部)
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、平成30年1月18日に改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。このために、エイズ予防指針に基づく課題の一覧表を作成し、これまでの研究、事業、HIV感染症に関するガイドラインとの関連性を整理するとともに、HIV感染者・エイズ患者を取り巻く課題に関わる様々な専門家との討議を通じて各種課題を解決の方策を探索する。本研究班では、以下の3課題に着目した。1)早期診断治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含むLate Presenterに対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防。
研究方法
第35・36・37回日本エイズ学会総会にて、「エイズ予防指針」に関するシンポジウムを企画し、多くの参加者による討議を行った。新規報告が多かったdTCについてベイズ推定法による時間系統樹解析を試みた。新規報告例の臨床マーカーと、系統樹の枝長・分岐点の時間・近縁の症例との採取時期の差から、recent infectionを判定するアルゴリズムを作製した。エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を行った。一般成人調査は、個別施策層向けの先行研究の調査項目を応用し、A社が保有するアンケートモニター登録者を対象に、性別と居住する都道府県、年齢階級の三段階層化抽出法を用いて質問紙調査を実施した。
結果と考察
R3~5の継続的解析で、わが国のHIV-1伝播クラスタがコロナ禍の影響を受けていることが明らかとなった。感染伝播の大きなクラスタの減衰はコロナ禍における検査の脆弱さを示し、アウトブレイク例やlate presenterの地域差は、検査体制の地域差を反映すると考えられた。Late presenterの多いクラスタの特徴を、ネットワーク解析で見いだせたことは、予防対象のhard-to-reach層を見出す鍵となる。エイズ対策を考える上で早期診断の把握は重要な課題である。我が国で応用可能なゲノムデータと臨床データから診断時期推定のアルゴリズムを作製、早期診断例は約20%と推計された。エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を経年的に行った。各自治体のHIV担当者が他の感染症にも担当する為、エイズ対策はコロナ禍では大きな影響を受けたが、業務の外部委託や対面からWebへの移行に加え、成功事例に関する情報共有など自治体の枠を超えた連携体制が有用と考えられた。医療体制では、HIV感染者の高齢化に対応した、医療・福祉・介護などが連携した取り組みは不十分な状況のままである。「正しい知識の普及啓発」に関するモニタリングとして、一般成人を対象とした調査を経年的に行った。有効回答は196,045人(回収率83.5%)であり大きな規模の母集団となった。HIV受検経験は12.2%であり、先行研究の14.0%(2020年)、15.0%(2022年)よりやや低くなった。PrEPの使用経験は全体では、1.3%(2020)と1.5%(2023)と著変はなかったが、個別施策層ではMSM 10.3%、セックスワーカー13.5%と増加した。PrEPの潜在的ニーズは、約200万人と推定された。PrEPは、感染リスクのより高い層に届ける必要がある。他の性感染症の増加やHIV既感染での利用、途中中断等の課題も多く、ヘルスリテラシーを考慮した複合的な予防対策が必要である。
結論
COVID-19は感染症法上の位置づけが5類感染症になったとはいえ、HIV検査機会の縮小など、コロナ禍がもたらした問題は解決されていない。多様な検査機会の導入など早期診断・早期治療開始につながる施策は、PrEPの導入と併せて新規感染の劇的な減少につながる可能性が期待される。この意味で、新規診断例の診断時期のモニタリングは重要である。また、エイズ予防指針に基づく施策の実現のため、先行する成功事例に関する情報共有や、自治体の枠を超えた連携体制は有用である。一般成人調査では、日本の現状を明らかにすることができた。HIV検査の受検経験が全体では12.2%と微増であり予防啓発の普及にも地域差がみられた。U=Uや最新の治療法、検査に関する知識の浸透はいまだに低く、都道府県別にも差異がみられた。PrEPの利用割合は、キーポピュレーションで一定の増加がみられるが、潜在的なニーズに対応するには、WHOやUNAIDSの推奨する当事者主導のPrEP実装体制の整備が課題である。

公開日・更新日

公開日
2025-04-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-04-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202319001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
R3~5の継続的解析で、わが国のHIV-1伝播クラスタがコロナ禍の影響を受けていることが明らかとなった。感染伝播の大きなクラスタの減衰はコロナ禍における検査の脆弱さを示した。検査体制の地域差はアウトブレイク例やlate presenterの数に反映すると考えられた。エイズ対策を考える上で早期診断の把握は重要な課題である。我が国で応用可能なゲノムデータと臨床データから診断時期推定のアルゴリズムを作製、早期診断例は約20%と推計された。
臨床的観点からの成果
エイズ予防指針における各種施策の進捗状況把握のため、都道府県を対象としたモニタリング調査を行った。各自治体の取り組みは、コロナ禍により大きな影響を受けていたが、業務の外部委託や対面からWebへの移行に加え、成功事例に関する情報共有など自治体の枠を超えた連携体制が有用と考えられた。医療体制では、歯科医療など、関係者の努力によりかなりの改善した領域もあるが、透析医療やHIV感染者の高齢化に対応した、医療・福祉・介護の連携など、未だ不十分な領域が多いことも明らかとなった。
ガイドライン等の開発
日本エイズ学会内に組織したPrEP導入準備委員会にて、水島班、谷口班と共同して地域におけるPrEP導入促進のためのガイドライン(PrEPの診療指針、国内承認後の実施体制)を作成し、学会のホームページに公開し、当事者を含めた幅広い人々の意見を集約した。現在、プライベートクリニックで行われている郵送検査やPrEPの現状に関して、第37回日本エイズ学会で討議した。
その他行政的観点からの成果
令和5年度に行われた「第1回~3回 エイズ予防指針の見直しに向けた打合せ会」において研究成果を報告した。令和6年度に計画されているエイズ・性感染症に関する小委員会にて報告し、エイズ予防指針の改定に生かされる予定である。
その他のインパクト
第37回日本エイズ学会総会にて、「エイズ予防指針・新時代の課題」というシンポジウムを企画、12名の登壇者を始めとして多くの参加者による討議を行った。HIV検査体制がコロナ禍により大きな影響を受け、早期検査が大きく後退したままになっている地域がある。郵送検査の活用を含めたウィズコロナ時代における検査体制の構築が急務である。また、プライベートクリニックで行われている郵送検査やPrEPにおける問題点も指摘された。我が国におけるPrEPの体制整備は急務である点に関しては多くの同意が得られた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-04-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
202319001Z