B型及びC型肝炎ウイルスの感染による肝がん発症の病態解明とその予防・治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200933007A
報告書区分
総括
研究課題名
B型及びC型肝炎ウイルスの感染による肝がん発症の病態解明とその予防・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-肝炎・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦 善治(大阪大学微生物病研究所 ウイルス分野)
  • 小池 和彦(東京大学 医学部 消化器内科学)
  • 上田 啓次(大阪大学大学院 医学系研究科 ウイルス学)
  • 井戸 章雄(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 健康科学専攻人間環境学講座消化器疾患・生活習慣病学)
  • 中本 安成(金沢大学 医学部附属病院 消化器内科学)
  • 廣石 和正(昭和大学 医学部 消化器内科学)
  • 竹原 徹郎(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
  • 考藤 達哉(大阪大学大学院 医学系研究科 樹状細胞制御治療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
39,513,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝がんの発生とそれによる死亡の抑止を目標として、1)肝炎ウイルスによる発がん機構の解明とその制御法の開発、2)微視的な肝がんに対する免疫排除機構の障害の解明とその制御法の開発に焦点をしぼって研究を行う。
研究方法
1)肝炎ウイルスの増殖・発がん機構の解明と発がん抑止法の開発
2)肝がんの免疫病態の解明と再発抑止を目指したがん免疫治療法の探索
結果と考察
HCVコア蛋白のアミノ酸置換と細胞内シグナル伝達
コア蛋白質のアミノ酸置換はSREBP-1cの転写活性を低下させた。コア蛋白質の発現によりTGFβ刺激によるSmad応答転写の活性化が認められたが、アミノ酸置換によりその活性は消失した。コア蛋白とSTAT3の結合性およびSTAT3応答プロモーターの活性化がアミノ酸置換で有意に上昇した。
HCVコア蛋白の病態形成におけるタクロリムスの効果
ミトコンドリア保護効果のあるタクロリムス(FK506)の投与によりコアTgマウスの肝脂肪化、インスリン抵抗性は著明に改善した。酸化ストレス、DNA損傷発生も著明に改善した。培養細胞系においてもタクロリムスの同様の効果が確認された。
オステオアクチビンの肝障害、肝線維化における役割
HCV感染者において血清オステオアクチビン濃度は有意に上昇していた。オステオアクチビンのSNPは肝疾患進展の血清マーカーと関連していた。
MICA sheddaseの同定とその発現制御
ADAM9はin vitroにおいてMICAの細胞質ドメインに対する切断活性を有していた。SorafenibはADAM9の発現を低下させ、これにより肝がんからのMICAの分泌を低下させた。
肝がんにおける制御性T細胞の動態
C型肝炎・肝がんでは疾患が進展するに従い末梢血の中の制御性T細胞の頻度が増加した。その傾向はTr1でより顕著であった。RFAにより完全に腫瘍壊死が得られた患者ではTr1頻度が低下し再発例では再増加した。
肝がんに対する腫瘍抗原特異的T細胞応答
肝がん患者に対してTAE+DC治療を行うと肝がん組織で高発現している腫瘍標的抗原に対するHLA-A24拘束性抗原エピトープの反応性が高率に誘導されたが、抗腫瘍免疫反応の誘導と肝がんの再発抑制効果には明らかな相関は認めなかった。
結論
本研究により、HCVによる発がんの分子機序の一端が解明され、免疫抑制の細胞・分子レベルでの機序が解明された。

公開日・更新日

公開日
2011-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-16
更新日
-

文献情報

文献番号
200933007B
報告書区分
総合
研究課題名
B型及びC型肝炎ウイルスの感染による肝がん発症の病態解明とその予防・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-肝炎・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦 善治(大阪大学微生物病研究所 ウイルス分野)
  • 小池 和彦(東京大学 医学部 消化器内科学)
  • 上田 啓次(大阪大学大学院 医学系研究科 ウイルス学)
  • 井戸 章雄(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 健康科学専攻人間環境学講座消化器疾患・生活習慣病学)
  • 中本 安成(金沢大学 医学部附属病院 消化器内科学)
  • 廣石 和正(昭和大学 医学部 消化器内科学)
  • 竹原 徹郎(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
  • 考藤 達哉(大阪大学大学院 医学系研究科 樹状細胞制御治療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国において増加しているウイルス性肝炎を基盤とした肝がんの発生とそれによる死亡の抑止を目標とする。ウイルス性肝炎からの肝がんの発生および進展を、1)ウイルスの持続感染と細胞機能の修飾、2)肝細胞における遺伝子異常の蓄積と細胞のがん化、3)がん化した細胞の免疫応答からの回避と顕性肝がんへの進展の3つのステップに分け、それぞれの病態とその成立機序を分子・細胞レベルで解明する。各ステップをターゲットとした制御法を開発し、ウイルス性肝炎から肝がんの発生抑止法と肝がんに対する治療・再発抑止法の構築を図るとともに、肝がんの早期発見と治療に有用な診断マーカーの開発を行うことを目的に研究を行う。
研究方法
1)肝炎ウイルスの増殖・発がん機構の解明と発がん抑止法の開発
2)肝がんのバイオマーカーの開発
3)肝がんの免疫病態の解明と再発抑止を目指したがん免疫治療法の探索
結果と考察
C型肝炎ウイルスコア蛋白による発がんにPA28γによる核内イベントとミトコンドリアの機能障害が関与することを明らかにした。コア蛋白のアミノ酸置換は宿主細胞に対して多彩な影響をおよぼすことを示した。患者血清の網羅的な解析からC型肝炎における持続的ALT正常を特徴づける蛋白ピークとしてC4由来のものを同定した。肝がん患者に対する治療介入により、MICA/NKG2D経路によるNK細胞機能の回復、制御性T細胞の低下、肝がんに対するT細胞応答が誘導されることを明らかにした。肝がんからのMICAの分泌はNK細胞による認識を低下させるが、この分子メカニズムとしてADAM9、ADAM10が関与していることを明らかにした。SorafenibやepirubicinはこれらのADAMファミリー蛋白の発現を抑制し、MICA分泌抑制を介してNK認識を回復することが示された。本研究により、HCVコア蛋白による発がんメカニズムが解明され、肝がんに伴うNK細胞、制御性T細胞、CD8陽性T細胞の免疫病態が明らかにされた。
結論
本研究により、HCVによる発がんの分子機序の一端が解明され、免疫抑制の細胞・分子レベルでの機序が解明された。

公開日・更新日

公開日
2011-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200933007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HCVコア蛋白のSPPによる成熟機構を明らかにした。
HCVコア蛋白による発がんメカニズムとして核内PA28gによる分解とミトコンドリア内シャペロン機能の抑制という2つのイベントが存在することを明らかにした。
HBVエントリーに関連する遺伝子の候補を探索した。
がんにおけるMICAの分泌メカニズムを解明した。
オステオアクチビンの炎症性発がんにおける意義を明らかにした。
肝がんに対する樹状細胞/サイトカイン併用治療効果を動物モデルで明らかにした。

臨床的観点からの成果
HCVコアアミノ酸置換はIFNシグナルには影響しないが、SMAD/STAT3シグナルに修飾を与えることを明らかにした。
C型肝炎における持続的ALT正常を特徴づけるバイオマーカーとしてC4aを同定した。
肝がんに対するHLA-A24拘束性のCTLエピトープを複数同定した。
肝がんに対する治療介入により免疫病態(NK細胞の分子機能、制御性T細胞頻度、腫瘍特異的T細胞応答)が改善することを明らかにした。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
119件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
62件
学会発表(国際学会等)
42件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takehara T,
Natural killer cell-mediated ablation of metastatic liver tumors by hydrodynamic injection of IFNα gene to mice.
Int J Cancer , 120 , 1252-1260  (2007)
原著論文2
Tatsumi T,
Intrahepatic delivery of α-galactosylceramide-pulsed dendritic cells suppresses liver tumor.
Hepatology , 45 , 22-30  (2007)
原著論文3
Miyazaki M,
Impaired cytokine response in myeloid dendritic cells in chronic hepatitis C virus infection regardless of enhanced expression of Toll-like receptors and retinoic acid inducible gene-I.
J Med Virol , 80 , 980-988  (2008)
原著論文4
Kohga K,
Serum levels of soluble MHC class I-related chain A in patients with chronic liver diseases and the changes during transcatheter arterial embolization for hepatocellular carcinoma.
Cancer Sci , 99 , 1643-1649  (2008)
原著論文5
Ohkawa K,
Supportive role of precore and preS2 genomic changes on establishment of lamivudine-resistance hepatitis B virus.
J Infect Dis , 198 , 1150-1158  (2008)
原著論文6
Tatsumi T,
Decreased expressions of CD1d molecule on liver dendritic cells in subcutaneous tumor bearing mice.
J Hepatol , 49 , 779-786  (2008)
原著論文7
Sasakawa A,
Activated liver dendritic cells generates strong acquired immunity in α-galactosylceramide treatment.
J Hepatol , 50 , 1155-1162  (2009)
原著論文8
Itose I,
Enhanced ability of regulatory T cells in chronic hepatitis C patients with persistently normal alanine aminotransferase levels than those with active hepatitis.
J Viral Hepat , 16 , 844-852  (2009)
原著論文9
Kohga K,
Anti-cancer therapy inhibits MICA ectodomain shedding by downregulating ADAM10 expression in hepatocellular carcinoma.
Cancer Res , 69 , 8050-8057  (2009)
原著論文10
Uemura A,
Natural killer cell is a major producer of interferon γ that is critical for the IL-12-induced anti-tumor effect in mice.
Cancer Immunol Immunother , 59 , 453-463  (2010)
原著論文11
Kohga K,
Sorafenib inhibited the shedding of MICA on hepatocellular carcinoma cells by downregulating ADAM9.
Hepatology  (2010)
原著論文12
Moriishi K,
Critical role of PA28γ in hepatitis C virus-associated steatogenesis and hepatocarcinogenesis.
PNAS , 104 , 1661-1666  (2007)
原著論文13
Miyamoto H,
Involvement of PA28γ-dependent pathway in insulin resistance induced by hepatitis C virus core protein.
J. Virol. , 81 , 1727-1735  (2007)
原著論文14
Okamoto K,
Intramembrane processing by signal peptide peptidase regulates the membrane localization of hepatitis C virus core protein and viral propagation.
J.Virol. , 82 , 8349-8361  (2008)
原著論文15
Moriya K,
Tacrolimus ameliorates metabolic disturbance and oxidative stress caused by hepatitis C virus core protein: Analysis using mouse model and cultured cells.
Am J Pathol , 175 , 1515-1524  (2009)
原著論文16
Tsutsumi T,
Proteomics analysis of mitochondrial proteins reveals overexpression of a mitochondrial protein chaperone, prohibitin, in cells expressing hepatitis C virus core protein.
Hepatology , 50 , 378-386  (2009)
原著論文17
Kanmura S,
Early diagnosis potential for hepatocellular carcinoma using the SELDI ProteinChip system
Hepatology , 45 , 948-956  (2007)
原著論文18
Uto H,
Increased rate of death related to presence of viremia among hepatitis C virus antibody-positive subjects in a community-based cohort study
Hepatology , 50 , 393-399  (2009)
原著論文19
Kanmura S,
The complement component C3a fragment is a potential biomarker for hepatitis C virus-related hepatocellular carcinoma
J Gastroenterol  (2010)
原著論文20
Hiroishi K,
Strong CD8(+) T-cell responses against tumor-associated antigens prolong the recurrence-free interval after tumor treatment in patients with hepatocellular carcinoma.
J Gastroenterol  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-