がん患者の意向による治療方法等の選択を可能とする支援体制整備を目的とした、がん体験をめぐる「患者の語り」のデータベース

文献情報

文献番号
200925074A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者の意向による治療方法等の選択を可能とする支援体制整備を目的とした、がん体験をめぐる「患者の語り」のデータベース
課題番号
H19-がん臨床・若手-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
和田 恵美子(大阪府立大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 杉山 滋郎(北海道大学大学院理学研究院)
  • 朝倉 隆司(東京学芸大学教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
10,080,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、インタビュー調査を通じて集めた「がん患者の語り」のオンライン・データベースや、「がん患者の語り」のデータを用いた学術研究・医療者教育が、患者の置かれている社会的状況や患者の意向を患者と医療者の双方が共有し、本人の意向を十分尊重したがんの治療方法等が選択されるようながん医療提供体制の構築にどのように貢献しうるかを探ることを目的とする。
研究方法
本年度はインタビューデータの分析を進め、トピックの抽出を行って、そのサマリーを映像・音声クリップと共にウェブ上に公開した。ネット公開が及ぼす影響を探るために、インタビュー協力者に質問紙調査を行った。全国の医療系教育機関において映像を活用した授業を実施し評価を行った。テキストデータの研究資源化(アーカイブ化)の可能性を検討するため、2次分析を行った。
結果と考察
1)乳がん51名と前立腺がん49名のデータ収録が終了した。前者43名分について26個のトピックを抽出し、400個のビデオクリップ用いてウェブページを作成した。前立腺がんについても17個のクリップを含む1トピックを公開した。
2)乳がん協力者のフォローアップ調査として、質問紙調査を実施したところ、明らかな有害事象は発生していなかった。前立腺がんについても同様の調査を行う。
3)各疾患約10人分の映像・音声データについて、インタビュー技術の観点から評価項目の抽出を行った。
4)サイトのアクセスログを解析した結果、公開3ヶ月間で月間ユニークユーザー数が7,000?9,000人程度で推移し、直帰率は32.3%、平均サイト滞在時間は9分と長く、当サイトに関心を持って訪問してくれた人には、相当時間をかけて閲覧してもらえている。
5)医療系教育機関21校で教材として活用し、学生及び教員による質問紙評価を行った結果、医療系学生に対する教育効果が期待される教材であることが示唆された。
6)未公開部分を含むデータを第三者が可能な形に整理した上で9つの研究グループに限定公開し、分析汎用性について検討した。
結論
多様な患者体験を可視化し、データベース構築方法の概要を把握できた。それらを患者だけでなく医療提供者、研究者が共有する方法についても知見を得た。本データベースが患者の意向による治療法の選択にどのように生かされるかについては今後サイトのユーザー調査、専門職によるサイト活用状況の評価等を行い、検討していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200925074B
報告書区分
総合
研究課題名
がん患者の意向による治療方法等の選択を可能とする支援体制整備を目的とした、がん体験をめぐる「患者の語り」のデータベース
課題番号
H19-がん臨床・若手-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
和田 恵美子(大阪府立大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 健夫(京都大学 大学院 医学研究科)
  • 杉山 滋郎(北海道大学 大学院 理学研究院)
  • 朝倉 隆司(東京学芸大学 教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、インタビュー調査を通じて集めた「がん患者の語り」のオンライン・データベースや、「がん患者の語り」のデータを用いた学術研究・医療者教育が、患者の置かれている社会的状況や患者の意向を患者と医療者の双方が共有し、本人の意向を十分尊重したがんの治療方法等が選択されるようながん医療提供体制の構築にどのように貢献しうるかを探ることを目的とする。
研究方法
英国における先行例(DIPEx)の調査から始まり、データ収集に関わる調査者のトレーニング、インタビュイーの安全確保と情報の質の担保のための専門家委員会の編成をした上で、メディアや患者会、医療機関等を通じて調査協力者のリクルートを行ない、乳がん・前立腺がんの体験者各50名程度に対するインタビューを実施し、質的研究法に基づくデータ分析を行って、語りの映像・音声・テキストからなるデータベースをウェブ上に公開した。また、語りのデータを医療者教育や新たな学術研究に活用する可能性を探る研究を行なったほか、データベースの質や安全性を探る評価研究として、インタビュー映像の分析やインタビュアーへの聞き取り調査、インタビュイーへの質問紙調査なども実施した。
結果と考察
本研究では、乳がん51名・前立腺がん49名分のがんの体験を、200時間を超すインタビューにより収集、そのうちの乳がん43人分のデータ分析に基づいて、26個のトピックに関連した語りの400個以上(12時間超)の語りのクリップを抽出し、データベース化して患者や一般市民向けにインターネット上に公開した。公開後3ヶ月でのアクセス状況は、月間ユニークユーザー数が7,000~9,000人程度で推移し、平均サイト滞在時間は9分と長く、当サイトに関心を持って訪問してくれた人には、相当時間をかけて閲覧してもらえている。さらに、21の医療系教育機関の授業で語りの映像を教材として活用し、学生及び教員による質問紙評価を行った結果、教育効果の期待できる教材であることが示唆された。
結論
我が国においても、「がん患者の語りデータベース」を安全に構築し、患者に有益な情報を提供したり、医療者教育に活用したりすることが可能であることを確認した。しかし、これが本人の意向を十分尊重したがんの治療方法等の選択につながりうるか、また学術研究に有用なデータアーカイブとなりうるかを判断するには、このデータベースの存在が人々の間に浸透するための一定の時間と、より詳細な評価研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200925074C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インタビュー調査を通じて多様な患者体験を可視化し、データベースを安全に構築する方法の概要を把握できた。それらを医療者教育、学術研究に活用する方法についても知見を得た。現在英国DIPExの方法論を受け継ぐ研究グループはドイツ、スペイン、韓国にも広がっており、本研究班はそれらに先駆けてウェブページを公開し国内外の注目を浴び、保健医療領域における質的研究のレベルアップに貢献した。
臨床的観点からの成果
「がん患者の語り」データベースは、患者の置かれている社会的状況や患者の意向の多様性を明らかにすることにより、医療者と患者の双方に個別的な意思決定の重要性を(再)認識させるツールになりえる。診療ガイドラインは医療の均てん化を進める上では必要不可欠な社会資源だが、本データベースは、自らの状況や価値観に合った治療選択をするためのヒントや勇気を患者に与え、患者家族や医療者など周囲の人々がそれを支援するのに役立つ社会資源となることが期待される。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
平成21年3月19日の厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」公開シンポジウムにおいて、「英国における『がん当事者の語り』による普及啓発について」と題して、19年度の研究計画の中で実施した英国DIPExの調査結果を、海外における普及啓発事例として報告した。
その他のインパクト
メディアでの報道については、NHK「ニュースウォッチ9」「クローズアップ現代」「おはよう日本」「ニュース7」で取り上げられた他、日本経済新聞で計6回、共同通信社の配信記事には計4回、その他数々の新聞・雑誌に紹介された。「がん患者の語り」データベースは、研究期間終了後も「乳がんの語り」および「前立腺がんの語り」ウェブページとして、特定非営利活動法人健康と病いの語りディペックス・ジャパンが運営するウェブサイト(www.dipex-j.org)において公開されており、情報の追加・更新がなされている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
「乳がんの語り」ウェブページhttp://www.dipex-j.org/bc/  「前立腺がんの語り」ウェブページhttp://www.dipex-j.org/pc/

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
佐藤(佐久間)りか 和田恵美子
“患者の語りデータベース”を活用した医療コミュニケーションの試み
科学技術コミュニケーション ,  (3) , 89-100  (2008)
原著論文2
佐藤(佐久間)りか
「患者体験」を映像と音声で伝える?「健康と病いの語り」データベース(DIPEx)の理念と実践
情報管理 , 51 (5) , 307-320  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-10-05
更新日
-