小児から若年成人での生物学的製剤の適正使用に関するエビデンスの創出

文献情報

文献番号
202312001A
報告書区分
総括
研究課題名
小児から若年成人での生物学的製剤の適正使用に関するエビデンスの創出
研究課題名(英字)
-
課題番号
21FE1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
滝沢 琢己(国立大学法人 群馬大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤澤 隆夫(独立行政法人国立病院機構三重病院)
  • 長瀬 洋之(帝京大学 医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー学)
  • 植木 重治(秋田大学 大学院医学系研究科総合診療・検査診断学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高用量吸入ステロイドでも制御困難な重症喘息は重大な疾病負担であり、生物学的製剤が新たな治療選択肢となりつつあるが、エビデンスの不足や明確な使用指針の欠如など課題が残る。本研究では、小児期から若年成人期に焦点を当て、生物学的製剤の有効かつ適正な使用に関するライフスパンを通した指針確立を目指す。日本小児アレルギー学会、日本アレルギー学会と連携し、全国の拠点病院とともに重症喘息患者のレジストリを構築、横断的解析を行い、将来的な長期観察に備える。さらに、PRO(Patient Reported Outcome)を通じて患者視点を取り入れた治療指針策定を図る。
研究方法
生物学的製剤を使用した6〜39歳の小児・若年成人喘息患者を対象とした多施設共同後方視的調査Asthma of Children, Adolescents, and Young adults using Biologics(ACAGI)スタディを、群馬大学が主導し実施した。あらかじめ付与した研究対象者番号を各施設に配布し、担当医がWeb上のCRFに患者情報を直接入力した。対象は2009年以降に生物学的製剤を開始し、1年以上経過した患者とし、投与前、3・6・12か月後、及び中止時のデータを収集した。また、患者自身によるPROもGoogleフォームを用いて取得し、生活環境や治療の満足度、継続意向などを調査した。研究参加施設には1症例あたり3千円、PROを入力した患者には2千円分のクオカードを謝礼として渡した。
結果と考察
内科・小児科46施設から248名の重症喘息患者の医療情報を収集・解析した。登録患者の年齢分布は小児と成人に2峰性を示し、小児では男児が多く、成人では女性が多かった。約半数が3歳までに喘息を発症し、若年成人でも多くが小児期発症であった。生物学的製剤導入は、年齢に応じた診療科で行われ、2型炎症マーカーの測定率は3割程度だったが、陽性率は9割を超えた。導入薬はオマリズマブが最多で、すべての製剤で増悪率の改善が見られた。PROでは184名が回答し、2型炎症や併存症を有する症例が多く、治療への理解やアドヒアランスは良好だった。生物学的製剤導入後、急性増悪や日常生活制限の改善が多く、9割近くが1年後も効果を実感していた。満足度も高く、継続希望者が大多数を占めた。
 重症喘息患者の年齢分布は小児と成人に分かれ、思春期~20代で一時的に減少していた。22歳以上の患者の約4割が15歳以下で発症しており、移行期に症状が軽快しても成人期に再燃・重症化する例が示唆された。家庭の経済状況と生物学的製剤導入の関連や、増悪因子(喫煙・ペット)への介入の難しさも明らかとなった。2型炎症が強い重症患者に適切な薬剤が導入されていたが、医師と患者の治療評価に乖離が見られ、今後は縦断的な観察が必要である。
結論
本研究により、小児から若年成人における重症喘息患者の特徴や生物学的製剤の使用実態が明らかとなった。多くの患者が2型炎症を背景に持ち、適切な薬剤選択がなされていたが、移行期医療の実態は十分に把握できず、継続的な観察の必要性が示された。また、医師と患者の評価に乖離がある可能性や、生活背景が治療選択に影響する点も浮き彫りとなった。今後は縦断的研究により、より適正な治療指針の確立が求められる。

公開日・更新日

公開日
2025-05-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202312001B
報告書区分
総合
研究課題名
小児から若年成人での生物学的製剤の適正使用に関するエビデンスの創出
研究課題名(英字)
-
課題番号
21FE1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
滝沢 琢己(国立大学法人 群馬大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤澤 隆夫(独立行政法人国立病院機構三重病院)
  • 長瀬 洋之(帝京大学 医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー学)
  • 植木 重治(秋田大学 大学院医学系研究科総合診療・検査診断学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高用量吸入ステロイド薬でもコントロール困難な重症喘息は、重大な疾病負担であり、多くの医療資源を消費する。これに対して、生物学的製剤が保険適用され、難治性喘息の患者にとっての福音となりつつある。しかしながら、エビデンスは未だ十分でなく、明確な層別化指標がないこと、投与開始後の中止時期が不明であること、移行期医療の時期の適正使用の指針がないこと、喘息長期予後への影響が不明であること、などの課題が残る。
本研究では、これらの課題にアプローチするために、重症喘息の新たな治療手段となった生物学的製剤の有効かつ適正な使用について、ライフスパンを通しての指針を確立することを目的とする。とくに、長期予後改善のために重要である小児期から成人期前半にフォーカスする。
具体的には、日本小児アレルギー学会と日本アレルギー学会と連携、全国のアレルギー疾患医療拠点病院の協力を得て、小児期から若年成人期の重症喘息患者をデータベースに登録、生物学的製剤の使用実績データを解析する。第一段階では横断的解析を行うが、レジストリーとして確立して、今後の長期観察に備える。
さらに、患者が抱える問題をPatient Reported Outcomeとして現実の生活から収集して、真の患者の立場に立った治療指針に活かす。
研究方法
令和3年度には、研究計画書が群馬大学人を対象とする医学系試験倫理審査委員会で承認された。日本小児アレルギー学会および日本呼吸器学会の協力を得て、会員にアンケートを送付し、生物学的製剤の使用に関する予備的調査を実施した。令和4年度は、予備的調査を元に、多施設共同研究体制を構築し、群馬大学先端医療開発センターで、医師からのデータ収集のためのElectronic Data Captureシステムを用いて患者情報の収集を開始した。登録患者からは、Googleフォームを使用して、生物学的製剤の患者自身の評価、また年収、家庭環境など患者の生活環境の詳細な情報を収集した。令和5年度は、引き続きEDC登録と患者PROの収集を行った。計44施設から255名の患者の登録があり、うち248名の情報を収集することが出来た。患者PROを参考にして、生物学的製剤導入時に患者が参考と出来るパンフレットを作成した。
結果と考察
本研究は、小児から成人を対象にした重症喘息患者の実態を明らかにするため、医師入力型EDC調査と患者回答型PRO調査を行った。EDC調査では46施設から248名が登録され、2型炎症マーカー陽性が93.6%、3項目すべて陽性が42.3%であり、炎症の強い例が多かった。初回導入薬剤はオマリズマブが最多で、適切な患者選択がなされていた。生物学的製剤の使用は小児で11歳、成人で31歳が平均導入年齢で、使用歴は1剤が60%、2剤以上が40%と複数剤使用も多かった。治療効果としては、増悪率の改善が全製剤で認められ、GETEでは小児での評価が高く、成人ではデュピルマブの評価が最も高かった。PRO調査では184名が回答し、開始4か月で7割、1年後には9割近くが増悪や発作不安の改善を実感していた。満足度は非常に高く、96%が継続を希望していたが、注射の痛みや医療費負担に関する否定的意見も多かった。重症喘息患者数は思春期以降に一時的に減少し、22歳以上の4割が15歳以下で発症していたことから、移行期に一時的に軽快しても成人期に再燃・重症化する例が一定数あることが示唆された。若年成人では高所得者が多く、生物学的製剤の導入と家計余裕の関連が示された。吸入・内服のアドヒアランスは高いが、喫煙やペット飼育など増悪因子への対応には課題がある。2型炎症の強い患者に対して適切に薬剤が選択され、7割が症状改善を実感していたが、医師の評価との乖離もみられた。移行期の実態把握には縦断的な観察が今後必要とされる。
結論
本研究は小児から若年成人の重症喘息に対する生物学的製剤使用の実態を明らかにすることを目的として行われた。実際に重症患者に投与され、患者、医師ともにその有効性を高く評価していた。小児から若年成人を対象にした横断的調査であったが、20代前半の移行の時期にあたる患者数が少なく、その次期の重症喘息の実態を解明するには不十分であった。今後、医療機関受診にかかわらず、患者を縦断的に観察することが必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202312001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児から若年成人における重症喘息の実態と生物学的製剤の使用状況を、全国多施設の後方視的データと患者報告情報から明らかにした。特に2型炎症バイオマーカーに基づく薬剤選択の実態や、移行期医療における課題を定量的に把握した。
移行期を含むライフスパンにわたる重症喘息管理の実態を示した本研究は、生物学的製剤の適正使用指針策定の基盤を提供し、国内に無かった年齢横断的エビデンスを創出した。
臨床的観点からの成果
小児から若年成人の重症喘息に対し、生物学的製剤が2型炎症マーカーに応じて適切に使用されている実態を明らかにした。患者満足度は高く、特に移行期以降の再燃例に対する治療の重要性が示唆された。移行期医療のギャップを埋める貴重な実態データを提供し、生物学的製剤の継続的使用や切り替えの判断における実臨床での意思決定に資する。ライフスパンを見据えた喘息管理体制の構築への寄与が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究は、小児から若年成人における重症喘息の実態と生物学的製剤の使用状況を明らかにし、2型炎症バイオマーカーに基づく薬剤選択の妥当性を示した。移行期医療を含めた年齢横断的なデータは、今後のガイドライン作成で、生物学的製剤の適正使用に関する重要な根拠を提供する。
その他行政的観点からの成果
本研究は、生物学的製剤の適正使用実態を把握し、医療費負担や継続使用への懸念といった患者・医療現場の声を可視化した。これにより、費用対効果を踏まえた医療政策の見直しや、支援制度の検討、移行期医療の整備に向けた行政的施策の基盤を提供する。
その他のインパクト
本研究成果は、環境再生保全機構の調査研究として令和6年度から開始されている重症喘息の縦断研究に活用されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
202312001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,500,000円
(2)補助金確定額
7,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,523,384円
人件費・謝金 1,633,523円
旅費 368,000円
その他 678,338円
間接経費 1,500,000円
合計 5,703,245円

備考

備考
その他経費に関して、多施設共同研究において、患者1登録あたり3000円を施設に、患者からのアンケートへの謝礼として2000円相当のクオカードを計上していた。当初の学会へのアンケートから計算し、計500例以上の登録を見込んでいたが、実際には250名弱の登録にとどまってしまい当初予算より経費が縮減されました。一方、登録患者数は、半数にとどまったが、解析には十分なデータを得ることができ研究への影響はなかった。
 外国旅費は当初計上していなかったが、国際学会で欧米を中心とした重症喘息の最新知見が公表されることが多いため計画を変更し参加した。参加することで、発表の聴講やディスカッションを通して、研究に資する知見をえることが出来た。
 

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
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