地域相談ネットワークによる障害者の権利擁護の可能性

文献情報

文献番号
200929032A
報告書区分
総括
研究課題名
地域相談ネットワークによる障害者の権利擁護の可能性
課題番号
H19-障害・若手-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
堀口 寿広(国立精神・神経センター精神保健研究所 社会精神保健部)
研究分担者(所属機関)
  • 高梨 憲司(社会福祉法人愛光 視覚障害者支援事業部)
  • 佐藤 彰一(法政大学大学院 法務研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害者の権利擁護のための活動として、千葉県障害者条例に規定される「障害があることを理由とした差別」に関連した相談活動を取り上げた。各種機関における相談の実施状況を権利擁護の実施状況を測る指標とし、条例の施行後に生じる変化を検討した。また、条例の円滑な運用の観点から、相談担当者における条例および相談員制度の認知度を調査し、北海道条例の周知のための活動を調査した。
研究方法
記名式の郵送法アンケートにより、千葉県内の各種相談機関6,105箇所に、相談活動の実施状況をたずねた。障害者の権利擁護機能を持つ相談機関31箇所・人には、件数に加えて相談事例の分野別に利用者の特徴、連携先、相談の転帰をたずねた。
結果と考察
各種相談機関から1,573件の回答があり、平成20年度の相談は634,392件、そのうち「障害があることを理由とした差別」に関する相談はのべ1,770件あり、年間の相談件数の1.2%あった。平成21年7月から10月の相談件数および同時期の「障害があることを理由とした差別」に関する相談件数は、前年度同時期との差を認めなかった。条例を知っているという回答は48%あり、昨年度(61%)より低かった。相談員制度については、回答者の半数が知らないと回答した。障害者の権利擁護機能を持つ相談機関19箇所の回答から得た平成20年度の相談は、のべ44,373件あり、「障害があることを理由とした差別」に関する相談はのべ226件あり、相談機関1箇所あたり年間の全ての相談件数の38%あった。相談内容を分野別に見ると、平成21年7月から10月の間に、虐待、福祉サービスの利用に関する相談が多く、利用者の障害特性では精神障害者の相談が多かった。7月から10月の相談件数に20年度から21年度の間に有意な増加を認めなかった。相談に当たり連携した機関としては、県から市町村の担当課の割合が高まっていた。新たに障害者条例を制定した北海道では、就労支援に対する要望が高かった。
結論
条例を制定したことによって、「障害があることを理由とした差別」の相談が集中し相談ネットワークの機能を低下させる事態は見られないことが明らかになった。また、障害者の権利擁護のための相談活動について関係者は市町村の役割に期待を寄せていたが、ネットワークの構築と並行して、地域住民の理解を広げ制度の認知を高めるための取り組みを行う必要があると考えた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200929032B
報告書区分
総合
研究課題名
地域相談ネットワークによる障害者の権利擁護の可能性
課題番号
H19-障害・若手-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
堀口 寿広(国立精神・神経センター精神保健研究所 社会精神保健部)
研究分担者(所属機関)
  • 高梨 憲司(社会福祉法人愛光 視覚障害者支援事業部)
  • 佐藤 彰一(法政大学大学院 法務研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
法制度を設けて地域の相談ネットワークを活用することによって、障害者の権利擁護を実現することの可能性を研究することを目的とした。障害者の権利擁護のための活動として、千葉県障害者条例に規定される「障害があることを理由とした差別」に関連した相談活動を取り上げた。各種機関における相談の実施状況を権利擁護の実施状況を測る指標とし、条例の施行後に生じた変化を検討した。また、法制度の円滑な運用に資する要件を明らかにする目的で、条例および相談員制度の認知度を調査し、他地域での取り組みについて情報を収集した。
研究方法
平成19年から21年の各年度で各種相談機関を対象としたアンケート調査を実施した。3年間の結果から条例の施行に伴う相談活動の実施状況と認知度の変化をとらえた。
結果と考察
地域の市街化を人口集中地区(DID)面積の拡大ととらえ、市街化のピークの時期によって圏域を分類したところ、条例施行前の平成18年の相談件数に差を認めた。3回の調査に回答した119の機関における、平成18年からの3年間で前年度に比べた相談件数の増減率の平均は、年間の全ての相談1.06、「障害があることを理由とした差別」の相談1.00であった。障害者の権利擁護機能を持つ相談機関について、3回の調査全てに回答した15の機関の増減率の平均は、年間の全ての相談件数1.11、「障害があることを理由とした差別」の件数0.60であった。相談内容で増減率の平均が1を超えたものは「その他の分野」の相談であった。条例を知っているという回答は、19年度61.0%、20年度48.4%、21年度46.6%であった。回答者の所属によって認知度の分布に偏りを認め、教育分野などで低かった。他地域での取り組みとして北海道の条例の周知活動を調査したところ、就労支援への要望の高いことがわかった。
結論
千葉県では、条例を制定したことによって、相談が集中し相談ネットワークの機能を低下させる事態を認めなかった。地域の相談ネットワークに障害者の権利擁護の機能を付与することは可能と考えた。相談件数の多寡には地域差のあることが示唆され、地域特性を踏まえて、最適な相談ネットワークを構築する必要があると考えた。障害者の権利擁護に関して法制度を制定するに当たっては地域住民の理解を広げる取組みが必要であり、法制度の施行後も周知度を確認しながら高めていく取組みが必要と考えた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200929032C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域における障害者の権利擁護のための活動の実施状況を評価する方法として相談件数を指標として実施する調査方法を確立した。相談件数の多さに関連する地域特性の一つとして、市町村の人口集中地区(DID)の変化率が最大となる点によって表される「都市化の時期」を発見した。「障害があることを理由とした差別」に関連した相談事例について、年間の発生件数および全ての相談に占める割合、相談内容の分野と障害特性との関連性について基礎的な資料を得た。
臨床的観点からの成果
現状として多くの機関において、相談の利用者数について実施した「のべ件数」による集計を行っていること、相談マニュアルが整備されていないこと、担当者の勤務先によって相談活動の根拠となるべき条例および相談員制度の認知度に差のあること、地域の相談ネットワーク作りにおいて市町村の役割への期待が高まっていること、担当者間の顔の見える関係作りが求められていることが明らかになった。相談件数の年次変化を評価する方法として、複数年度にわたり調査を実施し同一機関の回答を比較することが適当であることがわかった。
ガイドライン等の開発
相談活動の質の均てん化に資することを目的として、乳幼児期から思春期にかけての利用者に実施される相談のマニュアルを刊行した。
その他行政的観点からの成果
国内初の障害者条例を施行した千葉県を調査対象とし条例の施行前からのデータを継続的に収集分析したことにより、国連の障害者権利条約への批准に向けて取り組みの進むわが国において障害者の権利擁護を実現する目的で法制度を施行した場合に、地域社会に生じる変化について予測するために必要な基礎的な資料を得た。相談件数の急激な変化は確認されず、法制度の規定により専門の相談機関と既存の相談ネットワークとの連携を促進することで、障害者の自立した地域生活の実現において不可欠な権利擁護を図ることは可能と考えた。
その他のインパクト
研究成果の一般公開を目的とした公開シンポジウムを11月に開催する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
堀口寿広,秋山千枝子,昆 かおり
発達障害児の保護者にみられた気分障害の特徴
臨床精神医学 , 37 (9) , 1193-1200  (2008)
原著論文2
堀口寿広
地域支援ネットワークによる発達障害児・者の支援
小児科臨床 , 61 (12) , 2669-2674  (2008)
原著論文3
堀口寿広,昆 かおり,石田絢子
小児科診療所から見た児童精神科との連携
臨床精神医学 , 38 (9) , 1263-1269  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-