薬剤耐性肝炎ウイルス感染の病態解明と対策に関する研究

文献情報

文献番号
200933002A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性肝炎ウイルス感染の病態解明と対策に関する研究
課題番号
H19-肝炎・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
榎本 信幸(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 正彦(山梨大学 大学院医学工学総合研究部 )
  • 松本 武久(独立行政法人 理化学研究所横浜研究所)
  • 朝比奈 靖浩(武蔵野赤十字病院)
  • 今村 道雄(広島大学病院)
  • 中本 安成(金沢大学 医学部附属病院)
  • 堀田 博(神戸大学 大学院医学系研究科)
  • 鈴木 哲朗(浜松医科大学 医学部医学科)
  • 鈴木 文孝(虎の門病院 肝臓センター)
  • 中川 美奈(東京医科歯科大学 医学部附属病院)
  • 加藤 直也(東京大学 医科学研究所)
  • 加藤 宣之(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 横須賀 收(千葉大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
45,864,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎ウイルス(HBV)においては核酸アナログ耐性ウイルスの出現、C型肝炎ウイルス(HCV)においてはインターフェロン・リバビリン抵抗性HCVの存在が治療の障害となっている。本研究の目的はこれらの薬剤耐性肝炎ウイルスの感染病態の解明であり、これにより診断法の確立、耐性機構解明とその克服の基盤形成、さらには新規治療法の開発などを行う。
研究方法
治療抵抗性を示す肝炎ウイルスの全ゲノムの経時的解析により治療抵抗性を担うウイルス遺伝子変異領域を解明するとともに、臨床データのデータマイニング解析、インターフェロン系分子のSNP解析、HCV培養細胞系・モデル動物を用いて薬剤耐性に関与する宿主側因子の解明を行う。コンピューター上で肝炎ウイルス蛋白の活性部位に結合する化合物をin silico screeningで探索、培養細胞系およびモデル動物系を用いてその抗耐性ウイルス効果を検証する。
結果と考察
多数症例でHCV全遺伝子配列を網羅的に決定し、HCVコア遺伝子およびNS5A遺伝子のISDRおよびIRRDRにPeginterferon/Ribavirin併用療法の治療効果を決定するアミノ酸変異が存在することを証明した。さらに宿主のインターフェロン反応性を規定するIL28B遺伝子多型がコア70番アミノ酸変異と関連すること、IL28Bとコア変異、NS5A遺伝子のISDRおよびIRRDR変異を組み合わせることにより高精度に治療効果を予測することが可能であることを示し、宿主およびウイルス遺伝子変異検査による診断法開発の基盤を確立した。さらにコア70番アミノ酸変異が肝発癌にも関与すること、次世代のプロテアーゼ阻害剤の治療効果にも影響を与える知見を得た。核酸アナログ治療前のHBV全遺伝子配列の解析を行い、耐性変異出現にpreS2領域のアミノ酸変異が関連することが明らかとした。一方、治療抵抗性C型肝炎の肝内においてはRIG-I、IPS-1を始めとする自然免疫系分子の変動が重要であることを明らかとした。In slico screeningおよびin vitroにおける抑制効果判定実験により抗NS3活性を持つ阻害剤を同定することに成功した。
結論
薬剤耐性あるいは治療抵抗性肝炎ウイルスの病態にはウイルスゲノム構造および宿主因子が重要な役割を持つことを明らかとした。これらの発見は臨床的な治療方針の決定に重要な情報を与えるとともに、その機序の解明が新たな薬剤耐性機構の研究に展開することが予想される。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-16
更新日
-

文献情報

文献番号
200933002B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤耐性肝炎ウイルス感染の病態解明と対策に関する研究
課題番号
H19-肝炎・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
榎本 信幸(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 正彦(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
  • 松本 武久(独立行政法人 理化学研究所横浜研究所)
  • 朝比奈 靖浩(武蔵野赤十字病院)
  • 今村 道雄(広島大学病院)
  • 中本 安成(金沢大学 医学部附属病院)
  • 堀田 博(神戸大学 大学院医学系研究科)
  • 鈴木 哲朗(浜松医科大学 医学部医学科)
  • 鈴木 文孝(虎の門病院 肝臓センター)
  • 中川 美奈(東京医科歯科大学 医学部附属病院)
  • 加藤 直也(東京大学 医科学研究所)
  • 加藤 宣之(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 横須賀 收(千葉大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎ウイルスに対する治療は近年急速な進歩を見せているが、B型肝炎ウイルス(HBV)においては核酸アナログ耐性ウイルスの出現、C型肝炎ウイルス(HCV)においてはインターフェロン・リバビリン抵抗性HCVの存在が治療の障害となっている。本研究の目的はこれらの薬剤耐性肝炎ウイルスの感染病態の解明であり、これにより診断法の確立、耐性機構解明とその克服の基盤形成、さらには新規治療法の開発などを行う。
研究方法
治療抵抗性を示す肝炎ウイルスの全ゲノムの経時的解析により治療抵抗性を担うウイルス遺伝子変異領域を解明するとともに、臨床データのデータマイニング解析、インターフェロン系分子のSNP解析、HCV培養細胞系・モデル動物を用いて薬剤耐性に関与するウイルス側・宿主側因子の解明を行う。コンピューター上で肝炎ウイルス蛋白の活性部位に結合する化合物をin silico screeningで探索する。
結果と考察
多数症例でHCV全遺伝子配列を網羅的に決定し、HCVコア遺伝子およびNS5A遺伝子のISDRおよびIRRDRにPeginterferon/Ribavirin併用療法の治療効果を決定するアミノ酸変異が存在することを証明し、宿主のインターフェロン反応性を規定するIL28B遺伝子多型とコア変異・NS5A変異を組み合わせることにより治療効果を予測することが可能であることを示した。データマイニング解析により肝内脂肪沈着、HDLコレステロール値などの宿主側因子がC型肝炎の治療効果に影響すること、IFN誘導遺伝子であるGBP-1がHCV-NS5B蛋白が特異的に結合しHCV増殖を特異的に抑制することを見出した。HBVでは核酸アナログ耐性変異出現にpreS2領域のアミノ酸変異が関連することを示した。治療抵抗性C型肝炎の肝内においてはRIG-I、IPS-1を始めとする自然免疫系分子の変動が重要であることを明らかとした。In slico screeningおよびin vitroにおける抑制効果判定実験により抗NS3活性を持つ阻害剤を同定することに成功した。
結論
薬剤耐性あるいは治療抵抗性肝炎ウイルスの病態にはNS5Aおよびコアなどのウイルスゲノム構造およびIL28B・自然免疫分子などの宿主因子が重要な役割を持つことを明らかとした。これらの発見は臨床的な治療方針の決定に重要な情報を与えるとともに、その機序の解明が新たな薬剤耐性機構の研究に展開することが予想される。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200933002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
C型慢性肝炎のPeginterferon/Ribavirin治療の効果はHCVコア蛋白およびNS5A蛋白のアミノ酸変異により規定されていること、コア蛋白の変異は治療効果を規定する宿主因子であるIL28B多型と密接に相関すること、さらに肝病変の進展にも関与することを明らかとした。成果は国内外の学会で発表、学術誌に掲載され肝疾患研究に広く貢献するとともにHCVのinterferon抵抗性の宿主およびウイルス要因の基礎的機序解明へ展開している。
臨床的観点からの成果
HCV NS5A蛋白のISDR 変異はpeginterferon/ribavirin感受性を規定、逆にHCVコア蛋白70番アミノ酸変異はpeginteferon/ribavirin抵抗性を規定、さらにHCV NS5AのIRRDR変異は再燃を規定していることを明らかとした。さらにこれらのウイルス因子に加えて宿主因子であるIL28B多型を組み合わせることにより高精度に治療効果を予測することが可能となった。本成果に基づくHCV治療効果予測の普及が医療者および患者から切望される状況となっている。
ガイドライン等の開発
HCVコア蛋白変異、NS5A変異およびIL28B多型検査によるpeginterferon/ribavirin治療効果予測アルゴリズムについては本研究で開発ならびに多数症例の検討を行いその有効性を検証した。今後ガイドラインを開発して広く一般臨床での普及を図る予定としている。
その他行政的観点からの成果
C型慢性肝炎に対するpeginterferon/ribavirin治療を普及させ肝癌を予防することは国民的課題となっているが実際には種々の理由で十分に治療がなされていない。その理由の一つは現在の治療の効果が不確実であり長期に副作用の多い治療を行っても約50%の治癒率のため患者が治療に踏み切れないことにある。したがってウイルスおよび宿主遺伝子解析による確実な治療効果予測は患者からの要望が非常に強く、また確実に効果の期待できる場合に治療を積極的に行うことは医療資源の有効活用の観点からも重要である。
その他のインパクト
HCVコア蛋白変異、NS5A変異およびIL28B多型検査によるpeginterferon/ribavirin治療効果予測アルゴリズムについては学会発表、国内医学誌への掲載、医師向け講座および市民講座などでの紹介を積極的に行い、普及を図っている。山梨県では肝炎診療連携拠点病院を中心として実地臨床への普及導入しつつある。今後、検証を重ねガイドラインとしての提供、ウイルス遺伝子検査の一般臨床への導入を図る予定としている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
174件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
73件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakagawa M, Sakamoto N, Ueyama M, et al.
Mutations in the interferon sensitivity determining region and virological response to combination therapy with pegylated-interferon alpha 2b plus ribavirin in patients with chronic hepatitis C-1b infection
J Gastroenterol.  (2010)
原著論文2
Kurosaki M, Matsunaga K, Hirayama I, et al.
A predictive model of response to peginterferon ribavirin in chronic hepatitis C using classification and regression tree analysis
Hepatol Res. , 40 (3) , 251-260  (2010)
原著論文3
Nishimura-Sakurai Y, Sakamoto N, Mogushi K, et al.
Comparison of HCV-associated gene expression and cell signaling pathways in cells with or without HCV replicon and in replicon-cured cells
J Gastroenterol. , 45 (5) , 523-536  (2009)
原著論文4
Akuta N, Suzuki F, Hirakawa M, Kawamura Y, et al.
Association of amino acid substation pattern in core protein of hepatitis C virus Genotype 2a high viral load and virological response to interferon-ribavirin combination therapy
Intervirology , 52 , 301-309  (2009)
原著論文5
Suzuki F, Akuta N, Suzuki Y, et al.
Rapid loss hepatitis C virus genotype 1b from serum in patients receiving a triple treatment with telaprevir (MP-424), pegylated interferon and ribavirin for 12 weeks
Hepatology Res. , 39 , 1056-1063  (2009)
原著論文6
Hiraga N, Imamura M, Hatakeyama T, et al.
Absence of viral interference and different susceptibility to interferon between hepatitis B virus and hepatitis C virus in human hepatocyte chimeric mice
J Hepatol , 51 , 1046-1054  (2009)
原著論文7
Kawai Y, Ikeda M, Abe K, et al.
Development of an HCV relapse model using genome-length HCV RNA harboring cells possessing the IFN--resistance phenotype
Hepatol. Res. , 39 , 898-909  (2009)
原著論文8
Nishimura G, Ikeda M, Mori K, et al.
Replicons from genotype 1b HCV-positive sera exhibit diverse sensitivities to anti-HCV reagents
Antiviral Res. , 82 , 42-50  (2009)
原著論文9
Jin H, Yamashita A, Maekawa S, et al.
Griseofulvin, an oral antifungal agent, suppresses hepatitis C virus replication in vitro.
Hepatol Res. , 38 , 909-918  (2008)
原著論文10
Inubushi S, Nagano-Fujii M, Kitayama K, et al.
Hepatitis C virus NS5A protein interacts with and negatively regulates the non-receptor protein-tyrosine kinase Syk
J Gen Virol. , 89 , 1231-1242  (2008)
原著論文11
Masaki, T, Suzuki, R, Murakami, K, et al.
Interaction of hepatitis C virus nonstructural protein 5A with core protein is critical for the production of infectious virus production
J Virol. , 82 , 7964-7976  (2008)
原著論文12
kuta N, Suzuki F, Kawamura Y, et al.
Substitution of Amino Acid 70 in the Hepatitis C Virus Core Region of Genotype 1b Is an Important Predictor of Elevated Alpha-Fetoprotein in Patients Without Hepatocellular Carcinoma
Journal of Medical Virology , 80 , 1354-1362  (2008)
原著論文13
Sermasathanasawadi R, Kato N, Muroyama R, et al.
Association of IRF-7 gene polymorphism with liver cirrhosis in chronic hepatitis C patients
Liver Int , 28 , 798-806  (2008)
原著論文14
Hua R, Tanaka Y, Fukai K, et al.
Rapid detection of the hepatitis B virus YMDD mutant using TaqMan-minor groove binder probes
Clinica Chemica Acta , 395 , 151-154  (2008)
原著論文15
Kato N, Abe K, Mori K, et al.
Genetic variability and diversity of intracellular genome-length hepatitis C virus RNA in long-term cell culture
Arch Virol. , 154 , 77-85  (2009)
原著論文16
Hatakeyama T, Noguchi C, Hiraga N, et al.
Serum HBV RNA is a predictor of early emergence of the YMDD mutant in patients treated with lamivudine
Hepatology , 45 , 1179-1186  (2007)
原著論文17
El-Shamy A, Sasayama M, Nagano-Fujii M, et al.
Prediction of efficient virological response to pegylated interferon/ribavirin combination therapy by NS5A sequences of Hepatitis C virus and anti-NS5A antibodies in pre-treatment sera
Microbiol Immunol , 51 , 471-482  (2007)
原著論文18
Akuta N, Suzuki F, Kawamura Y, et al
Amino acid substitutions in the hepatitis C virus core region are the important predictor of hepatocarcinogenesis
Hepatology  , 46 , 1357-1364  (2007)
原著論文19
Akuta N, Suzuki F, Kawamura Y, et al.
Predictive factors of early and sustained responses to peginterferon plus ribavirin combination therapy in Japanese patients infected with hepatitis C virus genotype 1b
J Hepatol , 46 , 403-410  (2007)
原著論文20
Akuta N, Suzuki F, Kawamura Y, et al.
Prediction of response to pegylated interferon and ribavirin in hepatitis C by polymorphisms in the viral core protein and very early dynamics of viremia
Intervirology , 50 , 361-368  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-