家庭用品中の有害物質の規制基準に関する研究

文献情報

文献番号
202226013A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭用品中の有害物質の規制基準に関する研究
課題番号
20KD2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大嶋 智子(仲村 智子)(地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 衛生化学部)
  • 西 以和貴(神奈川県衛生研究所 理化学部)
  • 久保田 領志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 井上 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 田原 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では家庭用品規制法により、指定家庭用品に含まれる21種類の有害物質についてその含有量や溶出量の基準が定められている。これらの有害物質について、現在の分析技術水準から乖離した分析機器や有害な試薬の使用が問題となっており、試験法の改正が求められている。また、対象有害物質について新たなハザード情報や曝露に関する知見を加え、現行基準値の見直しを検討したり、「検出されないこと」とされている有害物質の基準に対して、基準値を設定したりする必要がある。さらに、有害性が懸念される代替物質の使用や、生活様式の多様化に伴う新形態の家庭用品の創出、及び新たな化学物質の使用可能性もあり、健康被害の発生が懸念される。本研究では、先行研究から引き続き、現行の家庭用品規制法における有害物質の改正試験法の開発及び規制基準値改正、並びに現行規制基準では対象外の家庭用品及び有害物質に対する規制基準設定に資する情報収集を目的とする。さらに、GC-MS分析でキャリアガスとして汎用されるヘリウムは世界的に供給不足であり、代替キャリアガス試験法の開発も実施する。
研究方法
試験法の改正では、TDBPP及びBDBPP化合物を添加した試料を作製し、開発した試験法の妥当性を6機関で評価した。APOは低濃度回収率試験や精製法の検討を行った。木材防腐・防虫剤は、我が国で有害物質に指定されている3種を含む欧州で規制されている8種類のPAHsについて、イオン液体を担体に用いたカラムによる定量法を検討した。有機水銀化合物では、現行法の有害な抽出溶媒(四塩化炭素)の代替溶媒を検討した。未規制有害物質では、9種類の揮発性有機化合物についてエアゾール製品56試料を対象に実態調査した。木材防腐・防虫剤では、クレオソート油及びそれらで処理された木材中のPAHsの実態調査を行った。マイクロ波分解‐ICP-MSを用いて、塗料等に含有される9種の有害金属の実態調査を行った。代替キャリアガスの検討では、ディルドリン及びDTTBの試験法を対象とし、水素及び窒素を代替キャリアガスに用いた際のGC-MS分析条件を検討した。基準設定に関する研究では、有機水銀化合物について有害性情報を収集し、その詳細を毒性項目及び曝露経路毎にまとめた。
結果と考察
TDBPP及びBDBPP化合物試験法の妥当性評価の結果、現行試験法の検出下限値レベルを十分な精度で定量可能であり、現行法よりも安全かつ精度及び感度が高い試験法であることが確認できた。APOについて現行試験法よりも、感度及び精度の向上した試験法が開発できた。木材防腐・防虫剤では、ベンゾ[a]アントラセン-d12及びクリセン-d12を保持指標に用いることで、イオン液体カラムでの分析時に保持時間がずれる現象が生じても定性・定量分析が可能であることを明らかにした。有機水銀化合物では、現行法の四塩化炭素の代わりにシクロヘキサン-酢酸エチル混液を用いる前処理方法を開発した。ヘリウム不足に対応した試験法では、DTTB及びディルドリンについて、ヘリウム及び窒素の代替キャリアガスの有効性を検討した。未規制物質に関する調査では、揮発性有機化合物はエアゾール製品からジクロロメタンやトルエン等が検出されることを確認した。木材防腐・防虫剤では、クレオソート油や処理木材の一部から、我が国で未規制のPAHsが検出されることを明らかにした。有害元素では、家庭用塗料、ワックス等19製品について調査し、Cr、Ni、Sb等が検出されることを確認した。今後、これらの物質について曝露評価等を実施する必要があると考えられる。基準設定に関する研究では、有機水銀化合物について5物質の有害性情報を収集し、情報を得ることができたのは酢酸フェニル水銀のみで、一部の毒性項目ではヒト影響に関する情報は得ることができたが、定量的評価に資する情報は無かった。動物の慢性曝露影響では経口経路の情報があり、米国EPA IRISが設定した腎毒性を根拠としたReference Dose (RfD) を基に有害性評価値案を検討した。
結論
TDBPP及びDBDPP化合物について妥当性評価試験を実施し、改正試験法として妥当であることを確認した。APO及び有機水銀化合物の改正試験法を構築し、木材防腐・防虫剤ではイオン液体カラムでも定性・定量分析が可能であることを明らかにした。また、未規制有害物質として、揮発性有機化合物、PAHs及び有害元素に関する調査を実施した。防虫剤2種の改正試験法について、代替キャリアガスによるGC-MS分析条件を検討した。有機水銀化合物について、有害性評価情報の収集と評価値案を検討した。これらの成果は、家庭用品安全対策調査会における資料等として活用され、家庭用品規制法の改正や検査業務の効率化と安全性の向上に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202226013B
報告書区分
総合
研究課題名
家庭用品中の有害物質の規制基準に関する研究
課題番号
20KD2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大嶋 智子(仲村 智子)(地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 衛生化学部)
  • 西 以和貴(神奈川県衛生研究所 理化学部)
  • 久保田 領志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 井上 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 田原 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では家庭用品規制法により、指定家庭用品に含まれる21種類の有害物質について、その含有量や溶出量の基準が定められている。これらについて、現在の分析技術水準から乖離した分析機器や有害試薬の使用が問題となっており、試験法の改正が求められている。また、対象有害物質について新たなハザード情報や曝露に関する知見を加え、現行基準値の見直しを検討したり、「検出されないこと」とされている有害物質の基準に対して、基準値を設定したりする必要がある。さらに、有害性が懸念される代替物質の使用や、生活様式の多様化に伴う新形態の家庭用品の創出、及び新たな化学物質の使用可能性もあり、健康被害の発生が懸念される。本研究では、先行研究から引き続き、現行の家庭用品規制法における有害物質の改正試験法の開発及び規制基準値改正、並びに現行規制基準では対象外の家庭用品及び有害物質に対する規制基準設定に資する情報収集を目的とする。さらに、GC-MS分析でキャリアガスとして汎用されるヘリウムは世界的に供給不足であり、代替キャリアガス試験法の開発も実施する。
研究方法
試験法の改正を行う有害物質は、噴射剤(塩化ビニルモノマー:VC)、防炎加工剤3種(TDBPP、BDBPP化合物、APO)、木材防腐・防虫剤及び有機水銀化合物とした。防炎加工剤及び噴射剤は現行試験法よりも高精度の分析が可能なキャピラリーカラムを用いたGC-MSによる試験法を開発した。木材防腐・防虫剤は、有害物質に指定されている3種を含む欧州で規制されている8種類のPAHsについて、GC-MS分析条件の検討と有害試薬不使用、かつ妨害物質の影響を受けない前処理方法による改正試験法の開発を行った。有機水銀化合物は有害試薬を使用しない試験法の開発と、高感度及び高精度なICP-MSを用いた試験法を検討した。また、未規制物質に関する調査を行った。代替キャリアガスの検討では、先行研究で開発した溶剤3種及び防虫剤2種、並びにアゾ化合物の試験法を対象とし、水素及び窒素をキャリアガスに用いたGC-MS分析条件を検討した。基準設定に関する研究では、防炎加工剤3種、VC及び有機水銀化合物について有害性情報を収集した。
結果と考察
有害物質の改正試験法開発では、噴射剤、防炎加工剤3種、木材防腐・防虫剤2種及び有機水銀化合物について、現行試験法よりも安全性かつ精度及び感度が向上した試験法が開発できた。TDBPP及びBDBPP化合物については、複数機関による妥当性評価試験を実施し、再現性及び精度ともに十分な結果が得られ、改正試験法として有効と考えられた。また、VCでは開発した試験法を用いてスプレー塗料等の実態調査を実施し、低濃度のVCが検出されること、その検出濃度がヒト健康影響のないレベルであることを確認した。未規制物質調査では、9種類の揮発性有機化合物についてエアゾール製品56試料を対象に調査を行い、ジクロロメタンやトルエン等が検出されることを確認した。木材防腐・防虫剤ではクレオソート油や処理木材を調査し、未規制の多環芳香族炭化水素類(PAHs)が2製品から検出されることを明らかにした。未規制有害元素は、家庭用塗料、ワックス等の9種類の有害金属を調査し、Cr、Ni、Sb等が検出されることを確認した。ヘリウム不足に対応した試験法では、先行研究で開発した溶剤3種及び防虫剤2種、並びにアゾ化合物の試験法について、水素及び窒素ガスがキャリアガスに使用可能であることを確認した。基準設定に関する研究では、TDBPP及びBDBPPについては、TDBPPのげっ歯類における腎発がん性に基づく10-5発がんリスクレベルを、塩化ビニルモノマーについては、化審法の評価Ⅱにおいて導出された吸入経路の有害性評価値を、APOについては、類似物質と考えられたThio-TEPAのラット及びマウスを用いた発がん性試験で認められた造血系腫瘍の発生頻度に基づく10-5発がんリスクレベルを、有機水銀化合物については、有害性情報が唯一得られた酢酸フェニル水銀のラットにみられた非発がん影響に基づく値を、各物質の有害性評価値案として提案することができた。
結論
対象とした有害物質について、現行法よりも安全で精度の高い試験法が開発できた。TDBPP及びBDBPP化合物の試験法は妥当性が確認できた。未規制有害物質として、揮発性有機化合物、PAHs及び有害元素に関する調査を実施した。代替キャリアガスによるGC-MS分析条件を検討した。防炎加工剤3種、VC及び有機水銀化合物について、有害性評価情報の収集と評価値案を検討した。これらの成果は、家庭用品安全対策調査会における資料等として活用され、家庭用品規制法の改正や検査業務の効率化と安全性の向上に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202226013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
家庭用品規制法にて有害物質に指定されている防炎加工剤3種、噴射剤、木材防腐・防虫剤及び有機水銀化合物について、改正試験法を開発した。これらは、現行法よりも精度、効率性及び安全性の大幅な向上が期待できる。また、基準値が未設定の有害物質に関する有害性情報の収集及び有害性評価値を提案した。未規制有害物質調査では、揮発性有機化合物、PAHs及び有害元素について、その実態を明らかにした。これらは、今後の規制基準設定に資するものと考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床研究ではない。
ガイドライン等の開発
本研究で開発された成果は、薬事・食品衛生審議会化学物質安全対策部会及び家庭用品調査会に改正試験法として提案される。
その他行政的観点からの成果
平成29年度第1回 家庭用品安全対策調査会(平成29年9月28日開催)及び化学物質部会(同10月25日開催)において、家庭用品規制法の試験法改正の必要性が確認されており、本研究の成果が活用される。
その他のインパクト
本研究の成果は、全国衛生化学技術協議会及び各種学会等にて発表し、家庭用品規制法の実務者に情報提供した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大嶋智子, 角谷直哉, 山口之彦他
繊維製品に含まれる防炎加工剤のビス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェイト及びトリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェイトのGC-MS分析法
薬学雑誌 , 142 , 279-287  (2022)
https://doi.org/10.1248/yakushi.21-00197
原著論文2
Sugaya N., Inoue K., Tahara., et al.
Analysis and risk assessment of vinyl chloride emitted from aerosol products
J Environ Sci Health Part A , 58 , 284-294  (2023)
https://doi.org/10.1080/10934529.2023.2173925

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
202226013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
30,000,000円
(2)補助金確定額
30,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,533,665円
人件費・謝金 5,338,048円
旅費 521,182円
その他 10,609,445円
間接経費 0円
合計 30,002,340円

備考

備考
差額2,340円は自己負担した

公開日・更新日

公開日
2024-02-14
更新日
-